Operation 6 第二次バトル・オブ・ブリテン
ドイツは七月初旬に第二次「バトル・オブ・ブリテン」を開始した。すでに、開戦時に実行した同名の作戦では、ドイツ軍飛行隊の航続距離が足りず、しかもロンドンにまで爆撃をおこなったために、チャーチルに国民の団結意識を高める口実を与えた。
当時のドイツ主力戦闘機Bf109は十分間しかロンドン上空に滞在できなかった、という問題もある。今回は、改良され航続距離の長くなったジェット戦略爆撃機とMe262Zであり、ロンドン市街への進出はしない。
最初の標的は、英国南部にあるレーダーサイトの破壊と、軍港、空港の破壊である。目的は、英仏海峡への進出を二度とできないように封じること、それに勝利することでソ連への圧力をかけるためである。都市爆撃は実施しない一方、インフラとなる首都ロンドンおよび主要都市を囲む鉄道網、輸送路の寸断も狙う。市民に犠牲者が出ないわけはないが最小限にすべきだろう。また、象徴となるような建造物や文化資産には決して手を付けない。講和をことなく進めるためには必須である。
七月二日、作戦は開始された。果たして、英米はスピットファイア戦闘機、モスキート戦闘攻撃機と最新鋭のP51マスタング戦闘機で迎撃した。P51は限界までレシプロ戦闘機の性能を高めた最新鋭機で、時速700キロ以上の高速飛行が可能だ。
しかし、ドイツ軍戦略爆撃機の速度はより速く、かつ高々度からの水平爆撃であったために爆撃機を迎撃できなかった。しかも音速に迫るMe262Zが超高空から次々に来襲して、戦闘機群を撃墜していった。また、爆撃機型のMe262Zは、拠点を狙ったV0でのピンポイント攻撃を実施した。
計画的に目標を定めた十日間にわたる高高度爆撃、それに続く一週間の精密爆撃により英軍南部の軍港および空港とレーダーサイトは無力化された。プリマス、ドーバーおよびサセックスの軍港設備は完全に壊滅した。港に係留されたイラストリアス級航空母艦は出撃の機会もなく損傷した。ロンドン周辺の空港もV0による重要設備の狙い撃ちにより致命的破壊がもたらされた。さらに敵のいなくなったドーバー海峡めがけ、Uボートと駆逐艦隊が押し寄せ、補給路を断った。残存拠点や武器集積場、石油備蓄設備はさらに戦闘機部隊とユンカースの急降下爆撃機が襲いとどめを刺した。
再建を試みる部隊に対しては連日の機銃掃射によるハラスメント攻撃をかけて妨害した。制空権を失い、戦闘機による迎撃が不可能となったイギリスは、旧式のBf109を相手にしてすら対抗できず、滑走路を機銃掃射されるに任せた。駐機中の戦闘機、爆撃機は次々に破壊された。狭い海峡を挟んで対峙する英独と、太平洋を挟んだ戦場を持つ日米との地理的な差は明らかで、いつでもドイツ軍はイギリスへのあらゆる航空機攻撃が可能なのである。
デーニッツは都市部への攻撃を厳禁とした。それでも民間人に犠牲者は出たはずだ。だが、今後も都市をねらった爆撃は絶対にしない。講和が目標であるとすれば、都市への爆撃はろくなことになりはしないからだ。
第二次バトル・オブ・ブリテン初戦で、英国南部からの軍隊、商船の出航、航空基地からの迎撃はもはや不可能となった。ソ連の進撃が一時的に衰えたようにも思えたが、短期間の成果なので今後の戦略を練るために停滞しているのかもしれない。うかれてはいられないのだ。
第二次バトル・オブ・ブリテン開始のころ、日本では潜水艦をトラック諸島で組み立てる手段を算段していた。まず、破壊された設備を修復しなければならない。デーニッツのバトル・オブ・ブリテンは8月終盤には完了する予定である。それに同期させなければならないのだ。
日本の潜水艦建造部隊は各部品、ディーゼル・エンジン、外殻船体モジュール化、推進装置、電池、そのほかを部品化し効率よく組み立てられるよう、手配を進めた。日本でも国内各所で組み立てるため、同様の手法がとられた。トラックへの輸送にはジェット戦略爆撃機が使われた。
