第4話 合同調査
目が覚めると硬い石の上で寝かされていた。体を起こせばゴリラのような巨漢が涙を流していた。
「おぉ、起きたか……良かった……良かった……」
「え、えと……どうも。」
「あぁ、すまない。私は本田慶三。今回の合同調査の指揮官をやらせてもらっている。君が黒鴉の黒崎さんでいいんだよね?」
「確かに私が黒崎ですけど……黒鴉?」
「あぁ、君たち調査団に所属してないだろ?」
「一応第四一七調査団の直下部隊なんですけど……。」
「あれ?そうなのか。赤井め……」
どこをどうしたら黒鴉なんて名前がつくのやら……。黒要素なんて私の名前と髪の色くらいしかない。髪色だって八神は茶色だし、ネキは金色だ。きっと鴉から連想されて黒なんてものがついたのだろう。
「おぉ、黒崎。起きたのか?」
「ナビが怒ってましたよ。自己管理がなってないって。」
「二人とも……。いまいち私今の状況が飲み込めて無いんだけど」
「そこの隊長さんがお前担いでここまで運んでくれたんだよ。」
「途中で急に眠ってしまうものだから心配してしまって。」
「どうもすみません。」
「いやいや。君達がここにたどり着くまでの軌跡は聞いたよ。素晴らしい。今後ともぜひよろしく。他の連中もそろそろ集まるはずだそうしたら、作戦を説明するよ。」
「作戦?」
「あぁ。実はこの先に厄介な奴がいてね。その討伐が先になりそうなんだ。」
「厄介なやつ?」
「あぁ。喰種ではあるのだけれど……異様に強くて……先遣隊は既にやられてしまった。」
「なるほど……。今日はとことん喰種に縁のある日だな」
「八神、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないですよ。」
「八神、充電は?」
「済ませた。」
「なら、問題ないね。私ももう充分回復したしナビ、さっきのノイズはどうなった?」
『今はありません。位置、バイタル、全て把握できています。』
「OK。なら、他の連中待って話を聞いたらすぐに行こう。」
「分かった。」
「おいおい、君たち」
「切り込み隊は私達がやります。」
「危険だ。」
「全員で挑むより、一隊がダメージを与えた方が効率的ですよね」
「まぁ……確かにそうだが。」
「隊長。あ、そいつら目を覚ましたんすか?ならいいや。作戦あるんでしょ?さっさと話しましょ」
「ん、あぁ。良いか君たち、くれぐれも勝手な行動は慎んでくれよ?チームで動こう。」
そういうと本田は集まった調査隊に向かって作戦を告げた。
「皆。わかっている通り我々はこの先にいる喰種を始末し先に進まねばならない。だからまず、二チームが先行して喰種と戦闘。そのまま討伐出来れば先に進む。出来ないようであれば後続の一チームと合流し、叩く!通路はそんなに広くない。飛び道具は乱戦時に他の味方に当たるかもしれない。使用を制限してくれ。」
「はいっ」
「それではチーム分けだが、黒崎隊と俺の隊が先に行く。井上隊はあとから合流してくれ。うちの案内人がそっちに合図を送る」
「おう。気をつけろよ。既に九人やられているんだ。」
「全滅するようならお前たちは逃げろ。戦闘データを受け継いで貰わねばな」
「本田!」
「では、黒崎チーム。準備できたら向かうぞ。」
「準備は出来てます。」
恐らく、彼の中にも私と同じ発想があったのだろう。しかし、私達が先に行くと言ったことで指示されなくても勝手に来てしまうと予想しそうなるならばと率いれたのだ。
「よろしく頼むぞ」
「はい。」
『八神、黒崎から伝言です。次の角でそこの三人を電撃で気絶させろとの事です。』
「まじかよ……。」
『全責任は私が持つ!と言ってましたよ。』
「はぁ……。お?いや、丁度いい。充電に使った黒ネズミがいる。奴らのせいにしよう。」
『……黒崎も黒崎なら八神も八神ですね。私は何も聞いてません。ネキ、あなたもあんな奴らになってはダメですよ。』
「なりたくてなれるものでは無いと思いますよ。」
次の角を曲がった時、八神の電撃で本田隊を気絶させ、ナビ経由で別働隊に彼らを預ける。何かが引っかかっているのだ。数時間前に戦ったあの喰種。ナビの話によれば人為的に作られた可能性を感じる。
本田隊長は「厄介な喰種」と言った。だが、喰種は数が多いと厄介だが一体なら大して問題ない。一番手っ取り早いのは遠距離異能者を配置し、コアをぶち抜く手法だろう。彼は先程遠距離を制限した。なにか理由がある筈。確かめねばならない。
「黒崎、いるぞ。」
『前方約二○○メートル先に標的捕捉。』
「それじゃ、ゾンビ退治しようか。」
「「「はいっ」」」
私とネキが先陣を切って先に進む。すると、全身が肉々しいピンク色の化物がいた。見る限り化物に目は無い。しかし、化物は私達の方に身体の向きを合わせると一気に距離を詰めてきた。
「こいつ!どうやって!」
化物は一直線に私に向かってきた。その間、ネキの幻影が攻撃を加えるが気にした様子もなく突っ込んでくる。
「「黒崎さん!こいつ目がないです!」」
「見りゃわかるよ!」
「「目がないってことはなにかほかの手段で周りを見ているはずですよ!」」
「あぁ。なるほどね。ナビ!最悪想定装備に手榴弾入ってたよね!」
『えぇ。ですが手榴弾でどうにかなる相手とは思えませんよ。爆発音で他の喰種が寄ってくる可能性が有ります。』
