第3話 塔内調査
朝。目が覚めるとしっかりと布団の中で寝ていた。その事に驚きつつ、シャワーを浴びてしゃっきりする。
『今日は早起きなんですね。』
「ナビっていつ寝てるの?ちゃんと寝てる?」
『さっき起きたところです。ご心配なく』
「そう。今日の朝ごはんは?」
『トーストとハムエッグですね。あとサラダがあります。』
「了解。今日はどの階層に行くの?」
『今日の調査フロアは第四階層です。ゾンビやスケルトンといったアンデット系が多いフロアになります。危険度もそこそこ高い。気をつけてくださいね。』
「分かったよ。これはネキには黙っておいた方がいいね。」
『もちろんです。ネキはアンデット系苦手ですから。黙っていてください。 』
「了解。じゃあ起こしてくる。」
ネキの部屋に向かうと八神が勝手に起きてきた。
「おはよう。今日はそこそこ難易度高いみたいだからしっかり準備して。」
「お、おう。分かった。」
「ネキー朝だよ!」
「む?あと二分……。」
「ダメ。ほら起きた起きた。」
「じゃああと五分……」
「増えてんじゃん。ほら起きろ。」
「……あれ?黒崎さん?どうしてここに?」
「寝ぼけてないで着替えて十分後に食堂に集合!」
「りょっ了解。」
「二度寝したら八神に起こしてもらうからね?」
「そ、それだけは止めましょう?」
「分かったらさっさと支度しな。今日はそこそこ難易度高いみたいだから」
「はーい。」
やれやれ、今日はまともに起きたか……。以前ナビが起こしにかかって全く起きず、逆に自衛のためか部屋中に幻影を生み出してその中に紛れていた事がある。その時は八神に放電してもらってネキごと痺れさせたのだが……。今回はそんなこと無くて助かった。
食堂で食事を摂り、軽く打ち合わせをする。もちろん階層は言わずに。
「今日は明確な調査目標があるから。それを達成するまで帰れない。一応三日は見てるからそのつもりでいてね。」
「調査目標ってなんです?」
「次の階層の出口が複数ある可能性が出てきた。だからその調査。」
『今回は元々別の調査隊に向けて発行された命令でした。』
「つまり……それって……」
『調査隊の安否は不明。ナビゲーターの話によればとある階層で未確認の階段を発見し調査した所、調査隊と通信途絶。その後の消息が分からなくなったそうです。私たちへの命令はその調査隊の安否確認と未知の通路調査です。そのためかなりの危険が見込まれます。一応、最悪想定装備は手配していますので後ほど確認してください。』
「今回は三個小隊で調査するから仲良くするように。」
「主にお前がな。」
「八神さんだって喧嘩っぱやいんですから気をつけましょうね。ただでさえ私達はあまりよく思われていませんから。」
「そーだねーなんでだろねー」
本来、調査隊は六つで一つの調査団となる。そして、総責任者として団長が各調査隊を管理し、現地調査に向かわせるのが習わしなのだ。にもかかわらず、私達の上部組織は無く、その分自由気ままに命令に従っていた。
『喧嘩したら三日ほど夕飯抜きますからね?その覚悟をした上でお願いします。』
「うぇ……。それはきついや。」
『黒崎?殺気を放って威嚇するのも無しですよ?』
「うぐっバレてるのか……皆、察知能力高めで羨ましいな。」
『殺気を出す側に言われたくないですね。そのセリフ』
「分かった。大人しく聞いてることにするよ。」
『是非そうしてください。』
午前十時。私達は塔の第四階層に足を踏み入れた。
「どこかと思えば……ここ、もしかして……。」
「ちっ感の良い奴……。」
「さーてどんどん行こう。あれ?ネキ顔色悪いね?」
「だ……騙しましたね?」
「え?騙してはいないよ?聞かれなかったし」
「「「ナビ、覚えておいてください」」」
『ネキ勝手に増えないでくれませんか?雑音が酷いです』
「「「怒りますよ?」」」
「はーい喧嘩すると晩御飯抜かれるよ。それより、ここは八神のレーダーもあまり効かない。慎重に進むよ。」
「下手すりゃ物理攻撃効かねぇからな」
「「どうやって戦うんです?」」
「塔で見つかった武器や塔で採れた金属で作った武器でなら攻撃が通るからそれでコアをぶち抜く。」
「ひっ!」
「お、これは実体がある奴だな。」
「グルルルル……。」
『喰種ですね。コアは鳩尾にあります。噛まれると最悪彼らの仲間です。気をつけて。』
「右の通路から多数来るぞ。」
通路を見れば、そこは既に何体もの喰種が屯していた。その数、ざっと見て100体近くいるだろう。
「ネキ、幻影を使って数には数で対応しよう。」
「でもあれって……。」
「あれはもう、化物だよ。ネキ。」
調査隊の末路でも、あれだけはなりたくない。というものがある。その一つが喰種。喰種になると酷い飢餓感から近くにいる人を殺して喰い始める。しかし、意識は人のまま。精神と肉体の乖離から自決も出来ずに塔の中を彷徨い歩く。だから調査団の中には喰種になった仲間がいたら即殺してやれ。という血契があるところもある。
「殺してあげよう。私達がっ。」
「あぁ、そうだな。」
