両手でかき集めて、指の隙間からこぼれ落ちていくもの。

 両手でかき集めて、指の隙間からこぼれ落ちていくもの。
 私は、この小説をこういうものだと感じた。

 元に戻せるなら、やり直せるのなら、その期待と羨望に読み進めた先にある世界の現実は、しかしあまりにドライで、それ故にリアルでもある。

 愛する人か、世界か、という両天秤のその手の中に、たった一ヶ月という、時を隔てた恋人たちのなけなしの光。
 現在——いま——を生きる者と過去に生きる者との、想いと決意の行く末を、どうか未だ見ぬ読者にも体験して欲しいと思う。

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