天才と天才とが、出逢い惹き合い昇華していく物語。
題材そのものは、決して目新しいものではない。しかし、それでもこの作品が読者らの心を揺さぶり続けているのは、その洗練された語句にあろう。刀を打つ名匠が、微妙な炎の色を見極めるようにして、語を撰ぶ。彫刻家が、木に宿る女神を抱き上げるようにして、一切の無駄を削いでいく。
四千文字弱。必要にして充分な、粋。
故に、読者はその行間に息吹を感じることができる。生き生きとした登場人物たちの姿を肌に感じ得るのだ。
『短編』という物語形式が持つ力を、この作品は教えてくれたように思う。
紛れもない傑作です。文字って凄いなあと、改めて思っちゃうくらいの傑作なのです!オススメですよっ!
夏が来た! 球児たちの熱い夏が。
全国高等学校野球選手権大会、所謂「夏の甲子園」への出場を懸けて、六月の下旬から地方予選が始まる。
そこには、連覇を目指す強豪、復活を期する古豪、牙を研ぐ新鋭らが集う。
郷土の期待を担い、母校の誇りを胸に高校球児たちの闘志が激突するのだ。
これは、女子マネージャーの視点で描かれた、ある古豪野球部のひと夏の戦歴である。
不器用で暑苦しいと言われる部員、渋沢巧(しぶさわ たくみ)。
最後の夏、ベンチ入りメンバーとして受け取った背番号は、おそらく20番だろう。
監督のあからさまな態度が彼に対する期待の薄さを示していた。
ただ、渋沢巧はひたむきに練習に励んだ。
常に誰よりも声を出し、部員たちを元気づけた。
そして迎えた準決勝。対戦相手は甲子園常連校だ。
ここに至るまでも、渋沢巧には試合に出場する機会はめぐって来なかった。
当然出たいはずの彼、何とかして出してやりたいチームメイト。
果たして、監督の口から「代打・渋沢」は告げられるのか……!?
渋沢巧と主将・高岡圭介ら仲間たちとの熱い友情と信頼に胸を打たれた。
まぎれもなく、『夏、栄冠はきみに輝く』は素晴らしい青春讃歌だ。
人生のこの時期、この瞬間に与えられた……否、勝ち獲った光り輝く栄冠を、
全国にいるであろう「渋沢巧」の頭上に見た。