8月には100隻建造され、うち25隻はイ号400型の航空機搭載型とされた。航空機は従来通り、日本海軍の「晴嵐」戦闘攻撃機3機が搭載され、かつV0ミサイル各1機または爆弾を搭載した。まだ、足りない、とデーニッツは考えた。
トラック島で組み立てられたのは20隻に過ぎない。日本軍部は200隻を7月中旬までに生産し、うちトラック諸島での生産を50隻とすることに同意した。またイ号400型の数を増やすことにした。米軍をかく乱するためには、日本各所からの出航と、トラックからの奇襲的な出航が必要なのだ。かなり、急いでもパナマでの作戦開始は8月中旬となりそうだ。
すでに生産された潜水艦の一部は、日本沿岸の掃海と米国艦攻撃にMe262Zとの共同であたった。沖縄周辺は手が付けられないほど敵潜水艦が出没しており、この海域の潜水艦は浮上したところを台湾航空隊のMe262Zで攻撃する、という手段がとられた。
同時に長距離爆撃機はサイパン諸島の滑走路と駐機中のB29破壊に注力した。フィリピンにある燃料集積所も時には襲いかかった。米軍はVT信管という近接爆発装置を用いた対空砲を持っており、高射砲を破壊するまでは高高度からの爆撃しかできず、破壊には連日の爆撃機運用が必要であった。
作戦は次のように決められた。八月中旬過ぎに隠密行動でパナマに近づき、潜水艦隊はパナマ周辺の艦船を一斉奇襲攻撃する。潜水艦艦載機、晴嵐部隊の攻撃はそのあとに実施される。晴嵐のV0と爆弾により、パナマ運河設備を徹底的に破壊する。晴嵐は米軍機より速度が遅く、撃墜される可能性が高いため決死の突撃になるかもしれない。成否は晴嵐部隊にかかっているが、なんとも微妙ではある。
デーニッツは潜水艦からV0を発射してはどうか、と考えた。しかし、潜水艦発射ミサイルは難易度が高くあきらめざるを得なかった。イ400型に3機ずつ搭載された、晴嵐に期待するしかあるまい。それよりも、日本から出撃した潜水艦は途中で発見され、攻撃を受ける可能性があり、それも心配ではあった。日本近海はMe262Zで防衛するしかないだろう。
バトル・オブ・ブリテンは当初の予定よりかなり早く終わりそうだ、そうデーニッツは思った。戦闘機の高速性能が段違いに高いことがこのような帰結につながった。だが、ドイツ空軍を脅かす出来事が起きた。イギリス北部の軍事拠点を攻撃したMe262Zが一斉に下降して、軍事拠点を潰した後だ。英軍のモスキートが無茶なことに更に上空から急降下してMe262Zを一斉に銃撃したのだ。低空のジェット機が上昇するのは危険だが、それをやってしまうパイロットが多数出現し、初めて大打撃を負った。
モスキートは接着剤を多用した木製飛行機で、急降下は怖いはずだが、それをやってまで攻撃してきたのだ。一方、Me262Zが急上昇すると失速して、いくら改良したとはいえ加速に時間がかかる。二十パーセント以上の損耗率を出してしまった。しかも、モスキートは木製でレーダーに写らない、世界初のステルス戦闘攻撃機でもある。爆撃機はレーダーを搭載していたが全く気付かなかった。幸い機体は自爆し、乗員は脱出しておそらくは今ごろ、英軍の尋問を受けているだろう。尋問されたところで、乗員にはジェット戦闘機の機密情報など知る由もない。
バトル・オブ・ブリテン後半戦は再履修だ、急上昇する阿呆がいるか、とデーニッツは苦い思いをかみつぶした。慣れすぎたパイロットが甘く見すぎたためだ。再教育だな、と。この戦いの終結時期が予定通りになっただけだ、と考え直しもした。日本の計画が予定通りなのが救いだ。
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