Operation 11 ソ連軍の苦境

 日独英米の連合監視団は動くまでもなく、各国は敵に対する攻撃を停止した。協力によるメリットの方が戦いより上回ってきたからである。一因として、豊かな米国からもたらされる物資があった。またソ連を仮想敵国と考える反共主義者、トルーマン大統領を筆頭とする米国首脳部の考えもあった。ルーズベルト亡きあと、米国上層部の反共主義はますます高まっている。


 日独英はほぼ米国の物質的支援下にあるようなものであり、次第に新連合国化していった。ついに一月中旬に、全面停戦条約に加え軍事・経済協力条約を締結し、ソ連に対抗することになった。


 デーニッツが率いるドイツは連日、ソ連の生産拠点を日本との往復で爆撃し、国力の削減につとめた。一方で、日本は対ソかく乱作戦を拡大し、満州から小規模かつ多数の部隊でゲリラ戦を展開した。また、たびたび極東日本海に潜水艦を派遣し、日本海から外海に出ようとする艦船を攻撃した。次第に通商破壊の様相を帯びてきたため、さすがにソ連は極東部隊の増強を始めた。ウラジオストクが占領されては困る。


 日本は、米国の攻撃からまぬがれたフィリピン南方の残留艦船も回収して、先のウラジオストク襲撃作戦で制海権を失ったソ連沿岸を連日艦砲射撃し、飛行隊による爆撃も実施した。スターリンは怒りに震え、シベリア鉄道の使える部分と破断された部分での陸上輸送を強行し、東方戦線に重戦車IS2およびT34を投入し始めた。まともに戦って勝てる相手ではないので、制空権を持つ日本は航空隊でのみ、重戦車の無力化を図った。それでもソ連軍は進撃をやめず、大量の戦車による大攻勢を始めた。


 一旦、IS2に突破されれば戦線は崩壊する。日本にはこの重戦車に正面対決できる兵器がないのだ。そこで、日本陸軍は偵察機でソ連陸軍の活動を常に観測し、ロケット弾で威嚇と遠距離攻撃を開始した。さらに旧式、新型問わず一式陸攻を含めた大小爆撃機を動員して機動抑制を試みた。


 しかし、ソ連軍の損害を無視した攻撃圧力に日本は耐え切れず、米軍の助けを求めることにした。まず、日本は米国の国力で有り余るほど生産されたB29の日本駐留を許可し、B29による大規模爆撃が開始された。


 物量豊富な米国により生産されたB29はすでに累計生産数三千機を超え、ドイツ・日本のジェット戦略爆撃機より桁違いに数が多かった。このB29導入による飽和攻撃によりソ連軍陸路および戦車が徹底的に破壊された。ソ連は対抗可能な高高度迎撃機を持たず、撃墜する手段がない。さすがに強力無比なIS2の供給も鈍っていった。さらに、Me262Zの各個撃破により次第にソ連戦車の活動は沈滞していった。連日の攻撃が続き、東方ソ連軍は崩壊し始めた。


 日独英は、米国に原爆だけは使ってほしくなかったが、トルーマン大統領は強硬であった。都市部にでも落とされたら、えらいことになる。しかも、世界のどこの国にもない新型爆弾であり、米国の暴走を恐れた。さんざんに圧力をかけた結果、シベリアの無人地帯への一発のみの原子爆弾投下が検討された。また、この時点で米国はプルトニウム爆弾の核実験、トリニティ作戦により、二発、製造中のものを入れても三発しか原爆を持っていないことも明らかにした。


 二月初旬、冬将軍が本格的にやってきたウラル地方の無人地帯にウラン原爆は落とされた。ドイツ領内の飛行場からB29で運ばれた原爆は確実に動作するウラン原爆「リトルボーイ」であった。動作が保証できないプルトニウム原爆は温存するという考えからだった。果たして、各国はその破壊力に戦慄した。


 もはや、これは兵器として使い得るようなものではない、と各国とも理解した。破壊力がすさまじすぎる。さすがにスターリンはたじろいだ。これをモスクワにおとされてみろ、いったいどうなるのだ。米国は脅しをかけてきている。あわてたスターリンはモスクワ周囲の空軍をかき集め、防空にあたらせた。


 冬の嵐が激しくなると、ドイツ軍は天候の良い日だけ爆撃機編隊を用いた戦略で犠牲者を最小限に抑える作戦に出ていた。足には定評のあるソ連戦車といえど雪上のぬかるむ大地では非常に機動性が悪く、ドイツ東部戦線は次第にソ連が不利になりはじめた。比較的軽快なT34戦車、カチューシャ連装ロケット砲による活動もあったが、ほぼMe262Zにその動きを封じられた。「スターリンのオルガン」で知られたカチューシャも機銃掃射には無残に敗北した。


 戦線がポーランド国境まで後退した時点で、突然、デーニッツはポーランドの独立承認宣言をした。ポーランドは沸き返った。デーニッツにとってはもとから予定していた通りであった。デーニッツはポーランドがソ連との防波堤の役目を果たすことを期待した。


 日本海側の戦線では、日本軍がゆるくウラジオストクを包囲した状態のまま、特に突撃などもせず、ひたすら空爆とゲリラ部隊によるハラスメント攻撃を繰り返した。ウラジオストク防衛軍は長期化する消耗戦によって次第に気力をそがれていった。日本潜水艦、Me262Zと米空母機動部隊が海上封鎖しており、また陸路も十分に活用できないため、日本海沿岸では物資が不足しはじめた。


 しかし、ソ連はまだ経戦するつもりだ。ここは何か決め手となる作戦を実行しなければならない。講和するにしても有利な条件を引き出さねばならない。ソ連のスターリンは負けたなどということはできないはずだ。原爆の開発も進めていることであろう。核戦争という悪夢は避けねばならない。


 そんな思惑をよそに、スターリンはポーランドへの大進撃を開始すべく準備を始めた。


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