第三話 ネゴシエーション? リサベルさんと愉快なごろつき達(1)
馬車から降りた俺とアクアレーナは、道の前に立ち塞がる一人の女と二人の男の姿を確認した。
男達は如何にもごろつきみたいな感じのがっしりした体格をしてて、かつ腰に剣なんて下げている。
先頭の女はド派手な銀髪にレザー素材の袖なし服とタイトミニスカート姿。
背はちょっと小さめだけど切れ長の目をしていて、服装のイメージも相まって中々性格がキツそうに見える。
そんな彼女に対して、アクアレーナはぎょっとしながら口を開いた。
「リサベルさん、どうしてこんな所に!?」
女の子――リサベルさんとやらが御世辞にも有るとは言えない胸を張り、ふんぞり返って返答する。
「お前に会いに屋敷に行ったら、あのメイド長から『
ラスタンベリーっていうのは、俺達がさっき居た街の事だよ。
『待っていた』と彼女は言ってるけど、こいつ達からはとてもじゃないけど友好的な雰囲気は感じられないな……。
なんせこのリサベルさんはウエディングドレス姿のアクアレーナを見て、小馬鹿にしたような顔をしているからね。
リサベルさんは更にこんな事を口走ってくる。
「アクアレーナ、隣に居るそいつが最後の結婚相手候補なんだよな? ふふん、そんな姿で捕まえに行ったという事は、相当結婚への焦りがあるんだろうなぁ」
今『最後の』って言った?
あと『そいつ』って俺の事かよ、随分生意気な奴だな。
その煽るような話し口調には、やっぱり嫌な連中なんだろうと印象付ける。
「そ、その通りですわ。ですから借金の返済はもう少し待って下さいませ!」
え、借金?
これはまたアクアレーナの口から、なんか思いも寄らない
キミどんだけ
リサベルさんの方はというと、一つ溜息を吐いてから、中々の剣幕でアクアレーナに怒鳴りつけてきた。
「お前なぁ、自分がこれまでに何回ニホン人の男から逃げられてると思ってんだよ! こっちはもうとっくにお前への信頼を無くしてるってんだよぉっ!」
……どういう事だ?
なんか二人の話だと借金と結婚ってのが、何かの繋がりを持ってるみたいに思えるんだけど。
アクアレーナは「それは……」と言い淀んでて、話の要領を得ない。
彼女がそんな状態だから、リサベルさんは更に捲し立ててくる。
「親方様からも『あんな先の見えない者には目を掛けるだけ損。もう返済期日前でも構わないから早く取り立てなさい』と命令されてるんだ。だから何であろうと今日こそ絶対、借金の代替えとしてフレイラ家が持つ土地の権利を頂いていくぞ!」
いやいや、なんかめっちゃヘビーな事言ってきてんじゃん!
どうやらかなり切羽詰まった状況らしいね……。
きっとまだ分かってない事も多いだろうけどさ、これには流石に口を挟まずに居られないって。
ええと、そうだな……。
とにかく先ずは借金について、緩やかな感じで聞いてみよう。
「アクアレーナ、隠さずに答えて欲しいんだけどさ。キミが借金してるってのは間違い無いのかい?」
彼女はとても決まり悪そうな顔をしたけど、しかしちゃんと答えてはくれた。
「はい……」
「一体どれ位?」
「ええと、ニホンとゼルトユニアの通貨は違うのでどのように言えば良いか……」
「じゃあさ、例えばそのお金で何日働かずに暮らせる?」
「……あれがあーで、これがこうだから……。そ、そうですね、今屋敷に仕えてくれてる者達の分まで含めて一年でしょうか」
「おー、成程ね……」
「お分かり頂けましたか?」
「いやごめん、例えの規模が大きくて逆にイメージが付かないや」
「そんなっ!? レン様の為に、私頑張って計算しましたのにっ!!」
本当にごめん、だってそんな使用人の事まで出るとは思わなかったからさぁ……。
でもまあ辛うじて。
土地の権利書とやらに匹敵するだけの額ってのは、なんとなく分かるかな。
「おい二人して何いきなり漫才やってんだー!」
俺とアクアレーナの噛み合わなさに、リサベルさんも思わずツッコミを決めてきた。
「ああ、リサベルさんもごめんね? そうだよね、なんていったって土地だもんね、土地」
「うるせー、そんなふわふわした言い方してるって事はどうせ大して分かってねーんだろーがっ! それからお前みたいな名前も知らないニホン人に、馴れ馴れしく話し掛けられる覚えもねー!」
くそっ、何も言い返せない。
リサベルさんはめっちゃぷんすか怒ってる。
その或る意味でのノリの良さのお陰で、深刻そうな空気も少しは和らいで感じるけど。
でも勿論、アクアレーナが借金を抱えてる事実は何も変わらない訳で。
「こらニホン人、姉御に失礼な真似してんじゃねえぞー!」
うわ、今度は後ろのごろつきその一が太い声で怒り出した。
ていうかお前、その
「ニホン人、まだこの世界に来て間も無いんだろ。だったら迂闊にこの話に加わってくるべきでは無いと思うがな」
ごろつきその二まで畳み掛けてくる。
うーん、こっちは同じ強面ではあるけど落ち着いた凄みを利かせてくる感じか。
いや、お前の言う事も分からなくはないんだけどね。
ただ――。
「まあそう言わないでくれよ。俺もニホンじゃ、少なくとも金銭的なやり取りに慣れてはいたんだ」
これは別に嘘じゃあ無い、俺はサラリーマンだったから。
借金なんていう単語にだって、社会で揉まれてきた経験が有るから変にビビったりなんかはしないのさ。
――2へ続く――
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