第5話 怒り

「おかしいじゃないですか! 犯人がわかってるんだったら、さっさとフダとって逮捕しましょうよ!」


 美由紀が水上課長のデスクに手をついて身を乗り出すと――


「だからいったろう、ヤツは日便連会長の息子なんだぞ。日便連は国連人権監視委員会の報告者でもあるんだ。

 不当逮捕とかなんとか騒いでプロの活動家を一万人規模で内外からかき集めることもできる。

 そんなヤツらにこの庁舎を取り囲まれてみろ。おれは責任をとらされてクビだ!」


 水上課長が渋面をつくって却下する。


「そんな……」


「ちょっときて」


 不平を鳴らそうとした美由紀を玲香が部屋の外へ連れ出した。

 地下4階の駐車場まで降りると、駐めてあった黒のハッチバックワゴンに乗り込む。


「どこへいくんですか?」


「あんたは後ろ」


 助手席に座ろうとした美由紀を玲香は後部スペースに追いやると、スポーツバックを彼女に放り投げた。


「それに着替えて」


「だからなにを?」


「犯人を捕まえたいんでしょ」


「そりゃ、もちろん」


「エサを撒くのよ」


 そういうと玲香は美由紀の返事も聞かずに、ワゴンを発進させるのであった。


    つづく

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