第27話 ソフィアへの劣情




 急速な魔力の喪失にふらりとしてしまうが、それでも先ほど蓄えた魔力の数分の一程度しかないことに衝撃を覚えるジーク。彼は、今ソフィアの体を一から構成していた。


 つま先、かかと、くるぶし、と順に体が構成されていく風景、1ヶ月ほど前にも見た光景である。


 ただ、違うのはこの体には膨らみが……。


——パシン!


 その考えが頭をよぎった時、ソフィアに右頬を叩かれた。


「な、何するの?ソフィア?」


 あくまで意識は体の構成に集中しながらではあるが、突然叩かれた驚きを隠せずソフィアに聞いてしまう。


「じ、ジークの変態!!!」


 どうやらソフィアはいずれ自分の体となる体の裸がジークに見られているのがお気に召さなかった様だ。


(って言っても、この体を作ったのは僕だし、ものすごく詳細な部分まで製作段階の時に想像しちゃってるんだけど……)


 それを説明したとしようとしたが、どこかの本で女性は感情的になりやすい、と見たことがあることを思い出したジークは慌てて口をつぐんだ。


「でも、見なかったら細かいところが作れないから今しばらく我慢してもらえない?」


 ジークがソフィアの方向を全く見ずに体の構成をしながらそう言うのでソフィアも仕方ないと思ったのかだろうか。


「わ、分かったわ……そ、それなら仕方ないわね……」


 ソフィアは蚊の鳴くような声でそう言った。


 幽体なのであまり表情の色は読み取れないけど、もし読み取れたとしたなら、きっと顔が赤くなってるんだろうな、とジークは思う。


(……でも確かに女性の裸なんて軽々しく見ちゃいけないものだよな、ソフィアには申し訳ないことをしちゃったか……)


「えっと、まあ、自分が見る分、ソフィアがもっと綺麗になるように頑張って作るから、気にしないで」


 その無神経な発言はジークのもう一つの頬も膨れ上がらせた。


(いたたたた、何がダメだったんだ……?)


 ジークはもう少し女性との関わり方を覚えるべきであるようだ。




 しかしてソフィアの体を構成する魔法、〖デミゴッデス〗は完成した。


「それじゃあソフィア、体が出来たから入ってみて」


「そ、それより、いつまで見てんのよ!この変態!!!」


 もう一度右頬を叩かれたジークは、うーん、やっぱり女性は難しいな、と考えていた。


 ジークが目をそらすとソフィアは体に入ろうとした。のだが、入ろうとして何故か弾かれてしまったようだ。


「へっ?」


 ソフィアの素っ頓狂な声が森に響く。


「ソフィア、どうかしたの?」


「な、何でもないわ」


 ソフィアはそれからも何度も入ろうとするが弾かれてしまった。


「ソフィア、何があったの?見ていい?」


 ジークは神聖属性魔力——ソフィアの体、の維持に集中しながら再びそう聞くと、震えたことが聞こえてくる。


「う、う、仕方ないわ……。なぜか体に入れないのよ……」


 落ち込んでいるんだな、と一度聞けばすぐ分かるほどに小さな声でソフィアはそう言った。


(あれれ、何がダメだったんだ?)


 そう思い、作った体に問題があったのか?と状況を探ると、その答えはすぐに見つかる。


「……ソフィア。ゴーストの体のままじゃ入れないでしょ……」


 呆れた風にジークが言うと、ソフィアは幽体の頬をぴくぴくと上下させて叫ぶ。


「は、初めてだから仕方ないじゃない!それよりもう分かったからこっち見ないで!ジークの変態!!!」


 再び伸びた幽体の腕がジークの頬を叩いた。

 これで、左右それぞれ2回ずつ受けたと言う訳だ。


(……理不尽だ)


 まあ、なにはともあれ、この後ソフィアはゴーストの体から再び【幽体離脱】することができた。

 ゴーストの体は幽体ではなかったのか、と思ったが、ソフィアに聞いてみると、あの体をスライムで例えると魂は核でゴーストの体はそれ以外のような立ち位置なんだとか。


 そして、再び魂だけの人魂となったソフィアはジークの作った体にすっと入り込んでいく。


 だが、これはジークもそうだったのだが、転生したての時は体を動かすことが難しかった。それでもジークは【魔力支配】があったのでなんとかなったが、ソフィアにはないので、ソフィアは全然体を動かせなかったのだ。


 つまり、何が言いたいのかと言うと、ソフィアは裸のまま四つん這いでなかなか動かなかった。


 ジークがソフィアが動かない間に、とユートピア商会で見た女性ものの服と女性ものの下着を作り終えても未だにソフィアは四つん這いで埋まったままだったのだ。


(……よく考えたら、体を動かせず抵抗できない美女が森の中で裸で四つん這い、って相当にやばいシチュエーションだよな)


