先ゆく者から君たちへ。若き塾講師が謎解く、日常系ミステリー。

 短編連作ながら、各章がその後の伏線にもなっていくという、練り込まれた日常系ミステリー作品でした。視点、語りが主人公に統一されており、丁寧で安定した文章ながらウィットにも富んでいます。
 凄いと思ったのは、丁寧な伏線の仕込み方。何気ない会話や目にした光景が謎を解くヒントとなっているだけでなく、そこで得た気づきが次なる事件を解く糸口にもなってゆく、という仕立て方。思わず、最後まで一気に読んでしまいました。

 登場する人物たちは、主人公の門出窓太くんを始めとしてなかなか個性的です。起きる事件――もしくは謎、挑戦と言い換えてもいいかもしれません――は、タグにもあるように、人が死なないささやかなもの。しかし、関わる個人にとっては人生を揺るがす大きなこと。
 この作品は、生徒と講師、生徒同士、社会人となった大人同士、いろいろなタイプの友情を描く物語でもあるように思います。ちょっと不器用な人が想いを拗らせると、ミステリーになるんだなと、たいへん興味深く楽しませていただきました。
 人間同士の関係性を深く掘り下げた作品がお好きな方に、特にお勧めしたいです。

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