『色』がタイトルに入り、全四篇で綴られるという短編連作の第一篇。
舞台になるのは、散乱する光に揺られて栄える海底都市。
海――それは人類種にとって、地球上で最も遠く未知なる場所。
最深度は一万メートルを超え、世界最高の山エベレストが三つ埋まってなお有り余る深さと言われています。
けれど、その未知なる場所に存在する海底火山の物質は、生命誕生の謎を解く鍵になるとも言われています。
そんな恐ろしくも興味深い、生命創生の褥で綴られるのは濫觴の詩。
進化してすでに過去となったはずの場所に追いやられた人類種、その一人である少年は見ることの叶わぬ『空』を、水面のその先を熱望し、仲間である少女と共に脱出を図り――
水面の先、光の揺りかごを超えることができたのか、どうかあなたの目で確かめてみてください。
ぜひご一読を。
そして、その先を待望しましょう。
「『本当の空』を見るのを、諦めたくない」
海底で暮らす事を強いられる少年少女の会話での一言が、本作品で最も印象的な言葉だ。
誰でも、目にした事のない世界は、憧れるものだ。海底で暮らす人間が、全てが汚染された地上から人類を守る人口海流の向こう側の世界、しかも、過去には人類が触れることの出来た世界のその先にある空に憧れることは、きっと人類の本能的なものであり、希望の象徴とも言えるのだろう。
そんな世界で、人類は己の意思で地上を、空を諦め、海の底へと沈み、生き続ける。水底の世界で暮らす子供達の多くは、空への挑戦を夢見るものの、その挑戦は、海底の世界では受け入れられない。「夢は夢でなくなる」ことを理由に、大人たちは拒み続ける。
夢の先に人の意思でたどり着けない世界に、生きる価値はあるのか。諦めという名の絶望に囚われた世界で、生きる意味とは何か。
「水底へと続く深い深い群青と――あの『空』に煌めいた、温かい白い光が忘れられない。」
主人公の少年少女は、変わることがないであろう水底の世界の中で、一度は掴みかけた空の光を諦めずに求め続けるのだろうか。
願わくば、彼らが諦めずに夢を叶え、その先に生きる意味を見つけてほしいと願わずにはいられない。
...そんな、物語の先を想像せずにはいられない本作品、楽しませて頂きました。
冴月様、ありがとうございました。