React

 ゆっくりと絡め取られる指先にまだ慣れなくてちょっと俯いてしまうのを、彼女は全然気にしない。寒いね、とだけ言って両の手に包まれるから、私は左手と心臓のあたりだけやたらあったかくなってしまう。

 クラスが離れてなんとなく疎遠になっていた、一年きりになりそうだった友人といつからかまたなんとなく寄り添うようになった。バスで隣になったときだっただろうか。このまま他人になってしまうのかなと寂しく思っていたのが私だけじゃなかったんだってわかって嬉しかった。たぶんそのときから、帰りを誘ってもいいと自惚れることができるようになった、自然と互いを待って、おつかれさま、と笑顔を交わして歩き出すのに、なんの不安もなくなった。

 その代わり、不意に出る予想外の言動に戸惑うようになってしまった。たとえば今こうして手を握られていることだけど。


未雲みくもちゃん、……あったかいね」

「ほんと? よかった」


 笑顔はやさしくて無邪気だ。それ自体は以前と変わらないのに、いつのまにこんなに人に触れられるようになったんだろう。


 私と彼女は似ていると常々思っていた。自分に自信がないので、他人に遠慮して距離を取りすぎてしまうところとか、そういう相手には本当に話せることばの何倍も喋れなくなってしまうところとか、自分のことを許してくれそうな人だって安心できないと表情が硬くなっちゃうところとか。互いに理解し合えるような気になって私は彼女に心を開くことができたし、彼女もきっとそうだった。

 だから、そう。私は結構、彼女のことがわかる自信だけはあった。言動の一個一個をわかってあげて、応えてあげられる自信があったので、友達になっても彼女が不安になったり悲しくなったりすることが少ないんじゃないかなって思っていた。でもこうして繋がれる手の温もりのことはぜんぜん、わからなかった。わからないことを、けれど彼女が不快に思ってはなさそうなところも含めて私にはわからない。なのに、そうやって不用意に与えられる熱が心地よくて考えるのをやめて甘えてしまう。こんなことでいいのかな、私。いつか嫌われちゃったりしないだろうか。


「……手袋買わないと」

「ないの?」

「見つからないの。無くしちゃったみたいで」


 そうなんだ、困ったね。自分の手の中を見下ろす彼女の視線になんだか落ち着かない気持ちが増していく。

 手袋、買うから、許してください。今だけそうして寄り添うのをやめないで。寒いのと寂しいのは似ているのかもしれなくて、独りになるのが怖かった。


「わたし、一緒に買いに行ってもいい?」

「え?」

「お出かけ、一緒に………。駄目かな」


 失言を詫びるみたいに声音を小さくしてそういうのを慌てて引き止める。「い、行こう! うれしい!」思わず私の方も両手で相手の手を握っていた。それにちょっとびっくりした顔をしてから、彼女は何も言わずに嬉しそうに微笑む。花のようなその笑顔に私のかけがえのないものすべてが詰まっているみたいで、彼女が手を差し伸べるのも同じ理由だったらいいのにと身勝手なことを考えた。


陽咲ひさきちゃんに似合う手袋みつけたいな」


 ちょっと楽しげな足取りで相手が先に踏み出したから、私たちの手は離れ離れになる。だけどその一言が、些細な約束が、私の心を繋ぎ止めている。

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Re, 外並由歌 @yutackt

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