後編: 森のアカネ
焼け落ちた館の
朝日がまぶしい。
森の向こうは広大な平野。
人間の
始祖ロムレス王が建てた国が、よく続くものだと彼は感心した。だが、それがそのまま自分の年齢だから、教えてもらうと助かる。
アカネは、洞窟の暗がりに目を向けた。
「エッラの救出に専念しよう」
カタリナの家で二度ほど会った、
アカネは思う。エルフでそして火に属する自分にとって、土の気が満ちる奥は死地のようなものだ。
◇
ノーラは岩屋に結界を張ると入り口の方を向いた。洞穴の向こう、外の光が丸く輝いている。
周りには、彼女の研究員である
その魔力は使えたが、ぼろ布姿を見てノーラはうんざりした。これからは、村の死者を
彼女は再び入り口に向き直った。
逆光の中、細い影が近づく。朝日を背にして、その髪は燃える赤と黄金の
「
「
「火を恐れるなんてどういう事?」とノーラはいぶかった。
だが、まぶしい侵入者へ手のひらを向け、詠唱をはじめる。
瞬時に呪文を変えて、ノーラはふわりと着地し、ふり返った。
結界の中に、赤毛の狩人が立っている。
ノーラは慎重に、短い呪文を積み重ねた。
アカネは、無駄だと思いながらたずねる。
「少女をどこへやった?」
ノーラは、ささやきを止め答える。
「それは私の、予備の体の事?」
瞬時、アカネは怒りにかられた。が、足に土が
すぐさまノーラは詠唱して「即なる死」と指を向ける。
アカネの目の前で、暗黒の球体が一瞬で閉じた。
のけぞった上体を起こし、彼は真っ青な顔でふうと息を吐いた。
ノーラは
今ので寿命を300年は
彼女は相手を知ろうと作戦を変えた。
「私たち、元は同じかしら?」
アカネが息も絶えだえ答える。
「なぜ今さら死体降霊や魂転移なんだ?
あと200年は健康だろ?」
「その先の、安心がほしいの。
知ってるかしら? これは神の善意から生まれた人間の研究。笑えるじゃない?
無益な命を、私が有効に使うのよ」
その時、アカネの両手で鬼火が舞い、消えた。
「詠唱が無い?」とノーラは
「我は、エルモラノーラ・テネブリセルフ!
答えよ!」
「
おれは、エルヒノア・アカネ・ロムレス・インギセルフ」
ノーラは
「
「最高位精霊の
両手が輝き、アカネの身体も髪も、真紅から黄、そして白へと光り出す。足元の土がどろりと溶ける。
ノーラは
やがて、恐るおそる開くと、暗闇の中に一人だけだ。
ふとノーラの首筋に、銀光の刃が触れる。恐怖に満ちた顔のとなりに、アカネの赤髪が浮かぶ。
「
背後から抱かれたノーラと、アカネの影が白く輝く。
岩屋に、黒魔術師の絶叫がこだました。
◇
夜の森。
肩に毛布をかける少女が、焚き火を見つめる。黄色寄りの黄緑の髪。
となりでアカネが剣の手入れをしていた。
かつて異邦の剣士がそれを返してくれた。思い出して、彼の口もとがゆるむ。
ふと、エッラが剣を見つめていた。
アカネが「ほら」と
「変な奴だ。持つと将来、彼氏できないぞ」
アカネが
◇
毛布にくるまるエッラの寝顔を見ながら、アカネは魔法使いも思い出した。
「失恋する剣」とホラを吹いた男。
確か奴は、孤児となって魔法学院に入ったのではなかったか。
アカネは決めた。
エッラを王都へ連れて行こう。自分はこの子の人生全てに付き合えるが、彼女自身が道を切り
その後は、自分の妹に会いに行こう、と。
森のアカネは、無理をしない。
考えすぎて自らの心を
生きる情熱の火が消えることはない。
彼はそんな、長命の種族。
エルフの火 仇なす者を焼きつくさんと 王立魔法学院書記官 @royal_academy_secretary
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