年上の彼女が僕にいう「忘れたいくらいの失敗」

玉椿 沢

第1話

 僕の五つ年上の彼女・孝代たかよさんは、沈黙が訪れると不安になるらしい。


 だから沈黙が来る度に話が飛び、限度が来ると支離滅裂としか思えない事をいい始める。分からなくもないのは、僕も同じようなところがあるし、何やかやと話してくれる孝代さんに救われている。


 この日も、そうだった。


「何か面白い失敗談はない? 忘れたいくらいの」


 ……僕にあったところで、何故、それを話すと思うのだろうか?


「そういうのは、言い出しっぺから始めないと」


 僕は肩を落とし気味にして孝代さんへジト目を向けてた。


「ああ、成る程」


 頷く孝代さんは、分かってくれたんだと思った。そう、人にいえる失敗なんてものは――。


「中学生の時なんだけど」


「あるのかよ!」


 事もなしに話し始める孝代さんに、僕は吹き出した。


「言い出しっぺがいえっていうから」


 孝代さんはきょとんとしているけど。


「いや、あるなら、いいんだけどね……」


「まぁ、まぁ、中学生の頃なのよ。部室の一斉点検があって」


 ああ、それなら僕のトコにもあった。基本的に勉強や部活動に不必要なものは持ってこないようにって校則があった。


「部室なんて、そういうものを隠すには最高のシチュエーションだし、まぁ、色々と隠してた隠してた」


 やっぱり孝代さんも同じだった。


「でも、当然、バリバリ見つかって、教室に生徒指導の先生が来たのよ」


 そりゃそうだ。


 ソファの背もたれに身体を預けて、孝代さんは宙に視線を巡らせて、記憶を辿ってますって顔をしてた。


「で、こういわれたの」


 その内容は――、



「エッチな本が大量に出て来た」



 ちょっと待て。


「失敗談?」


 話の先が想像できない。そりゃエロ本の一つや二つ、僕の時も出て来たけど、僕がいうのと孝代さんがいうんじゃ意味が違う。


「失敗談」


 孝代さんは大きく頷いた。どういう展開になるんだ……?


「先生がいうのよ。全員、顔伏せろ。今なら黙っててやる。持ってきたヤツ、手を上げろって」


 あるあるだし、僕の所でもあった気がする。けど、このシチュエーションで一体、孝代さんがどういう失敗をするというんだ?


「はぁ……」


 いよいよ気になる。何の失敗したんだ?


「もう仕方ないわ。私だわ……って手を上げたのよ」


 だから待て!


「どういう事だよ!?」


 孝代さんが部室にエロ本持ってきて、一体、何をどうする気だったんだ!?


「だから、部室にみんなでエッチな本を隠してたのが」


 ……何の用事があるんだ?


「そしたら、先生がいうの。わかった。もういいぞ。手を下ろせ。みんな、顔上げていいぞって」


 それで何の失敗が……?



「おい、山脇やまわき、後で職員室に来い!}



 どんでん返しかよ!


「私ってバレバレじゃないの! しかもクラスに大量にいるはずなのに、手を上げたの私だけ」


「……上げなきゃよかったね、それ……」


 僕だったとしても、手なんか上げないけど。


「何が起きたのか分からなかったわ、ホント」


「それ、今の僕の言葉なんだけど……。一体、何があってエロ本なんて持ってきてたの?」


「回し読みするため?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

年上の彼女が僕にいう「忘れたいくらいの失敗」 玉椿 沢 @zero-sum

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