第28話 レイラとの遭遇
アモルには、小さくなるスキルか【幽体離脱】が使えるようになるまでは森の中にいてもらうことにした。
あれほどに大きければ、テイマーが連れるモンスターだとしても街の中に入れることは難しい。
アモルに連れていけないことを説明し、ソフィアが立てるようになるのを待ってから、ジーク達は歩き出した。
〖ダリア〗を使わずに歩いていくのは、ソフィアがきちんと体を動かせるように練習を今のうちにしておこうと考えたからである。
「でも、動けない人を襲おうとするなんて、ジークってすごく変態だったんだね。あぁ、怖い怖い」
自分の体を抱きしめながらソフィアがそう言う。
「……それについては、もう、本当に申し訳ない」
罪悪感で胸が一杯なジークは素直にそう謝罪した。
後から聞くと、急に過剰な魔力を持つ体に入ったからか、とてつもない快感——魔力が急激に流れた時に感じる快感——が体に走り続けていたんだとか。
道理で凄く……いや、これ以上考えるのはやめておこう、そう思ってジークは首を振った。
「もしあそこで止めなかったらどんなことをされてたのかしらねぇ」
と思っていたのに、ソフィアは根に持っているようで、いや、それは根に持って当然なことなのだが、話を引きずってくる。
ソフィアがその話を引きずる度に、ジークは罪悪感に押し潰される、と同時に先程見たソフィアの裸体を思い出してしまい、劣情が再び湧き上がってしまうのだ。
それをソフィアに何とか隠そうと平静を装うジークであったが、それを見たソフィアは呆れた顔で呟く。
「また私の裸を思い出すなんて、やっぱりジークは変態なんだね。はぁ……」
何故かソフィアにバレてしまっていたようだ。
「うっ、それは……」
そのことを誤魔化しつつ、ジークは考える。
(でも、何でバレたんだ……?)
その疑問に答えたのはソフィア自身だった。
「何でバレたのかって思ってるよね?実はジークの近くにいたらジークの考えが伝わってくるのよ。昔の名残なのかしらね」
「え、まじか……」
「だから、本当に怖かったんだからね!」
(それは……まじか……)
予想外の展開に語彙力が消滅し、閉口してしまうジーク。
「でも、恋人に、もしなって、心から私に優しくしてくれるなら……いいよ」
そう頬を染めて言うソフィアの仕草に、再びジークの劣情が反応してしまう。
そして、やはりそれすらもソフィアに読みとられてしまって——
「う、やっぱりジークは変態!」
——ソフィアに拒絶されてしまうのであった。
(はぁ、いくらそういう気持ちを表面上で隠そうと取り繕っても、心を読みとられるんじゃ意味がないよね……。涅槃のような心を持たないと……)
ジークはそう思ったのだった。
「あ、そういえば、ソフィアが頭良いのは『体を動かしてないからキャパシティが』みたいな理由だったと思うけど、それなら今のソフィアは頭が良くないの?」
ジークは、ふと感じた疑問をソフィアに尋ねてみる。
まあ、声に出さなかったとしてもソフィアには伝わっているのだろうが、とはジークも思っていたが。
「あー、うーん、そんなことはないと思う」
「え、それは元々の考察が違ったってこと?」
「いや、そうじゃなくて、私もさっきの動けない時に【並列思考】を習得したから、それで体を動かすのをやってれば元と変化ないんだと思う」
「……自分も【並列思考】持ってるんだけど……?」
「……あはは、地頭ってやつなのかな……?」
(何故だ……元は同じはずだったのに……)
そんなこんなで雑談をしていると、気がつけば街の目前まで来ていた。
「ソフィアは街に着いたら何かしたいことはあるの?」
ジークがソフィアにそう聞くと、まさかの答えが返ってくる。
「うん、冒険者になりたい」
「えっと、それは、何で……?」
とりあえずソフィアの希望通り冒険者ギルドに向かって歩き出したジークだったが、理由が気になって、ソフィアにその理由を尋ねてみる。
その質問にソフィアは即答した。
「もちろん、ジークと冒険をするためよ!」
ソフィアから返ってきたのはそのような答えであった。
(う、うーん、嬉しいと言えば嬉しいんだけど……でも、一緒に冒険する人はレイラさんってもう決めてるし……)
ジークがそう思い悩んでいると、ソフィアが般若のような顔をしている。
(あ、しまった。思考読まれてるんだった)
「それなら、レイラのとこに行ってパーティに入る許可取るもんね!」
ソフィアが声を荒げた。
「あー、それは、レイラさんに聞いてみないと……」
ジークが困ったようにそう言うと、横からレイラさんの声がした。
「私は別に構わないよ」
気がつけば目の前には冒険者ギルドがある。恐らくレイラは冒険者ギルドに来たいたのだろう。
レイラは少し怒った顔でこちらを見ていた。
「もう、急に飛び出してどこかに行っちゃうなんて……しかも見つかったと思ったらこんな美人を連れてるし。……色々と説明してもらっていいかしら、ジーク君……?」
(いや、少しじゃなかった!かなりだった!)
