織田信長殺人事件

@nayru9936

第1話 魔王朽ちる!

炎は人間に温かみと明るさを与えてくれることに寄与していて、この恩恵を強く受けている。もしも人間が手にしていなければ、寒さを凌ぐことも料理を食べることもできなかっただろう。


しかし、炎は優しさばかりを与えてくれるわけではない。


一人の男が目の前に広がる業火に目を向けていた。


織田信長。尾張藩城主であり、混乱する日本を纏めるために一心に突き進んだ武将である。


「信長様、残念でございます」


信長の傍らには最も信頼していた小姓の森蘭丸がいて、自らの刀を震える両手で落とさないように必死で持ちあげていた。


信長は自分でも不思議なほどに冷静だった。いや、いずれはこのような運命が来ることを知っていたのかもしれない。


「蘭丸・・・、辛い役目を与えることを許してくれ」

「信長様、すぐに後を追わせて頂きます。別の世界でも、私は生涯を信長様に仕えます」


信長は少し笑みを浮かべると目を閉じた。


「許さんぞ!光秀!!」


蘭丸は絶叫と同時に刀を信長に振り落とし、希代の魔王と呼ばれた織田信長はその命を終焉した。返す刀で蘭丸は自分の首を深く切り裂き、絶命すると本能寺の屋根が焼け落ち、二人の体は炎に囲まれていく。


「光秀様、信長の遺体が発見できません」

「そうか・・・」


崩れ落ちる本能寺を望む高台にいた明智光秀は、静かに家臣からの報告を受けていた。信長を討ち取るという大願は成就したが遺体が見つからなければ意味がないため、家臣らは必至で焼ける本能寺の中で悪戦苦闘している。


時代の変化は突然に訪れるものだが、光秀はその流れを自分が行うとは予想もしていなかった。


「これで良かったんだ。・・・・すみません、信長様」


光秀の頬に光るものが流れ落ち、本能寺を燃やす炎で輝いていた。

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