第48話

「シュゥゥゥーッ!」

「うおっ!?」


 アサシン・プラントとの戦闘後、先を進む俺たちの前に、新たな魔物が立ちふさがっていた。

 そいつは全長5メートルを超える、とんでもない巨体のムカデである。

 しかも、その巨体からは想像もつかない速度で移動し、この足場の悪い環境をものともせず、巧みに周囲の木々を利用しながら襲い掛かって来た。


「――――」

「ギャッ!?」


 ネクロやソウガが隙を見つけては攻撃を繰り出すものの、その外殻は非常に堅く、ダメージが通った様子はない。

 そんなムカデを【解析】した結果が、これである。


【ギガント・センチピードLv:5】……Bランク。弱点:火属性魔法、雷属性魔法。

説明:ムカデが魔力の影響により、魔物化した。最大で十メートルにまで成長する。非常に素早く、外殻は堅い。牙には猛毒を持ち、噛まれれば一瞬で毒が回り、死に至る。強靭な生命力の持ち主で、頭を潰されてなお、数時間は暴れまわることが可能。


 もはやめちゃくちゃだ。

 堅い上に素早く、毒も持っており、生命力も強い。

 とはいえ、いつもなら戦闘をしていただろう。苦戦するとはいえ、協力して倒したはずだ。

 しかし、今回ばかりはそうも言ってられない。

 何故なら……。


「シュゥゥゥーッ!」

「シャァァァァァ!」

「シュゥゥゥゥゥ!」


 このムカデ、一体だけではないのだ!

 【解析】の情報には群れで行動するなど書かれていないが、もしかすると巣のような場所を通ってしまったのかもしれない。

 何とか持ちこたえてはいるものの、シロや岩一たちですらギリギリ戦えている状況なのだ。

 ダメだ、まともに相手をしていたらこっちがやられる!

 俺はソウガたちの召喚を解除すると、すぐに『リターンホーム』を発動させた。

 何とかギガント・センチピードから逃げ切った俺は、ソウガたちを再度召喚しつつ、あのムカデをどうするか考える。


「戦うための手札が少ないんだよな……」


 まず、今の俺たちにはまともな武器がない。そもそも武器を使わないシロたちはともかく、ソウガたちやネクロは未だにスケルトンの骨だったり、ボロボロの剣を使っているのだ。

 唯一まともなのは俺の流水棍棒だが、これだって水中で優れているだけであり、八階層でも使えるかと言われれば微妙である。なんせ樹や昆虫といった、硬い敵が多いのだ。

 とはいえ、今すぐ新しい武器を揃えるには時間がかかりすぎるだろう。今回はともかく、武器の調達はしっかり考えないとな。

 他の攻略法は……【解析】の情報をもとに考えると、弱点の魔法だろう。大ダメージを与えるには火属性魔法か雷属性魔法が必要になるわけだ。

 だが、周囲があんな樹に囲まれた中で、火なんて放ってもいいんだろうか?


