京子とアニ子の日常
弱腰ペンギン
第1話
『絶望になんて負けやしない、俺たちの戦いはこれからだ!』
今のテレビアニメで打ち切りということはほとんどない。
昔はあったらしい。最終回目前で打ち切り宣告にあい、急にシナリオを書き換えることや、完全にぶつ切りで放送終了ということが。
しかし、今はほとんどきかない。
予算かなんの都合かわからないけど、アニメはたいてい一クールまるっと作られる。
もちろん作画が壊れてDVDで修正とか、放送延期とか総集編とかそういうのはあるけど、そんなのじゃなくて。
「……なんで次が最終回なのに打ち切りなのよ」
私はこの『スターダストプリンセス男の娘たちの戦い』という深夜アニメが大好きで、11話をリアタイ視聴しつづけたんだけど、まさかの最終回が打ち切りお蔵入り。そんなアニメ今までにあっただろうか。いや、無い。絶対にない。
最終回だけ打ち切りなんてそんなアニメ——
「あるわよ、そんなの山ほど」
翌日、学校で親友のアニ子に話したところ、あっさりと否定されてしまった。
「ねぇ、アニ子。そんな嘘に騙されるほど私は」
「聞け京子。あんたの大好きな『銀河超特急エクスキャリバリン』も打ち切りよ」
「それこそ嘘よ。エクス様とキャリ様の手と手を取り合って見つめるシーンは私の腐心に火をつけたのだから」
「うん、だから言いにくかった。あの後、エクスをキャリがあっさり裏切って殺す最終回だったんだって」
「ハァ!?」
あり得ないわよ、そんなの!
あの二人は最終回まで手を握るか握らないかの微妙な関係が続いて、やっと最終回で手を握ったというのに!
「何年か後に監督が言ってたわ。予算の都合でバッサリカットしたって。予算がないからDVD化もされてないし、いまさら新作カットつける気もないしって」
「そ、そんな……」
チェックを怠ったというの……この私が!
「まぁ、そんなわけで。打ち切りはいつでもあり得るわ」
「そうなのね」
でも最終回はやめてよ。すごく楽しみにしてたのに、生殺し状態じゃない。
「それとね京子。あたしはアニ子じゃなくて阿仁山加奈子だって何度も」
「アニ子。あなた眼鏡にみつあみで背がちっちゃいっていう、テンプレ地味子を払拭したくないの?」
「余計なお世話だ。京子みたくゴリゴリのギャルなのにオタトーク仕掛けてくるほうがおかしいわ!」
「なにおぅ!」
腹が立ったのでアニ子の巨乳をしこたま揉んでやる。
「っちょ、ヤメロ京子!」
「ほれほれ。これが三次元の感触じゃぁ!」
……私は一体何がしたくてもんでるんだっけ? まあいいや。気持ちいいし。
「いや、もうほんとやめてください」
アニ子の視線が冷たくなった。うん、やめよう。
「すみませんでした」
「まったく。あと、ギャルやるんだったら第二ボタンくらい外せ」
「な、どこを見てんのよ」
「何その古いネタ」
「……ネタ?」
「あぁ、そっか、天然か」
アニ子が何か私の知らないことで納得してる。気に食わない。
「京子さぁ。なんで派手目なメイクしてるのにスカート丈とか胸元とかガードきついの?」
「や、ガードがきついとかそういうつもりは」
だって短いのかわいくないし。好きな服は『極薔薇乙女の裁縫屋』みたいなゴスロリだし。メイクは……まぁ、昔見た漫画でギャルがかわいいって思ったからだし?
「別にいいのよ。そういうところが男心をくすぐるし。隠れファンは多いし。あんたに彼氏がいるのか聞いてくる男子の数がヤバイことくらいも許容するわ」
「え、マジで?」
イケメンだったらOKするかも。
「あんただって良い胸してるんだから、見せてやんなさいよ」
アニ子が指をうねうねしてる。……やらしい。
「タダじゃ、や」
「ほう。有料なら見せてやると?」
「そういう意味じゃないし!」
アニ子がニヤニヤしてみてくる。指で丸を作るなし。
まぁ、こういう子だけど、楽しい高校生活を送れてるのはこの子のおかげだし。
お互いにアニメの話で盛り上がれる相手は貴重。
中学の頃はメイクのせいでギャル系の友達しかできなかったから、もう楽しくてしょうがない。やっぱ勉強してよかった。頭がいいところならこういう子いると思ったのよ!
「で、あんた。今日の中間テストの勉強はしたの?」
「あ」
「……留年する気?」
「一緒に付き合ってくれる?」
「留年はお断りだわ」
まったく、冷たい奴だ。
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