この物語は、文字の力だけで読者の恐怖を呼び起こす

 冒頭を読んだとき、猟奇殺人の犯人を追いかける物語なのかと思いました。しかし読み進めていくと、事件の裏側に潜んだ鬼を追いかける物語なのだとわかります。

 鬼なんて派手なネーミングですが、この鬼が取り付いている人間が、なにげない日常に隠れてしまうほど特徴がないため、捜査が難航して、第二、第三の被害者が出てしまいます。

 この犯人が怖いのです。もし我々の暮らしている現実世界に、この犯人がいたら、間違いなく見つけるのが困難だからです。大声で威嚇するチンピラよりも、無言で近づいていきなり攻撃するサイコパスのほうが怖いのと一緒ですね。

 では、そんな風景と同化した犯人にどうやって対抗していくかといえば、幽霊の見える高校生が、幽霊たちの手助けによって、少しずつ情報を集めていくことになります。

 ですが、この幽霊たちも、出会った当初は怖いわけですよ。だって心霊現象なんですから、敵なのか味方なのかすらわからないわけです。

 ようやく幽霊が味方だとわかってからも、それ以上に犯人と鬼が狡猾なので、いつこの高校生たちも被害者になってしまうのではないかとハラハラドキドキしながら読んでいくことになります。

 このハラハラドキドキを生み出すのが、作者の技ですね。おもに構成力と文章力が原動力です。犯人像を隠すのではなく、あえて犯人の視点を混ぜることによって、少しずつ主人公たちの安全が脅かされていく流れが可視化されていくわけです。おまけに文章力が高いため、読者の恐怖を揺さぶるシーンが、適切に怖く演出されています。

 だから物語を佳境を迎えてくると「この犯人、捕まえるの無理じゃないの?」と思うぐらいに絶望感が出てきます。

 はたして犯人は捕まって、鬼の問題を解決できるのかどうか? それを見届けるのは、このレビューを読んだあなたですよ。

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