新たな冒険の始まり4
自分たちを捕らえてどうするのか、という問いに、ランヴァルドや彼の配下と思われる男たちがなにを考えたのか、陽一は【鑑定Ω】で読み取った。
それがろくでもない考えであることは、陽一の表情を見ればわかる。
「やはり、野盗の
そう呟くアラーナの手に、二丁斧槍が現われた。
「貴様っ!?」
相手が突然武装したことに驚き、ランヴァルドはその場から跳びのいた。
それと同時に、彼の配下全員が剣を抜く。
「騎士を相手に武器持った以上、容赦はせんぞ」
ランヴァルドは剣を持った手を前に出し、腰を低く落とした。
見たことのない、珍しい構えだ。
「いいぞ、根性を入れてかかってくるがいい」
そんな彼の言葉を、アラーナは斧槍を持つ手をだらりと下げたまま、構えもせず受け止めた。
「私はめちゃくちゃ強いからな」
そして、不敵に笑う。
「ほざけぇーっ!」
悠然と立つアラーナに向け、ランヴァルドは素早く踏み込みながら、鋭い突きを放った。
砂の上とは思えないほど強く深い踏み込みで、彼は数メートルの距離を一瞬で詰める。
並みの者なら、反応すらできずに突き殺されるだろう。
――キィンッ……!
だが次の瞬間、甲高い音とともにランヴァルドの剣は半ばから折られた。
無造作に振り上げられた、アラーナの斧槍によって。
「がっ……!?」
そしてランヴァルドは、状況を把握する間もなく斧槍の石突きで顎を殴られ、その場に倒れた。
「ぐぁっ!」
「ぎゃっ……!」
その直後、男たちのうち2名が肩を矢で射貫かれて倒れ、3名が雷撃のショックで気絶する。
「くそっ!」
騎獣に乗ったままだった残りの数名が、不利を悟って逃げ出そうとした。
「にがさねーっすよ」
アミィが呟くと、騎獣が突然暴れ出し、乗っていた者を振り落とす。
地面が砂地だったこともあり、大けがを負う者はなかったが、さらに何名かは気絶した。
「ほう、見事な腕前じゃなぁ」
マントの女性が、驚いたようにあたりを見回す。
そして陽一に目を向けたとき、彼は拳銃を構えていた。
――ドシュンッ!
「がぁっ!」
いままさにナイフを投げようとした男が、肩を撃ち抜かれて倒れる。
「いまので、終わりかな」
陽一が男たちに目を向けると、ランヴァルドを始め大半が気絶し、意識がある者も戦意を喪失していた。
「それで、こいつらどうする?」
「ふむ、そうじゃな」
陽一が尋ねると、彼女は肩を射貫かれてうめく男の前に立った。
「町へ来れば、治療をうけさせてやろう」
その言葉に、男は痛みに喘ぎながら目を見開く。
「ただし、牢の中で、じゃが」
女性が嘲るように言うと、男は悔しそうに目を逸らした。
「あとはこやつらの判断に任せるが、よいかな?」
「君がそれでいいなら」
陽一の言葉に小さく頷いた彼女は、アラーナたちに目を向ける。
「先ほども言ったが、見事な腕前じゃな。いったい何者かのぅ?」
「私たちは――」
「いや、人に名を問うときは、まず己から名乗るのが礼儀、じゃったな」
答えようとするアラーナの言葉を、女性がそう言って遮る。
アラーナとしても、あれは無礼者を相手に喧嘩を売るための常套句であり、敵対していない以上問われれば名を名乗るくらいの礼儀はわきまえている。
「あ、いや、それは……」
なので、いざ真に受けられると少し困ってしまうのだ。
ただ、女性のほうもなんとなくそれを察しているのか、どこかからかうような口調ではあった。
「私はカミラという。この先の町を治める領主の娘じゃ」
カミラの視線が向く先には、暗闇のなか煌々と輝く大都市があった。
領主の娘というが、町の規模や先ほどの話にあった王太子の婚約者という話から判断するに、上級貴族である可能性は高いだろう。
「う、ぐぅ……」
陽一らが自己紹介を返そうとしたところで、気絶していたランヴァルドが目を覚ます。
「ぐっ……私は……はっ!?」
何度か頭を振ったあと、折れた剣を目の当たりにした彼は驚きの声を上げる。
さらに辺りを見回し、配下たちが戦闘不能になっている状況を見て狼狽したのち、アラーナを睨みつけた。
「おのれ……邪魔さえ入らなければ……!」
「本当にそう思っているのか?」
恨み言を吐くランヴァルドに対し、アラーナは冷淡な口調で問い返す。
「どういう、ことだ?」
「それは私より、カミラ殿に聞いたほうが早いな」
アラーナの言葉に、ランヴァルドはバッとカミラに向き直った。
「ふむ、気づいておったか。ま、あの腕前じゃしな」
そう言ってカミラがパチンと指を鳴らすと、まるで地面から生えるように、10名ほどの人影が現われた。
「なっ!?」
そしてその人影は、音もなくランヴァルドや男たちを取り囲む。
移動の際に砂粒ひとつ巻き上げていないあたり、全員がかなりの使い手であることがわかった。
「ひぃっ……!」
意識を保っている男たちが、小さな悲鳴をあげる。
