210日目 【違う角度から考察するお金持ち】

個人で小売店を営む26才の夫婦(光夫みつおとまなみ)が20時の閉店後にノートパソコンのソフトを立ち上げてビデオチャットを始めた。


光夫「やれやれ、新型ウイルスの影響で売上が厳しいね」


まなみ「仕方ないわよ。ウチはまだ持ちこたえてるけど家電の販売や服飾関係、美容室とトレーニングジムなんかはバタバタと経営破たんして、店を閉めはじめてるじゃない」


光夫「そうだね、ウチはまだ食べていけるだけマシかもしれないね。こういうときはシンガポールにいるさとしさんとライブチャットをやって相談に乗ってもらったほうが良さそうだね。普通の人とは違う見解が聞けるかもしれないからね」


まなみ「そうね。さとしさんと花さん、今どうしてるんでしょうね?

この状況でもバリバリ働いてるのかしら・・・」


新型ウイルスの発生から一気に需要が拡大したクラウド型web会議zoomを使って、海外に移住したお金持ちの知人とライブチャットをする人が増えた。


日本国内であたふたするだけではなく、海外の情報を正確に聞きたいという心情である。


ノートパソコンのモニターに聡さんと花さんが映った。2人は笑顔で手を振っている。


光夫とまなみは頭を下げて「こんばんは、よろしくお願いします」と挨拶をした。


聡「やぁこんばんは!光夫君、まなみちゃん、元気?」


光夫「ええ、僕らはなんとか食っていけてます。そっちは新型ウイルスの影響はどうですか?」


聡「こっちも自粛はあったよ。渡航制限もあったし、ホテルや観光業はダメだと思うよ。オレは自分の事業がダメでもたくわえがあるからね。あと投資のほうで利益を出してるから余裕だよ♪ガハハッ」


相変わらず豪快な人である。この人と話していると何があっても大丈夫な気がしてくる。いろんな人脈を持っていて、生きた情報を持っている富豪である。


光夫「日本やアジア圏では、それほど新型ウイルスの影響は出ていませんが欧米はどこも感染者の数と死亡者の数が多いですよね」


聡「そうだねぇ。やっぱり食べ物がダメなんだろうね。最近の食べ物は農薬や防カビ剤が入っているからね。モロに影響が出たんじゃないのかなぁ。

アジア人は海藻類を食べるでしょ?主食が米だしね。暑い地域のほうがウイルスが弱ってるって可能性もあるよ」


光夫「はぁ~確かにそうですねぇ」


聡「あとオランダやスペインなんかは売春天国だから感染が一気に広がったみたいだね。まぁあんまりこんなことは言いたくないけど不特定多数と接触行動してるからね」


光夫「なるほどです。経済のほうはどうですか?回復の見込みはありますかね?」


聡「そうだねぇ、あと半年ぐらいは厳しいかもしれないね。都市封鎖ロックダウンは解除されたけど夏が過ぎて秋ごろになったらインフルエンザと新型ウイルスが同時に流行りだして、また都市封鎖ロックダウンが起きるんじゃない?

経済活動はなんとか政府のテコ入れでギリギリ保たれるんだろうけど、中小企業で体力がないところは倒産するだろうね。倒産、破綻、リストラが爆発的に増えるよ。

それはどこの世界でも同じでからね」


光夫「そうですよねぇ。何か僕たちにも対策できることはありますか?」


聡「とりあえず食糧は確保しといたほうがいいね。保存が効くやつね。

光夫君は小売業やってるからオンラインショップに力を入れていけば食うには困らないだろうね。

新型ウイルスの影響で企業の倒産と失業が増えたら、今度は空き巣や強盗の犯罪が増えるから気をつけなよ。オレと花は街はずれに住んでるから大丈夫だけど、都会に住んでたら何が起きるか分からないからね」


光夫「はい、気をつけます。ますます物騒な世の中になりますね」


聡「そうだね、世界中で経済がヤバくなって犯罪が多発してるからね。あと半年ぐらいで新薬の開発は可能だろうけどね。そうなったら一気に株価が上がって、経済活動が戻ってくるさ。新薬さえあれば発症しても関係ないからね(笑)」


相変わらずの強気の発言と冷静で論理的な思考をしている聡を尊敬しながら、感謝の言葉を述べてライブチャットを終了する光夫とまなみだった。


光夫とまなみは少し元気を取り戻した。自分たちの見解だけでは先行きがまったく見えなかったがシンガポールに在住している富豪の聡さんの新型ウイルスの考察とこれからの経済の予想を聞いて、なんとなく安心感が広がった。


光夫とまなみには新型ウイルスは脅威でしかなく、自分たちが経営している小売店もこれからどうなるのか不安でいっぱいだった。


人間は不安と恐怖があるとき、冷静な判断や未来に対する明るい予測はできないのだ。きっと数々の不安や恐怖をプラスに変えてきた富豪の聡さんだからこその考察である。


聡さんは50才だ。今までどれほどの苦労を乗り越えてきたのだろうか・・・。

光夫はまだ26才である。聡さんの半分の人生しか経験していない。


光夫は、少しでも自分が経験したことがない”痛み”があれば、すぐにおびえてしまうことを自覚していた。しかし、事業をおこし海外に移住するまでに至った富豪の聡さんは”痛み”があっても、そんなものはものともせず次の一手を考えているのだ。


その次の一手を考える力が肯定的な生き方に結びついているのではないかと光夫は思った。


ニュースの報道や周りで話す知人や友人とは、まったく違う角度から考察しているお金持ちの見解は非常に勉強になった。


ここ最近、不安でぐっすり眠れなかった光夫は、この日やっと深い眠りにつくことができたのだった。







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