220日目 【狂った歯車】

新型ウイルスの発生から約7ヶ月が過ぎた。

この7ヶ月の間に、爆発的にウイルスの感染者が増えて、たくさんの死亡者が出た。


新型ウイルスの感染者の増加によって、都心部や病院はパニック状態になり、医者や看護師たちは疲労困憊ひろうこんぱいして、ほとほと疲れ果てていた。しかし、爆発的に増えた感染者たちの多くに新型ウイルスに対する免疫ができていた。


体内で抗体が作られ、新型ウイルスに対する耐性ができたのだ。


爆発的に増えていた新型ウイルスの感染は、やがて横ばいになり、そして、下降曲線を描きながら感染者は減少に転じた。


前よりもテレビでは新型ウイルスの報道が少なくなり、徐々に経済活動は再開され、社会が冷静さを取り戻し、学者がこの7ヶ月で起きたことを分析してみれば、PCR検査で陽性と判断された患者の中には、インフルエンザや水虫、持病の患者が混ざっていることが発覚した。


PCR検査は些細な症状や菌に反応してしまうため、実際の新型ウイルスの感染者はそれほど多くなかったという結果に終わったのだ。なんともお粗末な結果である。


新型ウイルスの陽性反応が出たにも関わらず、肺機能は至って普通だったという人はインフルエンザや水虫、持病だった可能性があるということだ。


本当に苦しい思いをした新型ウイルスの感染者は肺にチクチクととげが刺さったような痛みだったという。


中国の研究所から漏れた新型ウイルスに最初に感染した研究員のチャンは、軽い症状だったがアレは初めて人体に入ったので変異していない状態だったのではないかと秘密裏に研究員たちは推測していた。


生物兵器として開発されていた新型ウイルスは、体内に入ってからすぐに治療しなければ体内で増殖して、さらに変異するという性質たちの悪いものだった。生物兵器として他国を痛めつけるためにはうってつけの武器である。


新型ウイルスの発生から都市封鎖ロックダウンが起きて、世界中の人々が自宅待機を余儀なくされ、リモートワーク・テレワークによって自宅のパソコンで仕事ができる人を除いて、何も仕事ができない自宅待機者が多くいた。


そのため国が生活費の補填をするために一時給付金を配布した。その金額は国によってバラバラである。


日本は1人につき10万円で他の国では20万円だったり、30万円の給付があった。それだけではなく企業への補償も必要なため、日本やアメリカ、イギリスでは量的緩和政策に踏み切り、株価を買い支えていた。


日本銀行、FRB(連邦準備制度)、イングランド銀行(BOE)はお金を刷りまくった。


経済活動の自粛にも関わらず、株価は上昇し、社会活動はままならないまま、社会に流通するお金の量だけが増えているのだ。


借金が少ない国は、この新型ウイルスの件で国債を発行するなどの手立てを講じていた。


元々、借金だらけの国である日本は円安になり始めた。アメリカも例外ではなくドル安である。


このまま基軸通貨として機能していた米ドルがどんどん安くなっていけば、対外純資産で米ドルを世界一保有している日本は、円の信用価値を失い円安に拍車が掛かるという悲惨な状況になりつつあった。


新型ウイルスによって企業の倒産が相次ぎ、さらに失業者が溢れ返り、やっと新型ウイルスの影響が収まったと思えば、今度は物価の上昇である。


国が補償するのは大手企業だけで中小企業の倒産は見て見ぬ振りをしている。個人事業主も同じで国に補償の申請をしても20万件の申請で通ったのはたったの3件である。


2019年までの正常な社会から突然、人類が今まで経験したことがない不測の事態に見舞われてしまったのだ。


この狂った歯車は元に戻らないだろう。


正常な社会、元の社会に戻ることはなさそうだ。もしかしたら10年後にはまた景気は良くなっているかもしれない。しかし、それは元の社会に戻ったのではなく新しい社会構造に生まれ変わったということである。


2019年までに存在していた社会は、もうのだ。


新型ウイルスが人類の社会活動を破壊して、それを持ちこたえさせるためにおこなった国の政策によって社会の歯車は完全に狂ってしまった。


PCR検査の陽性反応も半分は間違っていたことから、陰謀論が再度浮上している。


最初からという疑問は拭い去れなかった。


”あの日”から、すべては始まり、その始まったときが”すべての終わり”であったのだ。


国同士の対立はますます激しくなり、最終的に戦争に行き着くことになる。


これからが本当に人類の英知が試されるときである。

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