第一話 ハロー・ブライド!? 情熱の淑女アクアレーナ(2)
彼女――アクアレーナの姿を改めて見る。
純白の薔薇の意匠を凝らしたウエディングドレス姿、そうウエディングドレスだ間違い無い。
薄いヴェールに覆われた、この青空の下で尚青い、ニホン人に見る黒や茶の髪色とは根底から違った綺麗な青い髪。
その色味は、何処か冷たい女みたいな印象を俺に与えもする。
けど、いや冷静になれよ俺。彼女の実際の行動を鑑みろ。
彼女は今、俺の上に乗ってるんだぞ。
物凄く情熱的な女なんだ、絶対。
髪の色味なんかで印象を引っ張られてはいけないんだ。
そもそもここは異世界だ。ニホンじゃ青がクールな色だとしても、こっちじゃ何が情熱の色でもおかしくないんだから。
肌の露出は腕と顔、後は肩口までばっくりと開いた胸元の部分で、逆に脚はロングタイプの裾の広いスカートですっぽりと覆っている。
悪くない露出の仕方ではあるとそう思う。
隠す所は隠して見せる所はピンポイントで見せる、そういうデザイン。
だからこの開いた胸元のデコルテラインに見入ったとしてもきっと俺は怒られない訳で……。
男としてはそういうのって、素直に嬉しい。
端整な顔立ちをしてるのに、その表情は遠慮無しに前へと浮き出ている。
すっと通った鼻筋は大人の女の魅力を放っていて。
でもこっちに依存してきてると分かる目つきのあどけなさは危うさと表裏一体で……。
なのにぷるっとした唇は、正直エロスを秘めている。
説明に擬音がちょいちょい混じったのは、それが女の見た目についての説明だったからさ。
飾った文体で女の見た目を語る程、俺は自分の性的趣向を飼い慣らせてはいない。
実際に綺麗な女を目の当たりにして、それでも冷静な感じで気取った説明をする男はきっといわゆるむっつりスケベだよ。
でも女も意外と気取ったむっつりスケベが好きだったりするから、別にそれが悪いって事じゃあないけどね。
「レン様、これからはずっと二人添い遂げましょうね」
――ッ!?
「それは、無理だ!」
危ない油断してた! 見惚れている間に口を開いたかと思えば、いきなりなんて事を言ってくるんだよ!?
さっきから花婿様とか添い遂げるとか、そんなの無理に決まってるっての!
「そんな!?」
アクアレーナは露骨に悲しみに暮れた表情を見せている。
一体何がどうしてそんな風に、今出逢ったばかりの俺に真っ直ぐ感情をぶつけられるのかな……。
というか、いつまでもこの体勢のままで居るのは良くないんだよ。
「アクアレーナ、さん。どうあれまずは、起きて立とう?」
ここの地面は石畳になっていて、倒れたままの姿勢じゃあ俺の背中に優しくない。
それにさっきからずっと教会の方で本物の新郎新婦や
このままじゃ、あの二人の結婚式の邪魔になってしまう。
彼女はその事には全く考えが回ってないみたいで、ひたすら俺の顔から眼を離そうとしないけど。
本当に、穴が空く位ずっと見つめてきてる。
潤ませたその眼の力は真に迫り過ぎていて、俺は思わず唇をきゅっと締めてしまっていた。
「……分かりました」
彼女はそんな俺の心の疲弊を感じ取ったのか、視線に籠める想いの圧力を幾分和らげてはくれた。
上体を起き上がらせた事で、だいぶ近かったお互いの顔の距離が開く。
とにかく、これで少しは俺も落ち着けるよ。
……と思ったらこいつ! 今度は腰に重心を掛けて俺の下腹部辺りに降ろしてきたぞっ!?
「くぅぅんっ――!」
ごめん、今のは俺の声っ!
思いっきり変な声が漏れたけど、でもこんな事されたらしょうがないよっ!
当たってる! 彼女の、アクアレーナの柔らかいお尻が、俺の一番当たってはいけない所に当たってるんだぁっ!!
待って待って! この状態は良くない!
いやマジで物凄く良くないから!!
幾らスカート越しとはいえ、ぺたんと座ってきているからフィット感が凄い!
てかこれ、完全に挟まってるよねっ!?
そういう意味でも早く退いて欲しいのに、なんで、なんで彼女はそんな微動だにせずに居られるの!?
「レン様、花婿様……」
「は、花婿様じゃ、無いけどぉっ!」
このキケンな感触の所為で気が動転し掛かっていたけど!
それでも否定すべき所は否定するぞっ!
「……私が退いたら、そのまま逃げたりはしませんよね?」
彼女は少し間を置いてから、なんか凄く心配そうな顔で聞いてきた。
「……えっ?」
えっ、嘘だろ?
こいつ『花婿じゃない』って俺の台詞を、完全に無い物みたいな感じでスルーしてるぞ。
今喋る前に間が有ったよね?
「俺の言った事、ちゃんと聞こえていた筈だよね?」
「……」
今度は黙った!?
絶対、わざとやっているじゃんか!
こいつ、
だけど、俺の心はそういう彼女の振る舞いに対し、不思議と嫌悪感を抱きはしていなかった。
大事な所がお尻に挟まっているから感覚が麻痺した――とか、そんなのじゃあ無い。
彼女のそのリアルな
……そうか。
俺だってこれまでの人生で、ただただお気楽な男女付き合いだけをしてきた訳じゃあ無い。
しかも二年もの間、男を狩る女豹のような女と恋人同士だったんだ。
だから、女が男に対して使う技っていうものにも、それなりの理解が有る。
否定された事に関して、安易に過剰な反応を見せてしまえば、相手から余計に拒絶される事になる……。
だったら、最初から反応をしないでみせたら良い……。
なんでもかんでもそんな風にしてたら単に自分への悪評が立つだけだけど、でもここぞという時に限定してやってみせる事が出来るなら。
それは相手に自分の気持ちを押し通す為の、抜群の効果を発揮する一つの技になる。
――そういう技を、今彼女は使ってきてるんだ。
それは女の巧みさと言って良いものだと、そういう風に俺は思ってる。
この巧みさと、強引さ……。
その更に上の、心の芯の部分で……彼女アクアレーナは嘘偽りなんかじゃ無い、とても真剣で真っ直ぐな目線を俺に向けている。
もしかしたら……。
彼女はあのシュウ以上の、ギラギラとした心強い女なのかもしれない。
――3へ続く――
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