 ソフィアは美女である。

 白銀の髪にダークブルーの瞳。たわわと実った胸に、艶かしい肢体、そして、きめ細やかで真っ白な玉の肌。


 少なくともこれに劣情を抱かないならば、もうそれは男とは言えないだろう。と断言できるくらいには。


 人形と等しい、ただの魂の入ってない空っぽな魂の入れ物の時ならまだしも、今のソフィアの体はジークをして劣情を抱かせる。


「ソフィア、大丈夫?」


 その劣情を抑え込みながらジークはそう尋ねる。


 が、返事はない。

 どうやら口を開くことすらも難しいようだ。


 このままにしておくのは流石にまずいだろうと思ったジークはソフィアに服を着せることを決意した。


 だが、それは即ちソフィアの体をしっかりと見なければならないことを意味する。


「流石にまずいと思うから服着せるね」


 そのことをできるだけ考えないようにしながらソフィアを四つん這いの姿勢から仰向けの状態にして服を着せようとする。


その瞬間、ソフィアが悔しそうな顔で唇を噛んで頬を紅潮させているのがジークの視界に映る。


(うっ!これは、やばいな……)


 どうやらジークは女性の顔を赤くする行為に性的嗜好の照準が合っているようだ。


 ジークの劣情がひどく刺激されていく。


(まずい……抑えなきゃ。双子の妹みたいな存在じゃないか。こんなことを考えてしまうのは間違っている)


 ジークは深呼吸をしながら、まずは下着からつけていく。


 できるだけ心を無にして何も考えないようにしているのだが、ジークの手が触れるたびに嬌声を上げるソフィアにジークの理性がはちきれそうになる。


 顔を真っ赤にしながらこちらを見ているソフィアにジークの劣情が爆発しかけ、たった今着せた服を逆に脱がせてしまう。


 その行為にソフィアがひどく驚いた顔をし、ジークの劣情が暴走しかけた時——


《ジーク、ココロニトメテイルヒトガイルノダロ?》


——アモルが制止してくれたおかげでジークは九死に一生を得た。


(ぼ、僕は何ということを……。双子の妹みたいな存在にこんなことをしてしまうなんて……。僕にはレイラさんという心に決めた人がいるのに)


 そして、急激に思考が冷えていく。


 社会的に死ぬようなことをしてしまった、とジークは冷や汗を流した。


 そこからは直ぐだった。ジークは急いで下着を元に戻し、その上から少し前に作った服を着せていく。


 それが終わったところでソフィアから離れ、木にもたれかかって息をついた。


 そしてソフィアが動けるようになるのを待とうと木に寄りかかっていると、急に後ろからパンチが飛んできた。

 ソフィアのきつく握られた拳によるパンチが。


「……じ、じーくの、へんたい……っ!」


 まだ完全には体をコントロールできていないようで少し呂律の回らないようだが、その体に鞭を打ってジークを殴りにきたのだ。


(それくらいのことをしてしまったんだよな……。自分は……)


 ジークは落ち込みながらソフィアに謝る。


「ソフィア、本当にごめん。双子の妹みたいな存在なのに、こんなことをしてしまって」


「この、せい……はんざい、しゃ……っ!」


 だが、ソフィアの辛辣な言葉がジークの心をえぐった。


(うっ、本当になんてことをしてしまったんだ……自分は。で、でも、男なら仕方ないことじゃないか!)


 そう心の中で自己弁護しながらも、ジークはなんて言えばいいのか考えていた。


「ごめん、ソフィア。あまりにソフィアが可愛かったからつい」


 そういうと、赤かった顔を一層赤くしてソフィアは言った。


「このおんなたらし!そ、それでも、みうごきとれないときに、あんなこと、するなんて、さいていよ!」


 返す言葉が無くなってジークは絶句する。


「ほんとうに、こわかったんだから……」


 ソフィアのその言葉にジークは胸が罪悪感で押し潰されそうになった。


「ごめん、許されないことをしてしまったよね。もう一生こんなことはしないよ」


 ジークは最大限の誠意を込めてそう言う。


「そ、そういうことじゃなくて、じゅんじょってものがあるってこと!」


 だが、返ってきた答えは予想外のものだった。


「そ、それってどういうこと……?」


「そういうことは、こいびとになってから、ってことよ!」


 再びジークは絶句する。


「なによ、そのかお。じーくが、あのれいらってひとをすきなことなんて、しってるわよ。でも、わたしは、それよりまえから、じーくのことがすきだったの!」


 先程とは比にならない程の罪悪感がジークの身を襲った。だが、同時に彼は喜びも感じてしまっていた。


(申し訳ない、申し訳ないけど、それでも嬉しいと思ってしまう僕は最低な男なんだろうか。きっとそうなんだろうな)


 何せ、生まれてこの方、いや、転生前から、ジークはこの手の告白などされたことがなかったのである。


(でも、それでも僕にはレイラさんが……)


 その迷いを抱いているジークにソフィアは、追い打ちをかけるように告げる。


「わたしは、ずっと、すきでいるから。にばんめでも、いいから。わたしのことをみてくれたら、それでいいから……」


 ぽろぽろと涙を流しながらの告白であった。


 あぁ、僕はなんて酷い男なんだろう。そう思いながらも、ジークは、きつく、きつく、ソフィアの震える体を抱きしめたのだった。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


(あの亜神が女の子を襲おうとしてるぅ!な、なんて不埒なことをしようとしているのぉ!)


「観測神ガトレア、顔が赤いですが何を観測しているのですか?」


「だ、ダリア、いつの間に……!?」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


次回、〝この男、クズだったんですね〟


※この予告はフィクションです。

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