ランヴァルドはなんとか声を上げなかったが、目には怯えがあった。
「さて、ほかの者にも言うたが、町へ来るなら治療くらいは受けさせてやるぞ?」
「断る……! 連れていきたければ、力ずくでそうするがいい」
ランヴァルドはカミラを睨みつけながら、半ばまで折れた剣を手に立ち上がる。
「ふむ、どうやらお客さまはお帰りのようじゃ」
彼女がそう言うと、男たちを取り囲んでいた人影が遠ざかり、闇に消えた。
「では命の恩人を町へ招待するとしよう」
カミラは興味を失ったように男たちから背を向け、歩き始めた。
「カミラ殿、自己紹介が遅れました。私はアラーナ」
歩き出したカミラの横に並んだアラーナが、名を名乗る。
「おう、アラーナ殿というか。未熟とはいえ筆頭騎士を一撃であしらうとは、何度も言うようじゃが見事な腕前じゃな」
「まぁ、腕には自信があります」
「そうかしこまらずともよい、気楽に接してくれぬか」
「では、遠慮なく。それはそうと、余計なことをしてしまったかな?」
おそらく先ほどの人影は、町からの救援だろう。
あのまま陽一らが乱入しなくとも、間に合っていた可能性は高い。
「なんの。事情も知らぬというのに手を差し伸べてくれたこと、このうえなく嬉しく思うぞ」
ふたりに続いて歩く陽一のそばに、花梨が近づいてきた。
「ねぇ陽一、これって、あれよね?」
彼女はなんだか妙に興奮している様子だった。
「あれってなんだよ」
「あれよ、悪役令嬢」
「あー……」
下級貴族の娘にほだされた王太子が、本来の妃候補を
どうやら実里もこの状況に気づいているらしく、どこかそわそわしていた。
ちなみにアミィは敵が引き連れていた騎獣を手なずけ、機嫌よく引き連れている。
あわれランヴァルドたちは、歩いて帰らなくてはならなくなった。
並んで歩くアラーナとカミラはどうやら気が合うらしく、先ほどから親しげに会話を続けている。
「それで、カミラ殿はどうされるのかな? なにやら王族と揉めている様子だったが」
「なに、相手が誰であろうと我がリードホルム家の家訓をもとに行動するだけじゃ」
「ほう、その家訓とは?」
アラーナが問いかけると、カミラは立ち止まった。
「売られた喧嘩は、高く買う」
そして静かにそう言うと、彼女はアラーナのほうへ顔を向ける。
「それでアラーナ殿たちに相談なのじゃが……」
「腕利きの用心棒が必要かな?」
「……そのとおりじゃ。無論、報酬ははずませてもらおう」
「ふむ」
そこでアラーナは、陽一に目を向けた。
アラーナだけでなく、花梨や実里、アミィまでもが、期待のこもった視線を彼に向けている。
陽一としても、首を突っ込んだからには責任を持って最後までつき合うべきだろうという思いもあった。
「詳しい話を聞かせてもらおうか」
どうやら新たな冒険は、厄介ごとから始まるらしい。
嬉しそうに目を細める異境の女性を見ながら、陽一は苦笑を漏らすのだった。
――――――――――
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
これにて『えっ、転移失敗!? ……成功?』は完結となります。
2017年1月よりノクターンノベルズ連載を始めて約5年、こんなにも長く続くとは思ってませんでした。
書きたいことを書きたいだけ書かせていただきました。
オシリス文庫版も17巻で無事完結となります。
当初は10巻ぐらいで終わるかな、と思っていたのですが、気づけば書きたいことがどんどん増えて、随分長くなってしまいましたね。
それらを広い心で受け止めてくださった担当編集さん、そして飽きずに付き合っていただいた読者の皆さん、あらためてありがとうございます。
今後は止まっている作品の更新を再開したり、新作を書いたりしていきますので、これからも末永くお付き合いいただければ幸いです。
また、氷野広真先生の描くコミック版はまだまだ続きますので、そちらの応援もよろしくお願いします。
あと裏話なんかを書いてる平尾正和/ほーちの個人サイト(https://hilao.com/)もありますし、Twitter(https://twitter.com/hilaonovels)でもいろいろ発信してますのでよろしければそちらもどうぞ。
ついでと言っては何ですが、完結祝いに★いただけると嬉しいです♪
少し長くなってきたのでそろそろ締めようかと。
最後にもう一度。
本当にありがとうございました。
えっ、転移失敗!? ……成功? 〜ポンコツ駄女神のおかげで異世界と日本を行き来できるようになったので現代兵器と異世界スキルで気ままに生きようと思います〜 平尾正和/ほーち @hilao
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