異世界転移した先で、キミとウエディングベルを鳴らそう――MAKEOVER――
神代零児
いつか最高に最強と知られる青年の、長き転移初日の章
第零話 トラブル・チェイン! 振られた矢先に異世界転移(1)
『運命の出逢いなんてものが、人生の内に一体何回来るか』って話になったら。
世界は広いと言えど、一回来れば良い方だろうってこの俺
ただ、もしその世界を越えた先に二回目が待っているのなら……皆なら異世界転移してみたいって思うかい?
※
今のこの比較的平和なニホンでは、心の底から勇気を出さなきゃいけない場面なんて実際そんなに来るもんじゃない。
俺の
命に関わるような、そんな事は先ず無いと言って良い。
で、大人になるにつれ上手くやり過ごす技を身に付けるようになってくると、もう仕事で上司にいびられたり無茶ぶりされたからって正面から勇気を出す感じでも無くなっててさ。
人間ってのは基本、良きにつけ悪しきにつけ環境に適応していく生き物じゃん?
慣れてしまいさえすればそれ以後は大体で……って感じで、なんとか出来ちゃうものなんだよな。
だけどそんな風になっても、好きな女に告白する時は俺はいつだってビビり倒しててさ。
物凄い勇気を出さなきゃまともに喋れもしなくなる、そんな自分は本当にダサいってそう思う。
今年で二十六歳になるこの俺
カガミが名字でレンが名前。
女みたいな名前とたまに言われるけど、れっきとした男だよ。
標準的な身長体格にほんのり茶色に染めた髪。
眉毛はあんまり弄ってない、手入れが面倒臭いからね。
そんな心構えだから、決して普段から女にモテたりするようなノリの良い男では無いけれど。
でも別に女にモテたい訳じゃなくて俺が好きになった女を大事に出来れば良いって考えだから、そこは気にしてない。
気の良い同僚がセッティングした男女の出会いの場なんかでも、初対面の女相手に男は見た目より中身で勝負するものだからとか、そんな事結構普通に言っちゃう。
勿論クソ真面目にそう言ってる訳じゃなく、あくまでネタ的にだけどね。
ネタでもそんな事言うと女達はしらけるだけだろって、そう思うのは
これが俺自身の好感度はともかく、場の空気的には寧ろそこそこ温まるんだよね。
男女間でのお付き合いってやつは、やっぱり理屈だけじゃ測れないもんでさ。
気の利いた言葉ばかり言っていれば良いってもんでも無いのさ。
先ず最初の方で言ったように、俺は普段から上司のいびりや無茶ぶりに対して、良い感じの妥協点を提示したりと上手くやり過ごしてる訳ね。
結果的に職場の空気が荒れるのを防ぐ事にもなってさ、仲間内ではそうした俺の中身への、きちんとした実績と評価が存在してる。
だから俺が『中身で勝負』とか言っても、それを知ってる男連中はちゃんと笑って許してくれる。
でもって女だって出逢いを求めてそういう場に来てるんだから、男連中が皆わいわいしてれば『ああ、この発言はここではアリなのね』って感じで空気を読み始めるんだ。
基本的には女の方が男より駆け引きが上手いらしいんだから、盛り上がってる男達なら掌で転がしちゃえって、そんな風にノッて見せるのなんてきっと簡単で。
一度そういう流れになってさえしまえば、話は色々と早くなってくもので。
男の方でも調子の良いヤツなんかは俺の発言をボケに見立てて上手くツッコミ決めて、そんな女達の好感度を上げに行ったりするんだから逞しいってもんだよ。
そのままそいつが誰か女をゲットしたなら、俺もアシスト役として役に立ったなって良い気になれるし。
言ってみれば、これは男女のお付き合いの妙ってやつ。
皆が自分にとっての良い展開を望んで取った行動が、結果的に全員にとっての良い展開へと繋がっていくんだ。
その中で徐々に心の距離を詰めていく男女の巧みさっていうものを、俺は尊重してやりたい。
『リア充爆発しろ』とケチを付ける気には俺はなれない。
この考えに関しては流石に皆『レンはおかしい』って言って来るし、まあそれも分からなくは無いけどさ。
……俺自身は別に、本当に女から俺の中身を見て貰えるなんて事は思ってないよ。
逆にそういうの自分で気にしてたら中身が曇るし。
大体の女は『そうだよね、肝心なのは中身だよ』と返してくれるけど、それが社交儀礼なのはお察しというやつで俺も本気に取ったりはしない。
『そういうの自分で言うの逆にキモいよ』と、俺に勝ち誇ったような顔で有り難い助言をくれる馬鹿正直な女も居たけど、そういうのは逆に可愛いものだと思うかな。
だって馬鹿が付く正直さなんだから、少なくともそういう女は普段の言動に於いて信用は出来るって事だろう?
恋愛対象にはならないし、向こうも俺なんかよりもっと分かり易くノリの良いモテるタイプを選ぶから、深く関わる事は無いけれど。
じゃあお前はどんな女が好きなんだって言われたら、ちょっと答えには困るけど。でも居る事は居る。
……俺が『男は中身で勝負するもの』って言った時、『ふぅん』と短く返してきた一人の女にだけは、俺はひやりとしてしまっていた。
だってこの『ふぅん』は、その女の様々な思惑がぎゅうっと凝縮された『ふぅん』だったから。
彼女はそう返しながら頭の中では、俺の男としてのポテンシャルとかどんな考えで居る男なのかとか、そんな事を静かに探ってきていたんだ。
だから外側の反応は逆に鈍い感じに映ってさ、そんな彼女を他の連中はノリの悪い女だなって風に一瞬見遣っただけだったけど、俺にはすぐ分かったよ。
確かに彼女は、まるで姿勢を低くして獲物を狙う女豹のような眼光の鋭さを俺に向けて来てたんだ。
実際狩られて、それでもあの場で何をされてそうなったのか俺は全く分かってなくて。
まだ電気も明るいままベッドで上になられて、その時にようやくハッとして、ガチで焦った位だった。
俺が惚れたのは、その女豹さ。
女豹だから惚れたのかって言われたら、まあそれも有るとも思うんだけどさ。
でもそれ以上になんであれ、彼女というギラギラした強い女が一人の男としての俺を見込んでくれた事が、嬉しいっていう風に思ったんだ。
誰かを好きになるっていうのは理屈じゃないから、これ以上はもう上手く説明も出来ないしする気も無い。
彼女の方はあくまで男を狩りたかったっていうだけで俺に惚れた訳では無かったのだと、その時には気が付かなかった。
少なくともその瞬間の俺にとっては、それはどうでも良い事だったから。
だって自分の心が『この女に惚れた!』とそう言って来てるんだから、それ以外はもう全部どうでも良い事だろ?
星の数居る女の中で、その時たった一人自分が惚れてしまった女なんだから。
告白したんだ。暗がりの中、ベッドの上で。
シチュエーションとしても、俺のテンションも、きっとおかしな感じだったかもしれないけど。
それでも
鼓動がめっちゃ早かったのを憶えてる。
女豹の眼のまま彼女が一瞬呆気に取られた後に、すぅっと微笑んで来た時はさ、そりゃあ人生で一番ビビりまくってこのまま死ぬかもなんて思ったよ。
それでも自分は彼女に相応しい男になれるし、絶対になると信じてた。
そんな女豹のような眼をした……付き合って二年になる恋人、
「ごめん。レンとは結婚は出来ない」
「……えっ?」
――2へ続く――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます