第15話
ナナセとトワの記憶は私の頭から離れなかった。
あれから何年経ったか知らない。仕事を辞めて家も引き払った私は田舎で預金を崩しながら生きている。何をするでもなく追憶に耽り、死んだ二人の女に想いを馳せるのだ。
あの日以来、他者に対しての暴力的な欲求は形を潜めた。しかしそれは私の本性に変異が生じたわけではない。ナナセとトワの最後が、麻薬のように強烈に脳へと染み込み、もはや彼女達でしか満足できなくなってしまったのである。どれだけ血と肉を望んでもあの日の光景がフラッシュバックし湧き上がる劣情をかき消してしまう。ナナセとトワの死が私を縛る。最上の悦びは以降の虚無を生み私は無感動の世界へと閉じ込められてしまった。後に残るは、自らの死だけである。
指を強く噛む。
痛みと同時に得られる快楽。それは、トワとナナセを想像しての自慰であった。
左手はもう人差し指しか残っていない。最後に残った指を噛み締めると、歯が骨まで到達し、血の味がした。
頭に描く二人の女。私は、きっと、今でも、彼女達を愛しているのだろう。
愛 白川津 中々 @taka1212384
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