「……むしろ、火を放って、フロア全体を火事にした方が早いのか?」


 何となく正攻法でクリアしなきゃダメだと思い込んでいたが、そんなことは誰も言っていない。

 となると、あのフロアを焼き払う勢いで火を放ち、大火事にした方がいい気がしてきたな。

 何より、【適応体】を持つ俺には、火属性魔法などの熱によるダメージは受けない。


「……試すだけ、試してみるか」


 ただ、今の俺では火属性魔法も雷属性魔法もレベルが低いので、一度【岩石の間】に向かい、オリジナル魔法を考えつつ、再挑戦するための準備を始めるのだった。


***


 準備を初めて一週間後。

 ようやく納得のできる魔法をいくつか開発した俺は、一人で第八階層へと向かった。

 今回の目的はフロアを焼き払うことなので、ソウガたちを連れていては巻き込んでしまう。

 早速八階層に到着すると、相変わらずの蒸し暑さが俺を襲う。


「これ、湿気が多い場所だと燃えないとかあるんだろうか?」


 あまり深く考えずに用意したが……まあやってみよう。

 俺は近くの森に目を向けると、右腕を突き出した。

 すると、非常に小さな……それこそビー玉サイズの火種が、勢いよく射出される。

 そして森の樹に触れた瞬間――――爆ぜた。

 今まで圧縮されていた物すべてを解放するように、凄まじい熱風がこちらまで届く。

 その勢いで、俺の予想通り周囲の木々に引火し、辺りは大惨事となった。

 熱風に関しては、俺自身は問題ないにしても、衣服には引火するので、『エンプティシールド』を前面に展開し、防いでいる。この魔法、本当に便利だな。

 そんなことを考えながら、俺は目の前の惨状に目を向けた。


「成功、したな」


 ――――『爆炎球』。

 恐らく俺が作った魔法の中でも、特に威力が高いはずだ。

 その名の通り、爆発する炎を極限まで圧縮したものである。

 威力は御覧の通り、周囲を軽く吹き飛ばすほどだ。


「色々魔法を作ったおかげで、火属性魔法も雷属性魔法もレベルが上がったのは嬉しい誤算だった」


 今まで水属性魔法が突出したレベルだったが、これに火属性魔法と雷属性魔法も並んだ形になる。

 新たに習得した魔法に関しても、水属性魔法で習得したものの属性を変化させただけ。特に目新しいものはない。

 その代わり、『爆炎球』以外にもいくつかオリジナル魔法を用意していたのだが……使う必要はなさそうだ。

 この調子ならフロア全体を焼き払うこともできるだろう……そう、思っていた時だった。


「ん?」


 遥か向こうに聳え立つ巨木から、妙な青色の光の玉が飛び出した。

 それは俺のいる方まで飛んでくると、ちょうど火事が起きている地点の上空で止まる。

 その瞬間、青色の玉が弾けると、一瞬にして雨雲が出来上がり、火事に向かってとんでもない大雨が降り注いだ!


「嘘だろ!?」


 俺のいる場所も大雨の範囲内であり、大雨だけかと思いきや、とんでもない下降気流が俺に襲い掛かる。


「うっ!?」


 膝をつくほどではないにしろ、とんでもない威力のスコールである。

 予想していなかった状況に困惑していると、すぐにスコールは去った。

 そして、あれだけ燃え盛っていた森は、何事もなかったかのように再び木々が恐ろしい速度で再生し始める。

 それを見て、俺は確信した。


「無理だな」


 燃やしても火を消され、その上消し炭になった木々すらも一瞬で再生するのだ。どうしようもない。

 恐らく、ここの木々は迷宮型ダンジョンの壁のようにダンジョンの一部なので、すぐに再生されるのだろう。

 フロアを破壊してクリアなんていう甘い考えは捨てろというわけだ。


「……これ、無限に木々が成長するなら、木材不足にはなんねぇなぁ」


 思わず現実逃避するように、そう呟く。

 うん、まあダメだと分かってよかったな。

 それに、必ずしもダメなことばかりではない。

 今回の経験を得て、一つ俺にとってありがたいことに気づいた。


「こうして火が消されるんなら、魔物と戦うときに遠慮なく火属性魔法も雷属性魔法も使えるな」


 使う際にはソウガたちの召喚を解除する必要があるものの、これならばあのムカデにも難なく対応できるだろう。

 いよいよダメだった場合、武器を本格的に用意することも考えていたが、これならいけそうだ。


「うーん……武器は俺だけじゃなく、ソウガたちのも必要になるからな。金もGも足りない」


 せめて九階層に挑むときは、しっかり装備を整えてからにしよう。

 そう決意した俺は、ひとまず俺が魔法を放った地点を探索した。

 だが、運が悪かったのか、魔物のドロップアイテムなどは一切なく、本当にフロアに魔法を放っただけらしい。


「こういう時こそ【鬼運】が発動してもいいんじゃねぇのかよ」


 つい愚痴ってしまうが、ないものは仕方がない。

 俺はため息を吐きながら、改めてソウガたちを召喚しなおすと、再び八階層の攻略を始めるのだった。

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スロー・アドベンチャー(仮) 美紅(蒼) @soushi

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