第三章
「量産型製造過程における比較研究」に関する論考
「これが、これがプラモデルなのか!」
達成感からくる激震が走ったのは翌朝だった。
ある日、僕は「作家・S」としてではなく、単純に僕として課せられた役務を全うするべく、街へ出ていた。
その詳細はあえて控えるが、自由な時間の間に、近隣にあるお店をあてもなく覗いては出ていくという俗にいう冷やかし行為に耽っていた。
そんな折も折、とあるお店でとあるプラモデルを見かける。
この私記を読む者にとってはおなじみの『風の谷のナウシカ』に登場する「ガンシップ」という戦闘機だ。
興味をそそられるのは当然として、今思っても驚いたことに、僕はその商品を購入すべくレジへと運んでいたのだった。
僕はプラモデルを作ったことが無いのにもかかわらず。
これまで、少ないながらもフィギュアであれば買ったことはある。しかしながら、プラモデルは「大変そう」といった先入観であえて遠ざけてきた。
まるで蟲に憑りつかれたかのように、あるいは「ナウシカなら買わざるを得ない」という経済と綿密に関係しあった昨今のオタク文化の現れかのように購入していたのだった。
余談だが、ナウシカグッズは非常に少ないという事実が判明している。
察するに、映画『風の谷のナウシカ』が上映されたころはまだ「スタジオジブリ」が設立されていなかったというのが理由だろう。
すなわち、ジブリの作品ではあるものの、厳密に、また時系列的に言えばそうではないという事情が、グッズ製作によろしからぬ働きがあるのだろう。
閑話休題。
プラモデルを作ったことがないくらいで大げさな、とお思いかもしれないが、実際は、赤ちゃんが一挙手一投足を褒められるように、初心者もまた、意外なほどに無知なのである。
幸い、友人にガンプラを主とするプラモデル作り経験の長い方がいたので、全てにおいて質問させてもらった。
若き日のエジソンが小学校教員に対し、質問攻めにしたがゆえに退学となったという話があるが、僕も呆れられてしかるべきな質問を投げかけていた。
その方なくして、この段は存在しえなかっただろう。
論語における『知らざるを知らずと為す、これ知るなり』や徒然草の「仁和寺にある法師」における教訓・「少しの事にも先達はありたいものである」を実践するが如き質問にはこんなものもあった。
「何を買えばいい?」→まずはニッパーとデザインナイフ
「この図の意味が分からない」→二度切りと言って………
「そもそもデザインナイフっていつ使うの?」
無知の知は結構だが、これでは無恥とされかねない。
とは言え、聞かずして始めることすら出来ないのも事実。友情のありがたみもプラモデルでもって体感したと言える。
さて、時間は過ぎ去りつつも、徐々に容量をつかめてきた僕は無事、人生初のプラモデル製作を完成という形でゴールすることが出来たのだった。
「これが、これがプラモデルなのか!」
冒頭の時間軸へとようやく辿り着いた。馴れない作業と、張り詰めた緊張、そして製作したのが夜だったので、一日の疲れのピークという事もあって、友人とTwitterに報告を済ませたその直後、僕はスヤスヤと眠ったのだった。
いやはや、余韻などというものは微塵もない。
ところで、この段の副題はいやに堅苦しいが、それは先行研究を身をもって体験したからである。
この驚嘆の言葉は、達成感だけでなく、その先行研究が瞬く間に脳裏をよぎった感動への称賛でもあったのだ。
ではその先行研究とは。
アニメ「げんしけん」8話である。
オタクサークルの面々が、ガンプラと思しきプラモデルを作るというのがその回のストーリー。
これから先はネタバレを含むので、読み終えてもらっても構わない。とは言え、私記であるがために、盗み読みをしているか、僕が渡したかのいずれかだと思うが、それでもやはり注意喚起の義務を感じるのは当然至極。
***ネタバレあり***
「げんしけん(現代視覚文化研究会)」は一人の女性キャラを除いて、全員がオタクであるが、その一人が、丹精込めて作ったプラモデルを壊してしまう。
オタク嫌いであるが、毎日頑張って作っていたことは知っていたため、正確なセリフは忘れたが、
「ごめんね、弁償するから!」
とすぐさま謝る。
だがしかし、そんな彼女に、あるキャラがこんなセリフを言った。
※こちらも正確なセリフは忘れました。ニュアンスだけしか覚えていません。大事なところなのに…………
「弁償されたとしても、それは全く別物。プラモデルは単なるオモチャじゃない。」みたいな。
いや、この覚えて無さは、皇帝だなんだと言うよりも恥ずべき失態ですが、書き続けるしかない!
つまり、フィギュアであれば、買い替える、あるいは売るといった行為は出来なくはないのに対して、
プラモデルは唯一無二にして、名実ともに努力の結晶なのです!
力不足から、塗装はしないという決断を下したのですが、仮に「塗装済みのものをタダであげるよ」と言われたとしても、僕は自分のものだけを大切にし、拒否する事でしょう。
そして、改めて感じた、いや、証明されたことは、小説やPowerPointスライド、そしてプラモデルといった、如何なる創作分野であろうとも僕は至上の幸福と生きることへの渇望を見出さざるを得ないという事である。
僕はもはや、商業の如何にかかわらず、生涯、執筆などの創作活動をして生きていくことだろうと、今となっては信じて疑わない。
……『僕がプラモデルから学んだ3つのこと』という題名で出版の可能性アリ?
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