第8話 apocalypse

少しだけ、見守っていた。


渉と悠愛が心配して戻ってきてたから。

二人に凛歌を預けて、改めて外で待ってるように伝えて。


早く、茉莉香の所に戻りたかったから。



戻ってきたら、茉莉香は怒ってるような、悲しい顔をして睨んでいた。視線の先は統と、リアン。

さっき教室に入った時に、こうなることはわかっていた。



だって「統」と同じだったから。



「僕ら」の世界がぶつかり、事態にいち早く気付いていた「統」は真っ先に統を探しに行った。

見付けてすぐ、リアンを、nana学科の子達を助けて欲しいってお願いをしてた。

自分の命と同じくらい大切だから、みんなを消すわけにはいかないって。

そう言ってすぐにこめかみに銃をあてた。


ここの世界の僕たちはちょっとビックリしてたけど、やっぱり統はどこに行っても統みたい。

二人の茉莉香に、本当に身勝手ですね。って怒られてた。


みんなって言ってたけど、統が誰を一番気にかけてるかなんてバレバレだったもんね。



その後僕ら4人で手分けして、この世界に生きるべき人を助けようって事になった。

多分、統が言ってたのもそういうこと。

だから本物のnana学科のみんなの為なら、自分も「渉」も「悠愛」も撃てた。




でも。


僕は平気だけど、茉莉香は優しいから。

ああやって悲しそうに顔をしかめるんだ。



でも、もう終わるよ。



そっと手を回して茉莉香を包み込む。



「舞和…戻ってたの。」


「うん…。」



そう言って後ろから、すぅっと息をする。

茉莉香の匂いに安心する。



「僕らも。もう逝かないとね。」



茉莉香の左胸に銃をあてる。

鼓動が伝わってきそうな気がして、右手にばかり意識がいってしまう。



「舞和も、あの子たちと行ってもよかったのよ。多分、この世界のわたし達はもう…」


「ひどいよ、茉莉香。わかってるくせに。」



「僕ら」が最後に消えて一件落着のはずだったのに、感覚的にわかるんだ。

本来の、この世界の僕たちが既にいなくなってる事くらい。



「ふふっ、ごめんね。」


「そして…ありがとう、舞和」



その言葉を合図に、僕の左腕に茉莉香が手を添えた。

どうしてこんなにも、通じ合うのかな。

ちょっと照れくさいけど、嬉しいな。




「…僕は、茉莉香のいない世界に興味はないよ。」


「うん。知ってるよ」


「愛してるよ、茉莉香」


「ええ、わたしもよ。」



そう言ってくれると思ってた。

ありがとう、茉莉香。




心置き無く、引き金を引く。

今日何度目かの耳をつんざくような音。





茉莉香の心臓を通って、僕の心臓も通って。





視界の端に飛び散る赤はまるで、満開の彼岸花の様だった。






あぁ、地面にぶつからないように。






ちゃんと茉莉香のことは、離さないようにしなくちゃ―――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る