もう「ゴール」はしない
「挑戦の年」と銘打って、いくつかの事に挑んできた。振り返って、「ああ、○○もしたな」と懐かしむのは、来年度以降で構わない。
僕は作家・Sとしてのグランドフィナーレに一大イベントを画策した。
【第一回:
これは僕が企画・運営する自主企画にして私設文学賞だ。
懐古しないと言った矢先だが、思い返せば、未だ書籍化していない僕を支えてきたものの中には、他のWeb作家の自主企画で表彰されたことがあるという、他者評価だった。
先輩であり、同じ志を抱く友―ライバル―という令和にとっては古臭い間柄の作家さんからいただいた第一回白樺賞・銀賞。
まったくかかわりのなかった作家さんからいただいた第四回吹雪賞・キャラクター賞。
有り余る自信の論拠としてこれまでを支えてくれたことは言うまでもない。
だからこそ、「ヤンデレ作家」としてようやく立ち位置が定まりつつある今だからこそ、僕が私設文学賞・第一回春日野賞を開催すると決めたのだ。
とは言え、作家を始めるに至った当初と違い、春日野賞は天啓として突然思いついた訳ではない。
質問箱がほぼ毎日動いている訳だが、そのうちの一通にコンテストをしないのかといったような趣旨の質問があったのだ。
まさに時運の赴くところに、僕はあらねばならぬといったある種の英雄的自負によって、開催に関する初項を考え出したのだった。
計画上は特に問題は無いように思われた。だが、懸念点は二つ。
一つは、僕が全ての応募作を読むことが出来るのか。これは、完結済みであり、一万文字以内という制約によって、解決とした。
ふたつめは、応募作の数である。
この春日野賞は、名に戴く春日野賞を一位とし、次に銀賞・銅賞と応募作の中から三作品を僕が独自に表彰するという目的がある。
そう、三作以上の応募がなければ、成り立たないのである。
そんな漠然とした不安も抱えながら、ある日の朝、僕は企画を開始した。
するとどうか、瞬く間に40作以上のエントリーが表示されているではないか。
そう、Web作家はすべからく、書籍化というはるか遠い目標は勿論の事、「誰かに読んでもらいたい」という身近な目標も強く抱いているのだった。
作家・Sとしての今年最後の大仕事。
これまでに支えてくれた幾人かの人々の想い。
そして僕にとっての生きる
春日野賞で出逢った数十作の波動。
アニメ版エヴァの碇シンジのラストの台詞「僕はここにいてもいいんだ!」というものがあるが、僕はその先へ進むことができた。
他者評価・承認欲求で自己を再認識するのではなく、自分の考え、創造したものが、他者の価値観を変化せしめる。
「ヤンデレなんて今まで読んだことがなかったけど、食わず嫌いでした!」
「予想外のラストでしたが、私はこういうラスト、好きです」
こういった感想を多くいただいき、「僕にしか出来ないことが確かにある」と気が付いたのだった。
これは麻枝准にだって書けはしない。
僕の小説をゲーム化・アニメ化するにはお粗末だと麻枝准は言うかもしれないが、それもまた逆説的に僕にしか造り得ない世界だということでもあるのだ。
ひたすらに<あの夏>を追い求めて今まで走ってきた。
僕は<あの夏>の片鱗を体感したが、全てを実感することはできなかった。
でも確かにそれは、≪僕の夏≫だった。
収録された曲が一周し、再び部屋が静寂に包まれる。
僕はおもむろに立ち上がり、再生ボタンを押す。意志を帯びたその瞳は、すぐにパソコンへと視線を移す。
今までに何度往復したかは分からないが、今年、何を行い、何を考えてきたのかはつい先程のことのように思い出せた。
『風の辿り着く場所』が空気を振動する。もうすぐこの街にも雪が積もりだしそうだ。
あの夏が終わるまでに 綾波 宗水 @Ayanami4869
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