第2話 Anfang

悠愛ちゃんとは別クラスのため、上履きに履き替えて別れる。

どうか、ペアが見つかりませんように。なんてこっそり願ったら、怒られてしまうだろうか。



《--みなさん、おはようございます。》



毎朝ホームルームを待っている間に流れるこの放送が、実は楽しみだったりする。さすが七英學園と言うべきか、自校のユニットの曲を流すのだ。

僕たちアイスタの曲はまだ流れたことはないけれど、お世話になってるセンポラや、Sugar×Sugarはこの放送の常連だ。



《6月2日水曜日。今日も元気に、過ごしましょう。…本日、朝の、音楽は、3年生、Sugar×Sugarよ、り……ガタンッ---プツッ》





「…今のはなんだ?」



誰かの一言を皮切りに教室中をどこか変な空気が充満する。

放送部のミスだと茶化す者、曲が聞きたかったと文句を言う者。



そして、音声の途切れ方が不自然じゃないか、と心配する者。



七英學園はどの分野においても真剣にプロを目指す人達ばかりなのでこんなミスは滅多に起こらない。

体調管理も仕事のうち、だ。


だからこそ、胸がざわつく。朝の鼓動がだんだんと、違う意味で早くなっていく。

どうしてこんなに不安になるのか自分でもよくわからない。


それでも、どうか、このまま。いつも通りの今日が進みますように----







その時、スッと扉が開いた。







僕たちの担任がドアの前に立っている。







いつもと少し違うのは。








彼が、血を流しているということ。




「え…?」


誰しもが予想していなかった光景に、声が詰まる。

何よりも理解し難いのは、血を流した担任を支える…と言うより担いでいるのは彼自身なのだ。



みんなの手足が、息が、思考が、止まる。



「みんな、おはよう。一先ず席に着いてくれ。」



止まった脳内へ、穏やかに指示が下される。

逆らう生徒は誰もいない。



「朝からショッキングなものを見せて悪いねえ。」


そう言うと、ドサッと重たい荷物を下ろすように担いでいた彼…というか彼自身を落とした。

他のクラスはどうなっているだろうか。悠愛ちゃんは大丈夫だろうか…。



「説明をするが。」



と先程とは打って変わった声色に現実へ引き戻される。


「きっと理解し難いと思う。どうか想像力を膨らませて、聞いてくれ。」


「ただし一度しか説明しない。時間もないからね。」


「君たちの命に関わることだ。」



そう言って話し始めた内容は、本当に理解し難いものだった。



まず亡くなった先生も、今話している先生も同一人物ということ。

一人は僕らの知っている先生で、もう一人は平行世界…つまりパラレルワールドから来た先生だと言った。


僕たちがいる世界と、ある一つの平行世界がぶつかってしまったらしい。

原因は不明。元通りにする術は今のところない。もしかしたら戻らないかもしれない。



万が一、戻らなかった場合。



同じ世界に同じ人物が同時に二人以上存在することは出来ない為、僕らは消滅する。

「自分」が消滅しない為には、先に自分を消すしかないと。そういう話だった。



「理事長には話をしてある。たまたま僕は教室に来る途中に僕と出会ってしまってね。」


「しかし早めに「自分」になれたのはある意味幸運だったかもしれない。」



そういう彼は、この緊張感にそぐわずに、口元を緩めているように見えた。

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