第94話 明智城の戦い

 明智光秀といえば、1582年の本能寺の変で信長兄上に対して謀反を起こした人物として有名だ。歴史の教科書にも載ってるくらいだしな。


 なんで光秀が本能寺の変を起こしたのかは、歴史上の最大のミステリーとして未だに解明されていない。


 一説には日頃から信長兄上に暴力を受けていた怨恨説や、自分が天下人になりたいから謀反を起こした野望説、長年仕えていた家臣をあっさりクビにしたから次は自分かと怯えてたっていう恐怖説など、その原因究明のための説には事欠かない。


 実は光秀は暗殺の駒として使われただけで黒幕が別にいるっていう、朝廷黒幕説とか家康黒幕説とか秀吉黒幕説なんていうのもある。


 でもいずれにしても、光秀が信長兄上を殺すことに違いはない。


 うーん。できれば信長兄上とは会わせたくないなぁ。いつどこでどんなフラグが立つか分からないしな。


 えーっと。確かここで明智城は陥落して、光秀は浪人生活に入るんだっけ? それで貧乏な時に奥さんが髪の毛を売って生活費の足しにするんだったかな。


 その奥さんも婚約してから疱瘡にかかって顔に跡が残っちゃって醜くなったんで、奥さんの父親が代わりに瓜二つの妹を嫁に出そうとしたら、醜くなってても婚約者がいいって言って結婚したんだよ。


 その話だけ聞くと、いい人っぽいんだけどなぁ。

 だけど実際に謀反を起こしてるわけだしなぁ。うーん。


 まあでも、光秀が信長兄上に仕官するのは当分先のことだし、いいかと思っていたんだけどさ。






 あれ?

 なんで光秀が尾張にいるんだ?

 なんで爽やかな声で「これからよろしくお願いします」とか言ってんの!?

 確か根暗で陰険なタイプじゃなかったっけ?

 んんん!?



 慌てて色々情報を集めてみたら、なんと明智城は陥落しなかったらしい。


 そもそも明智城に迫った長井道利ながいみちとしの軍勢は約三千七百。そしてその時に、城内にはわずか五百の手勢しかいなかったんだそうだ。


 そこで肥田孫左衛門と土田甚助が、信長兄上の従兄弟にあたる犬山城の織田信清殿に援軍を要請しに行った。そして信清殿はひとまずそのまま信長兄上に連絡をした。


 信長兄上はすぐに後詰を了承して、まずは美濃に近い信清殿に命じて兵を派遣させた。その数五百。

 そして信長兄上は熊を筆頭に丹羽長秀殿とか前田利家殿たち馬廻りを編成して、二千の兵を集めた。


 明智城に五百。信清殿が五百。信長兄上が二千で、合計三千の兵である。

 長井道利の軍勢よりは少ないけれど、兵の練度を考えると十分勝ち目はあっただろう。


 信長兄上は尾張で兵を整えて、佐久間のおじちゃんは那古野城で待機、ツッチーも清須で待機、末森は俺が……と言いたいところだけど、俺はまだ元服してないから熊の家老である中村宗教が守ってた。


 信長兄上はまず明智城の南にある今城を攻めた。城主の小池家継は、信長兄上が大軍を引き連れていたのを見て、すぐに降伏したそうだ。そして小池の兵も吸収して、そこから東に向かって久々利城を攻めて落とした。


 久々利城は今城とは違ってかなり抵抗をしたみたいだけど、兵力が明智城攻めと分散されていたのが敗因となって落城したんだって。


 そして東から明智城を囲む長井道利の軍勢に攻撃を仕掛けた。長井道利は明智城の近くにある羽崎城を本陣にして戦っていたらしいけど、信長兄上の参戦以降、劣勢が続いた。


 長井道利っていうか、斉藤義龍の勢力は、実はまだ完全に美濃を掌握していないからなぁ。まあ、道三が下剋上で美濃の国を獲ったのを嫌っていても、義龍も親殺しで簒奪してるから、これを嫌う国人も多いってわけだ。


 これが土岐頼芸ときよりのりの正統な息子で、土岐頼義ときよりよしみたいな名前だったら別だったかもしれんけどね。


 義龍本人は、一応、土岐頼芸の息子だって主張はしてるけど、斉藤道三の息子の可能性もあるし、苗字だって斉藤だしなぁ。もろ手を挙げて大歓迎っていう訳にはいかないんだろう。


 といっても、西美濃三人衆って呼ばれてる稲葉良通いなばよしみち安藤守就あんどうもりなり氏家直元うじいえなおもとの三人がバックについてるから、そのうち掌握しそうだけどな。


 ただ信長兄上が有利となると、それに呼応する美濃勢も増えてくるわけだ。

 土田氏は当然として、明智光秀の舅にあたる妻木城主の妻木広忠とかな。


 特に東美濃に城を持つ妻木が信長兄上に呼応したら、東美濃は一気に信長兄上の陣営に傾くだろうからなぁ。


 多分、義龍にしてみれば、尾張が信長兄上と信行兄ちゃんの家督争いでゴタゴタしてる今なら、明智城に援軍を寄こせないと思ったんだろうけど、一応、信行兄ちゃんも反省してるしな。


 たまに文が来るんだけど、龍泉寺に津々木蔵人が追っかけてきて一緒に出家したらしくてさ。

 うん。まあ、仲良くヤッテルラシイヨ。何をやってんだかは知らんけど。


 織田信安とか信広兄さんとか信長兄上と敵対してる一族もいるけど、信行兄ちゃんみたいに家中を二分する勢力ってわけじゃないから、そこまで深刻じゃない。


 ってことで、うちよりも家中がゴタゴタしてる美濃に、織田と全面戦争をする体力はないからさ。一応、停戦って形になったみたいなんだよ。


 それで、明智氏は助けてくれた信長兄上に恭順することになったわけだが……


 恭順の証として、先代明智城主の嫡男でいずれは明智城を受け継ぐ明智光秀を、信長兄上の家臣として寄こして来たってわけだ。


 いや、でも、確か明智光秀って明智城が落ちてから流浪の生活を送るんだよな!?


 どうしてこうなった!?

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信長公弟記~織田さんちの八男です~ 彩戸ゆめ @ayayume

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