エピソードが非常に生き生きとしている

プロローグから文章の質が高く、作品世界に引き込まれます。

魔物と「契った」という母親から「魔人」の能力を受け継いだ主人公が、生まれ育った「里」を出て侯爵に雇われるところから、本格的な物語が始まります。それは自分のルーツをたどる放浪の幕開けでもあり、
「生まれてこなければよかったのに」
という、母親からの呪いの言葉に立ち向かう、たたかいの記録でもあるようです。

ここまでの紹介で明らかなように、いわゆる魔法などが登場するファンタジックな世界観ですが、さまざまな貴人の思惑が交錯する政略ドラマとしての要素もあり、いろいろな方面から入っていける作品かなと思います。狂言回しが少女であるところ、その少女が秘めたる力を持っているところも、ドラマ全体の構成をしっかりしたものにしています。

また、主人公が少女ということで、「里」の仲間たちとの仄明るい友情や恋慕をそれとなく匂わせるなど、陰惨な展開一辺倒にならないように工夫されており、ダークなプロットに清涼感を与えています。逆に甘い展開に流れそうなところでは怒濤のような暴力描写が出てきたり、いい意味でまったく油断できません。

個人的に印象深かったのは、「彼へと贈る送別歌」というエピソードでした。主人公とまったく違う類の絶望に侵されている少年の慟哭が、とてもありありと、胸に迫るものとして描き出されています。ここだけでも一読の価値があるのではないでしょうか?

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