7つの塔

神崎詩乃

第1話 会敵知性体

薄暗い通路、異質な雰囲気の石で構成されたそれらの上を歩き、灯りも程々に足を進める。時折、湿った風が鉄臭い血の臭いを運んでくる。また誰かやられたようだ。


私は今、世界が注目している「塔」の中にいる。この塔は200年前に地球に現れたらしい。詳しい話は学校で習ったが……忘れた。

人を瞬殺するような化物が跳梁跋扈し、正しく命を懸けた「調査」。そんな調査に駆り出されていた。

理由はいくつかある。

まず1つは私が異能を持って生まれたから。

異能を持って生まれたものは職業選択の自由もなく全て「調査員」にされる。大昔の日本なら酷いバッシングの雨あられだっただろう。だが、現代ではそれが当たり前とされ、異能者達の社会的地位は低かった。

もう1つは調査員になって初の変遷があったから。


この塔は2ヶ月に1度、フロアがガラリと変わる「変遷」がある。そうすると部屋の位置や化物の配置などが変わり、再度調査をしなくてはいけなくなるのだ。

調査員になって、強制的に学校に通わされ、強制的に塔に派遣される。

それが「調査員」だった。


「おい、黒崎、この先にでかいのがいるぞ?」

「どうしようか?」

『回避不能ですね〜あと2分程で会敵しま

す』

「逃げられそうに……ないですね。」

「じゃあしょうがない。殺し合うとしようか。」

私達も死にたくはない。だから調査員は基本3名1セットで組み、サポート役としてナビゲーターがつく。ナビゲーターは所謂監視役で調査員同士の抗争に発展しないように常に見張っている。


「八神、トドメ役。私とネキでコア探し!」

「はい!」

「放電するタイミングは指示してくれ。」


各々が武器を構え、いつも通りの打ち合わせを行うと会敵に備えた。


「……ゴア。」

『化物会敵。コード8番ネームは悪食。捕食行動に気をつけてください。眼は退化。音と嗅覚で襲ってきます』

ナビが情報をくれる。正面を見やると白くてブヨブヨしたトカゲのような化け物が這いずっていた。

「……気色悪ぃ」

「それじゃあネキ、行くよ。」

「はい!」


私の異能は身体強化。身体の一部を一時的に強化し、攻撃力をあげることが出来る。身体機能であればなんでも強化出来るため意外と戦えている。

ネキの異能は幻影。実態のある自分のコピーを生み出せる。一人一体しか出せないが全員が一気に幻影を繰り出すと数の暴力出押し勝てる。


まずは足を強化し、「悪食」とやらに突撃する。ネキが増殖している間に間合いを詰め、一気に肉薄。愛用のナイフでまずは足を1本貰っていく。


「ゴッゴガァ!」


耳障りな声が耳元を駆け抜けたが難なく躱し鼻先にナイフのカウンターを決める

「グァォ!」

「ふむ、見当たらないな。コア。」

「「「顎の下とかどうですか!」」」

既にネキの軍団が悪食に襲いかかっている。恐らくネキの言う通り顎の下にでもあるのだろう。

「よっと。」

私は悪食の背中に飛び乗ると上顎を力いっぱい蹴り飛ばした。

「うわっ」

突然上顎を消し飛ばされた悪食はコアを露出させたまま暴れ回る。さすがに立っている場所がそんな状況では飛び降りるしかなく、数人のネキを犠牲に着地した。

「「悠亜さん酷い!」」

「ごめんごめん。八神〜後よろしくー」

「おう。もうコア抜きゃ終わりか。じゃあ死ね。」

八神が持っている筒に蒼白い電気が流れると音を置き去りにする勢いで何かが発射された。何かはそのまま悪食のコアを粉砕すると勢いそのままに壁をぶち抜いていった。

「何撃ち出したの?」

「磁力で集めた砂鉄を固めた物」

「この辺砂鉄あるんですね〜」

『八神。この事を調査報告書に書いておいてくださいね。砂鉄も重要な資源です。』

「あ……了解。」

「さてと、悪食さんは何を落としてくれたかな?」

悪食の立っていたところには未だに蒼い焔が燃え盛っている。あと数秒で燃え尽きてしまうだろう。燃え跡を見てみると大振りのナイフの様な歯が2本落ちていた。

「歯か」

「歯だな」

「歯ですね」

『悪食の歯は武器に加工出来るためそこそこの需要があります。』

「ふぅん」

調査用の袋に『歯』を入れるとどっと疲れが出てきた。


「……疲れた。今日終わりにしない?今日の報告はナビのマップデータと八神の砂鉄、悪食の出現情報。これで十分でしょ」

「確かにそうですね。」

「俺もあと1発撃てるかどうかだし帰って休んだ方が良いかもな」

『……仕方ありませんね。ゲートを展開しますよ。』

「ありがとうナビ。」


ゲート。ナビの異能力である。いつもは私たちのバイタル情報と監視用のゲートが20程展開されているが帰還用のゲートは手間が掛かるらしく少し時間がかかる。


「おい、黒崎。気をつけろ。お客さんだ」

「えぇ……もういいよ」

「……ふむ。コアルスがやられたか。それに……そこの人間は探知ができるのか。興味深いな」

「ッ!?」

今まで化物は色々居たが言葉を発する事は無かった。言葉を発する化物……?いや、他の調査隊か?