「くそっ。こいつ一体に注力しないと流石にまずいよね!」
振り下ろされた丸太のような太い腕を紙一重で回避し、その腕をナイフで切り裂く。どす黒く変色した血が辺りに飛び散り、異臭を放つ。
「くっさ」
「ウガァ!」
喰種は雄叫びと共に拳を振るう。拳は先程よりもかなり正確性を増し、徐々にかする数も増えていく。
「「黒崎さん!」」
横薙ぎに振り抜かれた拳を躱し足元に転がり込む。通過する際に両足の腱と太腿を切り裂いた。人間なら致命傷。数分で死ぬが相手は喰種。コアを見つけて破壊しなくては死にはしない。
「ウガ!」
体勢を崩して喰種は転倒。起き上がろうとするがうまく立つことが出来ず、転倒を繰り返す。
「やっぱり人型は楽だね。急所が人と似てるから。」
「黒崎!まだ来るぞ!」
殺気を感じ、その場から飛び退くと床に三本の針が刺さった。
「ほう。今のを避けるか。」
「おたく。どちらさん?」
「俺は見回り隊のもんだ。弟が世話になったみてぇだなっ」
『知性体!?どうしますか?黒崎!撤退しますか?』
「今は撤退できそうな雰囲気じゃないでしょ。でもまずいな……。ナビ、連中も異能使いそうな気がする。解析してもらえる?」
『りょっ了解。』
「ネキはいつも通り。八神は……うんまぁ頭働かせて。」
「出たよ無能指揮官」
「好きなようにやれば良い。ただそれだけだよ。」
「ふん、言わせておけば……。」
ネキは得意の物量戦。私は機敏に動いて相手の出方を探り、八神は先程の目無しと交戦。目無しは立つことができずにいる。
新しく出てきた方は針を投げ、的確にネキを潰していく。そして、私への警戒も怠ることは無い。まるで後ろに目でもついているかのようだ。
「くっちょこまかと面倒な奴らだ。オルダ!行くぞ!」
「ガァル!」
「させないよ。」
私は通路の壁を使って高速で飛び、再び接近を試みた。太ももから追加でナイフを抜き取り、知性がある方の首を一閃。返り血を浴びないように背後に回ったがその瞬間いつの間にか目無しの方が接近しており、まともに蹴りを喰らう。
「ぐッ 」
壁に叩きつけられ、痛みと衝撃で意識が飛びそうになるがすぐに再生が始まり、土煙が晴れるくらいには元通りになっていた。
「お前、今のをまともに食らって何故……。」
「生まれつき身体が頑丈にできててさ。ナビ、あれをこっちに転送してくれる?」
『五秒待ってください』
「あ、八神は?」
「問題ねぇ!今ばら撒き終わった所だ。」
「「「通路は塞ぎ終わったんですね?じゃあいっちゃいましょう」」」
「あ、ネキ、まさか……。」
『転送します。』
「え、いや、ちょっと……ま…。」
通路中のネキが腰の袋に手を入れる。そして、そこから手榴弾を二個取り出した。
「「「それでは皆さんご一緒に〜」」」
「バカ!」
空中に小さなゲートが現れ、そこからでてきた刀を手に掴む。急いで掩体を見つけなくては……。
次の瞬間。それ等は爆ぜた。爆発が次の爆発を呼び、通路中に広がっていく。あまりの爆風と衝撃で塔の壁も吹き飛び、近くに居た喰種やスケルトンも軒並み消し飛んでいく。
私も例外なく吹き飛び、また壁に叩きつけられたが再生と破壊のレースマッチの結果、再生の方が上回った。
ネキの幻影は軒並み消え去ったが八神の電磁バリアと生み出し続けた幻影で凌ぎきったようだ。
「「ふぅ。これでやれましたかね?」」
「ネキ、後で覚えておきなさいよ?」
「「あ、黒崎さん。無事で何よりです」」
「黒崎……お前なんで今ので怪我しないんだ?ほんとに」
今の爆発で満身創痍となったネキと八神は不思議なものを見る目でこちらを見ていた。
「……本当に不思議なものだな。お前、今の攻撃をどう避けたんだ?」
「言ったでしょ?身体が頑丈なの。」
目無しの方は今の無差別爆撃で吹き飛んだようだ。知性のある方はどうやら地面を抉り、隠れることで致命傷は避けたようだが瓦礫に潰されて身動きが取れないようだった。
『最早頑丈ってレベル超えてますけどね』
「うるさいよ。おい、お前、」
「はっはは。殺せよ。なんの為のその刀だ?さぁ。喰種のコアの位置知らねぇわけじゃねぇだろ」
「お前、誰が後ろについてるんだ?」
「は?はは。言わねぇよ。お前ら、調査員だろ?調査しろよ。ははっ。」
「……。そうかい。」
『黒崎、そろそろいくら貴女でも限界のはずです。そいつにトドメをさして下がりましょう。今の疲労度では全滅します。今のままならただの雑魚にすら負けるでしょう。』
「あぁ、そうだね。じゃあ、最後に聞かせてもらうよ。調査員舐めんな。」
最後の力を振り絞ってコアを一突き。蒼い焔が瞬く間に立ち上り、知性体の笑い声と共に消えていった。
「あぁ……もうダメ。限界。」
『再生』の使いすぎによる体力の消耗は確かに限界を迎えていた。刀を杖にやっと立てている状態なのだ。このあとの調査はきつい。ナビの言う通り、ここは一旦下がるべきなのだろう。
「なっ!大丈夫か黒崎チーム!一体何があった!」
目が霞む。音が遠く聞こえる。立っているのかそれとも倒れているのか分からない。不思議な感覚だった。
「無茶すんじゃねぇよバカ」
八神のそんな声を聞いたのが私の意識の最後だった。
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