第2話

「やっほー」

 今日もアニ子とオタトークしようと思ったんだけど。

「どしたの?」

 マスク姿だった。

「ぁー」

 なんか顔も赤く見える。もしかして熱でもあるんじゃね?

「あぁ、つらいならしゃべんなくていいって。ってか保健室行けし」

 抵抗するアニ子を保健室まで引っ張っていくことにしよう。

「というわけで、先生によろしく言っといて」

 クラスメイトからウィースって声が聞こえたから大丈夫っしょ。

 歩くのが辛そうだったから、ずるずると引きずっていくことにしたんだけど。

「……あんた、軽すぎじゃね?」

 40キロ、あんのか?

 この巨乳で?

 信じらんないし。

「ほっどげ」

「はいはい。言い返す気力があるんだったら歩け」

 ヨロヨロと歩き出したから肩を貸すことにした。あ、おっぱい当たる。うん、こりゃいい。

 保健室まで連れてくるとアニ子をベッドに寝かした。

「ぁりがと」

「へいへい。寝てろし」

 保健室の先生にあとはお願いして教室に戻る。

 それからの一日はまあ、暇だった。

 友達とフツーに話したりはするけど、アニメの話はしないかんなー。

 今の友達は趣味に口出ししてこないからすっげー楽なんだけど、こういうときちょっと話題に困ることあるんだよね。

 メイクとか百均で揃えちゃってるからコスメの話されてもわかんないし。

「京子、百均でそのメイクってマジ?」

「ぉ? うん、そうだけど?」

 なんかその話をしたら友達にメイクの仕方教えろとか言われたけど、別に特別なことしてないし。

 昔は雑誌を見て勉強しようかなって思ったけど、結局趣味に合わないメイクするくらいだったら独学でやっちゃえだったからなぁ。

 そんなんで一日過ごして、放課後。保健室に顔を出すと。

「ちょっと。胸を見せなさい」

「いや、見せませんよ!」

 保健室の先生と女同士で修羅場ってた。

 そーっとドアの隙間から中をのぞき見してると。

「あなたブラ合ってないでしょ。っていうか寝てるときにちゃんとブラ付けてるんでしょうね?」

「いや、寝苦しくて」

 アニ子のやつ……またでかくなったんか。とか思ってたら先生が。

「若いうちは平気でも、年取ってから胸が垂れてくるのはもっとつらいわよ!」

 すっごい怒ってた。

「でも先生、言うほど胸がな——」

「無いのに垂れてくるつらさ、わかる?」

「え」

「彼氏に『あ、垂れてるんだね(笑)』とか言われてごらんなさい。心もプライドもその場の雰囲気もズタズタよ?」

 すっごい実感がこもってるわー。私もいつかそんなこと言われるのかなと思うとちょっと腹立つ。男のあんたになにがわかるのよ、ってビンタするとこまでデフォかな。

「き、肝に銘じます」

「胸に銘じなさい。今すぐ。さぁ測るわよ!」

「みゃー!」

 アニ子が奇声を上げて抵抗し始めたので、止めに行く。

「せんせー。セクハラはいけないとおもうよー」

 なんて軽い気持ちで出ていったのがまずかった。

「セクハラではありません。マジな教育です!」

 ものすごい顔が返ってきた。そんな睨まんでも。

「あー。それはわかるんだけどね。アニ子、病み上がりなんですわ。寒いのだめでしょ?」

 風邪ぶり返すよ。

「あぁ、そうだったわね。私としたことが。ごめんなさい。来週測るわね」

「う、ウス」

 アニ子が運動部っぽくなってる。ウケる。

 とりあえず動けそうだから、教室からカバンを持ってきて一緒に帰ることにした。

「それにしても、またデカくなったんね」

 アニ子の胸をジト目してたら、サッと胸を隠された。見せろし。

「タダ見禁止」

「えーいいじゃん減るもんじゃないし」

「そうね。増えるのよ。一年に一度、ブラを買うお金が」

 衝撃だった。

「え、一年に一度なの?」

「そうよ。せめて三年くらいはもって——」

「ちげえし! もう少しスパンはやめろし!」

 ブラのワイヤーが壊れたり布が傷んだりする……ん?

「っていうかそんなに持つの?」

「何が」

「ブラ。普通半年に一回くらい新しいの買わない?」

 お気に入りとか三年くらい使うーってのはあると思うけど、私は長くて一年くらいで交換するからなぁ。だってヘタってくるんだもの。

「ワイヤーはさすがに難しいけど、生地くらいなら補修できるし」

 すげぇ。なにこの子嫁にしたい。

「……こんど、お気に入りだったブラの補修頼める?」

「漫画の新刊一冊で手を打とう」

 アニ子とがっしり握手をした。っていうか五百円で補修してくれるんかい。

「もちろん大判コミックスだがな」

 千円かー。ちょっと考えちゃうけど。

「まぁ、うん。仕方があるまいて」

 だって超かわいいんだよアレ。

「サイズは変わってるの?」

「ん?」

「そのお気に入りと」

「ま、まさか!」

「多少なら、伸ばせますぜ」

 持つべきものは親友だと思った瞬間だった。

 ちなみに翌週、保健室でアニ子の胸を計測したらGだった。

 揉んでHにしてやるのは私の役目だなと心に固く誓った。

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京子とアニ子の日常 弱腰ペンギン @kuwentorow

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