第二話 ゼルトユニア! ニホン人とこの世界の関係(2)
馬車に乗っている事にも、結構慣れてきたかな。
車輪が土の道で回る、カタカタという音が改めて耳に届いてくる。
俺はふと、備え付けの窓に映った景色の動きへと目を向けた。
音や景色をより鮮明に感じるのは、それだけ俺がこの場の空気に慣れてきてるっていう事だ。
だからぼちぼち、話の内容も踏み込んだものにしていこうと思う。
「ゼルトユニアの人はさ、皆当たり前のようにニホンの事を知ってるものなの?」
俺のその問いに、アクアレーナは頷いた。
「そもそも世界というものは次元を超えて幾つも存在しているのですが、ニホンはその中でもかなり有名なんです」
「え、マジで?」
彼女の言葉に俺は思わず身を乗り出して、口の中の飴もパキッと噛んだ。
彼女は、更に教えてくれる。
「それぞれの世界は多岐に渡る繋がりを有していますが、ニホンは特に多くの世界と強く深い繋がり方を持っていて……その歴史の中で実に多彩な人が異世界への転移、又は転生を果たしておりますのよ」
「ニ、ニホン人、異世界行き捲ってんじゃん……!」
なんか大それた話だとは思ったけど。
それでも彼女の口調が凄く丁寧で、それでいて要点を纏めた話し方をしてくれてるお陰でだいぶ受け止め易かった。
「ふふっ、そうなんです。凄いですよね、ニホン人の方々は」
アクアレーナは両手をポンと合わせて、小首を傾け気味に微笑んでくる。
い、いやいや、そんな『ここぞとばかり』に可愛い仕草持ってこられても……。
それは『ここ』では無い気がするんだけどなぁ……。
でも話自体が予想以上に刺激的だったので、俺もより前向きに彼女と話したいって感じになってしまっていた。
「まあなんていうか、俺がこの世界に居る事にも、その、少しは安心感が出てきたよ」
「そのような適応力の高さをお見せになられるなんて、私もレン様の花嫁として自慢に思えますわっ!」
「いや、だから花嫁とかそういうのはまだ待ってってば!」
「そうなんです、ゼルトユニアにニホン人がお越しになるのはそれ程珍しい事でも無いんですよ、レン様っ!」
おーい、俺の否定を華麗にスルーするなよアクアレーナ・ユナ・フレイラー!
まったくもう。こいつめ、俺が少し気を許すとめっちゃそこにぐいぐい来るじゃん!
基本はお淑やかなのにそうした妙な強さも出してくる。
やっぱり彼女って、内面はだいぶギラギラした女だ。
参った事に、俺にとって好きなタイプではあるんだよなぁ。
「……それでも、自由自在にこっちに転移出来る訳じゃあ無いんでしょ? 何かの条件が必要だったりはしないの?」
「そうですね、ゼルトユニアからニホン人が来訪されるには、こちら側の人間から召喚を受けなくてはいけません」
召喚か。
ん、ていう事は……。
「じゃあ俺を召喚したのって」
「レン様のお察しの通り、この私で御座います」
そう答えた時には、流石に彼女も深々しく頭を下げた。
「この世界の女神ファリーリーがゼルトユニアの民に
真剣な眼差しが俺の心を撃ってくる。
『撃ってくる』ってのは俺の言い回しってやつで、俺が気分を上げていく為のものだから気にしないで。
――だってさ、話の中で今彼女は『女としての攻め』のターンに入ってきたんだ。
俺の方も、その攻めに対して構えなくっちゃあいけないだろ?
でも、それでも真正面から彼女に当たるのはまだだよ。
ここは違う角度から当たってみよう。
俺は一瞬張り詰めたような表情を向けてから、その緊迫感の糸を敢えて『切っ』た。
「……またまたぁ、運命の契りとかそんな大袈裟な事言わないでよー」
その急な軽い話し口調に、前のめり気味だったアクアレーナは盛大にずっこける。
「ふにゅんっ!?――レ、レン様ぁここに来てそれは無いですぅっ!」
ふにゅんって、別に萌え系ってタイプでも無いのにそんな鳴き声出してきちゃってさ。
でもこれはこれで『ギャップ萌え』っていう隠れ上級の萌えが見られて可愛いけどね、ふふっ。
やや口を尖らせた甘え顔のアクアレーナに、ほんのちょっぴりフォローも入れてあげる。
「いや、キミは本当に綺麗な
「へ? き、綺麗だなんて、そんな……じゃなくって! ご自身の事をそんな風に卑下なさらないで下さいまし。レン様は、その、素敵な男性なのですから……」
女の見た目を褒めるっていうのはどうにも嘘っぽく受け取られるものらしくって、結構難しいんだけど。
こんな感じで話の本筋とは違う所に挟むと無理がなく伝えられるから、やり方としては俺は好きだ。
ただ俺が彼女の美の対比の為に自分を下げてみせた事を、当の本人がこんな悲しげに受け止めてくれるとは……。
……ちょっと思ってなかったけど、ね。
「ごめん、冗談が過ぎたね」
「い、いえ……レン様がそんな軽薄な方でないとは思っておりますから。先程も、お気遣い頂きましたし……」
……過去の男達の話題を避けた時の事か。
やっぱり彼女、分かってくれていたんだね。
アクアレーナはまたはにかみ顔になっていた。
……ああ、そうか。
飴をくれた時キミは今みたいな顔をしてて、それは俺が『いただきます』って言ったからだったけど。
特別というような言葉じゃない、普通の心遣いから出した『いただきます』って言葉だったからこそ。
キミという女の、キミ自身の女の心には響いたんだろうね、きっと。
「――あ。レン様、屋敷はもうすぐですわよ!」
彼女ははっとした感じで、俺にそう告げてきた。
いよいよ彼女の屋敷か。
まあ、到着するまでに少しは異世界転移や、彼女の事を知れて良かったかな。
けど……馬車は道の途中で急に止まってしまった。
彼女にとってもそれは想定外だったようでさ。
「一体何が? 外に出て確かめますので、レン様はここでお待ちくださいませ」
責任感の強さを感じさせる声で、迷う事無く馬車の扉を開けたんだ。
「いや、俺も一緒に出るよ。今はこの世界での出来事はなんであれ経験しておきたいし」
それに、キミ一人に苦労をして貰おうなんて気は起きないから。
俺は彼女の後に続いて馬車を降りる。
充電が切れて電源がオフになっていたスマートフォンは、その時に
――第二話 完――
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