百首揃え

上山流季

百首揃え


「百物語って知ってるか? 夜中に怪談を百個話して、そのたびに蝋燭を消していくアレだ。アレは大体『人間側』がやることだよな? だって、怪異おれたちが怪談を語ったって、そりゃあ、ほぼ日常のあるある話になっちまうからな」


「でもよ、発想としてはかなりイイと思わないか? 俺は思った。そこで考えたのが、怪異版百物語、その名も『百首揃えももくびぞろえ』だ。人間を毎年ひとり殺し、その首を集会あつまりへ持って行って自慢するのさ。怪異おれはいかにも怪異らしく、この人間を惨たらしく殺しました、とね」


「自慢の内容はぶっちゃけなんでもいい。たとえば、殺した人間のこれまでの人生についてを事細かに調べて発表し、お涙頂戴を誘うやつなんかもいる。怪異そいついわく、この首の女はこれこれこのように不幸な人生を送って来た。そしてやっと好きな男と結ばれて結婚した直後、怪異おれに首を刈られ死んだのだ。なんて可哀想なんだ、生きてさえいればきっと幸せになれたのに! という具合だな。……いや、その可哀想な女をより可哀想なタイミングで殺したのは、大げさにハンカチで目元拭ってる怪異おまえだろう……と思っていたから、俺はあんまり泣けなかったけどな。自演乙だ」


「他に、こんなやつもいた。まぁ、怪異の中にも人間と仲の良いやつってのは一定数いるんだがな? その怪異と仲良くしていた中学生のガキが、学校でいじめにあっていたそうなんだ。自分と仲良く遊んでくれる『友達』に酷いことをするような人間なんて、許せたもんじゃないだろ? だから怪異そいつは『友達』をいじめていた中学生の首を捻じ切って持ってきた。よほど許せなかったんだろう。怪異そいつの目は怒りや憎悪に燃えていたが、同時に悲しみにも濡れていた」


「逆に、大層笑ったのは酔っぱらって首を持ってきたやつだ。適当な首を斬ってみたらその首が2つに増えたと大騒ぎで集会あつまりにやってきた。しかし怪異だれがどう見ても首は1つしかない。要するに、酒に酔っていたせいでそいつにだけ首が2つに見えていたってやつさ。しかも、よくよく首を覗き込むと、それはチキン屋で看板をやっているジジイのマネキンだったんだ! 人間ですらねえのかよ! この年の酒は最高に美味かったなあ。もちろん、数を合わせるためにあとで人間を探すハメには、なったがな」


「ここで少し話を戻すが、本家の『百物語』では怪談をすべて話し蝋燭を消し終わると、実際に『ホンモノの怪異』が出るんだ。知ってたか? ……まぁ、百まで話しちゃ駄目なんだけどな、本当は。だって怪異おにが出るからさ。昔の人間たちは九十九で話を止めそのまま朝を待ったそうだ。怖かったねえ、面白かったねえと感想に花を咲かせながら、一夜限りのスリルと不可思議を味わっていたんだろう」


「さて、『百物語』完遂で怪異おにが出るなら、『百首揃え』を完遂すると一体何が起こるんだろうな? 怪異が登場しても、ぶっちゃけ同類だから怖くないし、人間が登場しても、なんていうか、怪異おれたちの朝方のおやつになっちゃうしさ。だから怪異みんなで話し合ったんだよ」


「是非とも、百の首を揃え最後を確かめようじゃあないか、と――」


「もう、詳しく説明しなくてもわかると思うががその百個目の首だ。椅子に縛ったり口にタオルを噛ませたりしてすまなかった。つまり、あんたを取り囲んでいる怪異みんなこそが百首揃えの怪異たちであり、ここが集会あつまりの場なんだ。さっきまでの俺の口上と、今からやる首刈りでもって、百年を要した百首揃えは終わりを迎える。ああ、長かった、けれど楽しかった、怪異おれたちにスリルと不可思議をありがとう。さようなら」


 別れの言葉と同時に、あなたの視界はゴトリと音を立てて地面へと転がった。

 不思議と痛みはなかった。ただ――ひとつの予感がある。


 あなたの赤い血はあなたの身体を伝い椅子を伝い地面に広がり次第に端から黒ずんでゆく。彼らの集会あつまりの場に、血が、恨みが、呪いとなって染み込んでいく。


 あなたには予感がある。彼らはこのあと、流れし血より生まれ出ずる新たな怪異――百首揃えの怪異おにによって無惨にもその首を刈られていくのだと。


 なぜなら、凄惨な死を遂げたあなたの血を、これまで刈られたてきた首たちの無念を、百年も積み重ねたのだ。この集会あつまりの場に今こそ生まれるは怪異殺しの怪異――怪異喰らいの怪異。


 あなたには予感があり――それはほとんど確信だった。


 だってあなたは、死に変わり生まれ落ちたばかりの百の首を持つ怪異あなたたちは、酷く空腹なのだから。




 百首揃え――その饗宴は怪異おにを生み落としてもまだ、終わらない。




 

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百首揃え 上山流季 @kamiyama_4S

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