「えっと、その、この子は僕の双子の妹みたいな立ち位置の子で」
レイラになんとか弁解しようと試みるジーク。
「ふーん、双子の妹みたいな立ち位置の子だと思ってるのに、私のこと襲ってきたんだ〜?」
だが、その試みはソフィアの妨害で崩れ去った。
「……ジーク君、説明してもらってもいいかな……?」
レイラは額に青筋を浮かべてそう言った。
「えっと、その、これには深い理由が……」
(ソフィア!場をかき乱すのはやめてくれよ!)
ジークは冷や汗を浮かべながらソフィアの方を睨みながらそう念じる。
だが、ソフィアはそれを無視して、優越感に浸った顔でこちらを見ていた。
「どう言う理由なのかな……?」
レイラがジークに詰め寄る。
「えっと、それは……」
(くっ、もう嘘をつくしかないか……)
ソフィアがこっちを見て驚いた顔をしていた。
「実は、諸事情で彼女が裸で動けなくなっていたので服を作って着せてあげたんですけど、それをしてたら、襲われるんじゃないか、と彼女は勘違いしてしまったようで……」
「う、嘘よ!確かに襲おうとしていたじゃない!」
ソフィアが声を荒げて言う。
「じゃあ、証拠でもあるの……?」
「……っ!ジーク、そんな嘘つくなんて最低だね……」
ソフィアが汚物を見る目でジークを見ている。
(ソフィア、ごめん。本当にごめん。今度埋め合わせをするから)
ジークが心の中でそう念じ続けていると、ソフィアが表情を顔から消して言う。
「ま、まあ確かに勘違いだったのかもしれないわね」
それは、ひどく棒読みであったが。
「(後で埋め合わせ、ちゃんとしてね。じゃないと……)」
その後直ぐに耳打ちでそう脅されたが。
「……まあいいわ。それで、女たらしのジーク君。この子が裸のまま動けなくなるようなことをジーク君はしていたんだと思うんだけど、それって何なのかな……?」
レイラがジークを絶対零度の瞳で見つめる。
(か、完全に最低なクズ男だと思われてる……。まずい、良い言い訳が思い浮かばないぞ……)
どうしよう、と思い、ジークがゴクリと唾を飲み込んだその時、ソフィアが明るい作り笑顔でレイラへ弁明を始めた。
「ふふふ、えっと、ジークは義理の兄なんです。本当は義理の兄に着替えを手伝ってもらってただけですよ。さっきのは冗談です」
(いや、ソフィア、それじゃ誤魔化せない気が……)
ソフィアは一瞬鋭い目でジークを睨み、また笑みを貼り付ける。
(いや、だって義理の兄弟で着替えを手伝うなんて、それこそもはや……)
ソフィアがジークの足を笑顔のまま踏みつけた。
ジークはもう何も考えないように無心で過ごすことを固く胸に誓った。
レイラは、怪訝な目でソフィアとジークを交互に見て、何かを諦めたような目でため息をついた。
「……まぁ、いいわ。何か隠し事をしたいみたいだし、今は詮索はしないけど。いつかちゃんと話してね?女たらしのジーク君?」
レイラが冷たい目でジークを睨む。
「は、はい!もちろんです!……って、女たらしじゃないですから!」
(とは言ったものの、ソフィアを襲おうとしちゃったんだよな……)
ここに来て、ソフィアを襲おうとしたことを一層後悔するジークであった。
「あ、それで、レイラさん、でしたよね?パーティに入れてもらえるって話、本当ですか?」
「うん、良いよ。貴方の名前はなんて言うの?」
「ソフィアです、よろしくお願いします!」
「(そう、ソフィアさん、よろしく。ジーク君に脅されてたり、酷いことされたりしてるなら教えてね。力になるわ)」
「は、はい、分かりました!」
ソフィアはぴくりと震えてそう返した。
(……なんか、自分の知らないところで話が進んでいく)
2人の会話から取り残されたジークは、疎外感に打ちひしがれ、ただ上を見たのだった。
——あぁ、今日も星が綺麗だ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ふーん、双子の妹みたいな立ち位置の子だと思ってるのに、私のこと襲ってきたんだ〜?」
「そうだよ」
「え?」
「え?」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
次回〝
※この予告はフィクションです。
まさか〝ダークファンタジー〟に固有スキル【形質反転】を使ったら〝ホーリーファンタジー〟になるとはね。 嗚呼坂 @ahsaka
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