彼らはこの世界に利用するだけ利用されて最後まで利用されてしまっている。殺すなら一撃で殺してあげよう。
脚力を強化し、一気に接近。掴みかかってくる彼らを身体を捻って回避その勢いで鳩尾を蹴り飛ばす。
「グァッ」
「おやすみ!」
次から次へと襲いかかってくる彼らを躱し、コアを砕き、処理していく。
周囲は蒼い焔に包まれ、彼らを解放していく。願わくば二度とこの世界に利用される事が内容に……。
後には身元照合用のタグと喰種の骨の一部が残った。
「グルゥァァァ!」
『特異個体確認しました。全員警戒!』
「うわぁ……何……あれ」
そこに居たのは全身を甲冑のような結晶で固めた喰種だった。背中からは結晶の槍が伸び、先端には何人かの人間が刺さっていた。
「悪趣味な串刺し公だな」
「串刺し公?」
「アーカイブで調べろ。」
「……帰れたらね」
「グルァ!」
風を切り裂きながら結晶槍が死体を押し付けてくる。背後から貫かれた死体は目がくぼみ、半ば白骨化していた為凄まじい臭気を放つ。
「そんな悪趣味な槍はへし折ってやる!」
槍を躱し、強化した脚力でかかと落としを槍に決める。槍に当たった瞬間足があらぬ方向を向いたが瞬く間に元の位置に戻る。
槍は余程硬いのか健在である。
「硬っ」
勢いよく叩きつけられたせいで先に串刺しになっていた死体は吹き飛び、壁のシミになった。
「グラァァァ!」
喰種は勢いよく私だけを狙い突きを放つが身体強化だけで逃げ、弱点を探す。コアは結晶で守られている。恐らく槍と同じ強度はあるだろう。
「八神ー派手にぶち抜いて!」
「今準備してる!あと三分待て!」
「「「準備できたら私達で止めます!私達ごとやってください!」」」
そういうとネキが続々とネキが増えていく。
「……お、おう。」
喰種が槍を振るう度、ネキの幻影が消えていくがそれより増える速度の方が上回っていた。ネキの幻影はそれぞれが実体を伴っている。増えたネキが次々と押さえ込みにかかり、蹴散らされていく。
「どれ、私も。」
ネキを踏み台に高く跳躍すると喰種の頭を掴みながら捻り真逆を向かせる。
「グキュッ」
元々死体とはいえ、破損した場合は元には戻らない。喰種は元となった人間の機構を使っているためだ。故に頭を潰せばしばらくは動けなくなる。しかし、死ぬ事は無いので一定時間動きを止める手段にしかならない。
「おら、特別製の弾丸食らっとけや!」
何を撃ち出したのか……。あの硬度の結晶を粉に変え、弾丸は吸い込まれるようにコアをぶち抜いて行った。
「……疲れた。」
蒼焔が上がり、戦闘終了を告げる。すると、緊張の糸が切れたのかヘタリと座り込んでしまった。
「そりゃあんだけ動けば疲れるだろうな。どうなってんだお前の身体。曲芸みたいな動きになってたぞ?」
「身体能力にただブーストするだけだからね。元の身体能力上げないと意味無いの。だから練習した。」
「へぇ。」
「そっちは?」
「何とか!バッテリー残量が60%になっちまった。」
「ひぃぃ……もう。疲れましたね……最後のやつ以外一体何人倒したのか……。二十より先は数えてません。」
「沢山いたよね……えっと……。」
『ネキのところに四十八人です。黒崎に二十四人、八神に二十四人で特異個体は一体ですね』
「2人とも私の半分じゃないですか!」
「適材適所だよ。ネキ。君は多数制圧に向いてる。」
「た、確かに……。」
ネキ、ちょろい。
「さて、少し休憩したら先に進もう。まだまだ道のりは長いから。」
実際は身体強化を使い過ぎた結果、第二異能『再生』の反動がきついだけなのだがそれがわかるのはナビくらいのものである。
『黒崎、その通路をまっすぐ進んでください。右手側にセーフティゾーンがある筈です』
「筈?」
『えぇ。今黒崎達の位置があやふやなんです。八神の磁気の影響かもしれないのでそこで休んでください。』
「ねぇナビ、合流ポイントはどのくらいなんです?」
『セーフティゾーンからなら近いですよ。恐らく他の隊もそこで休んでいるはずです。』
「さっきの奴らがその隊じゃなければいいけどな。」
『そういえば……結晶の喰種は何を落としたんですか?』
「タグと……結晶?みたいなやつ。」
『タグにはなんと?』
「『井上慎吾』だとさ」
『井上慎吾……。ちょっと待ってください。今調べて……。あ、ありました。思った通り、彼には結晶化の異能があったようです。』
「つまりあの特異固体は彼の異能が関係していると?」
『その傾向が強いようです。死後の経過時間と比例して異能を発現する喰種は増えます。しかし……妙ですね。彼の行方不明届けが出たのは3日前です。異能発現までの時間が短すぎる……。』
「確かにそりゃ気になるね。」
『すみません。この件は勝手に調べてみます』
「後ろから刺されないように気をつけろよ」
『その時は皆で私を守ってください』
「……はは。ナビらしい。」
身体を引きずるようにセーフティゾーンに向かうとゴリラのような巨漢が私を担ぎあげ、連行した。
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