「ナビ!情報は?」

『嘘でしょう……そんなはず……。その個体は……アンノウン。未登録です。』

身の丈は2m程。白い髪、白い肌を持ち、異質に進化した眼を持っているようだ。二本足で立ち、私たちと同じように言葉を発している……。

「おい、そこの男。何故我が近くにいることがわかった?」

「……。」

「だんまりか。面白くない。」

「……えーと、オタク、どちら様?」

「我は第三公国陸軍軍将ガルタ・エンドルフィンだ。」

「へぇ。第三公国の軍のお偉いさんがこんな所でどうしたんです?」

「大したことではない。ただ下の階層を散歩していただけだ。先の魔物。アレを倒すのに酷く苦労していたようだが……。お前らは何者なのだ?」


『……ゲート開きました!急いで!』

「3、2、1、GO!」

私は脚力を、ネキは幻影を大量展開して時間稼ぎしながら本体だけ移動、八神は筋肉を電気で動かし限界を超えて移動。それぞれがそれぞれの異能を使ってこの場からの逃走を図った。

「ふむ、逃げるのか。」

明らかに不自然なドアを開け、中に飛び込むと見慣れた部屋に繋がっていた。

「ふう、なんだろあいつ。」

「とにかく……逃げられてよかった。」

「報告書の記載事項増えたな。」

『記載だけでは済みませんよ。後日理事会があります。その席で報告してもらいます。』

「ゲッ。マジで?」

『マジですよ。あ、理事会中は黒崎の口、塞いでくださいね。』

「えぇ。酷いなぁ。」

「毎度やらかしてるもんなお前」

「だってムカつくんだもん。」

理事会。月に一度この国のお偉いさんが態々私達調査員の話を聞きに来る会議だ。各調査団、各隊の調査報告の場である。そこで私たちの調査能力が比較され、報酬に関わっていく。

任務から戻って直ぐに調査日報と報告書……。全く……面倒くさい事この上ない。

「黒崎さん手が止まってますよ〜」

「どうせ書いたって明日問いただされるんでしょ?無駄じゃない?」

「確かに」

「流されるんじゃねぇよネキ!」

「でも、確かにその通りじゃないですか。」

「まぁ、そうだけどさ」


そう。どうせ書いても明日の理事会で根掘り葉掘り聞かれるのだ。それならばある程度書いて置けば伝わる。

『報告書と日報が描き終わったら机の上に置いておいて下さいね。本部に送るんで』

「はーい」


返事はすれど筆は進まず、そのまま遅くなるまで書いていた。


翌朝。

目を覚ますとナビが皆をたたき起こしにかかっていた。ナビは自分の部屋から出てこないので遠隔操作のマニピュレーターが手となり皆をベッドからたたき出していく。

『皆さん?朝です。さっさと起きてください。今日の朝ごはんはトーストとハムエッグですよ。』

「……眠い。」

『ネキを起こしてください。』

「えーあの子凄い寝起き悪いのに?寧ろ気の済むまで寝かせた方が安全だよ?」

『二時間後に理事会です。それ迄にきちんとしなくては。』

「朝からナビは元気だね。」

『皆が不健康なだけです。』

「そう……。」


正直、ネキを起こすのはちょっと不安である。

「ネキ〜朝だよ……?あれ?」

ネキの部屋を開けるとそこには鏡に向かって髪を梳かしている乙女のようなネキがいた。

「あ、おはようございます。」

「へぇ。驚いた。ネキって乙女だったんだ。」

「理事会は評価の場でもあるのですよ?身なりは大事な要素です。黒崎さん、座ってください。」

「え?私は……いいよ。八神起こさないと」

「いいからいいから。」


無理やり座らされるとネキは丁寧に髪を梳かしはじめた。


「なんか……意外。」

「失礼な。大体黒崎さんも髪の手入れを怠らない方がいいですよ。」

「寝起きがクソ悪いネキに言われちゃうとなぁ……。」

「うるさいですよ。全く。」

『2人とも?食事ですよ。八神は既に行きました。』

「あっはーい。」


食事を終え、それぞれ自由時間を謳歌すると程なくして防護服のようなものに身を包んだ人が迎えに来た。


「臨時理事会です。まずはこちらを。」


差し出されるのは異能力を制限する腕輪と足枷。これをつけると異能力を発現しようとしても発現出来なくなる。異能因子がどうたらと説明されたが忘れた。異能者の反乱を恐れた人々に開発されたものだ。装着せねば外には出られない。

「毎度毎度凄い警戒さだ事。」

「すみません。本来なら命を懸けてくださってる調査員さん達に……。」

「いいよ。貴女がわかっているのならそのうち変わることもあるでしょ。」


車に載せられ、重厚な造りの建物に囚人のように連行される。これより開かれる理事会はきっと荒れることだろう。


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