第26話 大魔石喰らい
目の前に聳え立つは荘厳な建物。そう、ザナドゥの商会、ユートピアである。
ジークが迷わず扉を開け中に入ると、そこには日常品から高級品まで、あらゆるジャンルの種々な商品が犇めき合っていた。
その光景にジークは息を呑んだ。
(す、すごい。これがアルマのユートピアか……。クレールのも大きかったけど、ここは別格だなぁ。ザナドゥさんがアルマに本拠地を置いてるからっていうのが大きいんだろうけど)
感嘆しながら辺りを見回していると、従業員の女性が話しかけてくる。
「いらっしゃいませ、お客様。何をお探しでしょうか」
(おお、さすが。接客まで一番手の商会といったところか)
接客までもが完成されていることにジークは再び感嘆しながら、早速自分の要件を伝えることにしたのだった。
「実はですね、魔石が欲しいんです。これで買えるだけの」
そう言ってジークは胸元につけたポケットから金貨を10枚出した。
懐からいきなり大金を出すとは思わなかったのか従業員は驚きを顔に貼り付ける。
「えっと、その、お客様、少々お待ちいただいてよろしいですか?店長を呼んでくるので……」
(ん?何か変なことでもしたかな?)
そう思いながらも、自分の行動に疑念を抱いていないジークはそれを快諾した。
「し、失礼します」
そして女性はすぐにこの場を去って、少し後に連れて来たのは強面でスキンヘッドの男だった。
「店長、この人です……」
「ふむ、君かね。魔石を大量に買おうとしているのは」
雰囲気がどこかきな臭くなってきたことを感じ取ってジークは頭が痛くなった。
「えっと、そうですけど何か問題でも?」
難癖なんかつけられちゃ溜まったもんじゃない、と言った様子でジークがそう訊くと、強面の店長は毅然とした態度でこう答えた。
「ふむ、問題は大ありだよ。魔石は高いエネルギーの詰まった石なんだ。だから、それを使ってテロなんかされたら溜まったものじゃない。それこそ、研究者の証明書でもない限り君のような素性の知れない人には売れないんだよ。しかも金貨10枚分なんて、テロをしますと言っているようなものじゃないか。それとも、君のジョブが学者だとでも言うのかい?」
強面スキンヘッドの店長はまくし立てるようにそう言った。
(う、そうだったのか。単純に知らなかったな……。まあ、前世で魔石を買う機会なんて無かったし仕方ないか……)
危うくテロリストになりかけていたことに落ち込みながらも、ジークは考える。
(学者はジョブチェンジ可能ジョブに確かにあったけど、ジョブチェンジするためには今のジョブをマスターしなければならない……それなら……)
「えっと、それなら、ザナドゥさんに連絡してもらえますか?」
ザナドゥの名を出すと店長が驚いた顔をした。
「君、ザナドゥ様の名前を軽々しく呼ぶんじゃない!君は何様のつもりなんだ!」
店長が怒鳴ってくる。
(これでこっちが貴族だったらどうするつもりなんだ?この人は。まあ、自分みたいな喋り方をする貴族なんてそりゃいないか)
【並列思考】で本線から逸れたことを考えながらジークは言う。
「えっと、とりあえずジークって名前でザナドゥさんに連絡してもらえませんか?」
そしてジークという名を出すと、店長は先ほどよりもさらに驚いた顔をした。
「まさか……その白銀色の髪、真紅の瞳、ザナドゥ様が良きに取りはからえと言っていたジーク様でしたか……!これは、申し訳ありませんでした!」
ザナドゥから予め話を聞いていたのか、店長は急に態度を180度変え、腰を深く折り謝罪をした。
そんな店長の変わりように頭の上に疑問符を浮かべた従業員の女は恐る恐る店長に尋ねる。
「(……店長、彼は何者なんですか……?)」
「(か、彼はザナドゥ様の命の恩人だよ!)」
「(なっ!そうだったんですか!?)」
「そ、そうとは知らず、申し訳ありませんでした!」
ひそひそ話をした結果、従業員も店長と一緒に謝ってきた。
(別にそこまでは気にしなくても良いんだけど……。まあ、話が上手くいきそうなら良かった。ザナドゥさんに感謝だな。にしても、そういえばザナドゥさんの呪いの件はどうなったんだろう。指名以来は来ていないけど)
【並列思考】でまたもそんなことを考えながら、ジークは謝罪を受け入れ、要件の達成を促す。
「えっと、謝るのはもういいですから。それより、結局、魔石は売ってもらえるんですか?」
そう尋ねると店長は、コクコクと首を縦に振った。
「もちろんです!今すぐ用意させて頂きます!」
どうやら店の倉庫に置いてあるようで、倉庫まで取りに行くそうだ。店長は急いで走っていった。
(慌ただしい人だけど、それもザナドゥさんを慕っているからこそなんだろうな)
思考を膨らませていたジークだったが、突然店の裏から出てきた、ジークの体を包み込める程に大きな箱に目を見張った。
「金貨10枚分の魔石です!」
その大きな箱とは、言わずもがなジークが購入した魔石が沢山入れられた箱のことである。
(こ、こんなにあるのか……)
魔石の相場を知らずに買いに来たジークは、若干引きながらもそれを金貨10枚で買い取った。
「「お、お買い上げありがとうございました!」」
その箱を——【怪力】を肉体に付与したおかげなのだが——軽々と持ち上げて歩いて行くジークの背中に、若干の畏怖と若干の必死さを漂わせて二人の店員は頭を下げた。
「いえいえ、いい買い物ができました。今後もよろしくお願いしますね」
そんなことを首だけ後ろに回して言って、ジークはそのまま店の外へと歩いて行ったのだった。
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(それじゃあ、こんなに大きな箱を持ち運んでたら怪しげな人だと思われかねないから、早速〖エンジェルオーラ〗で【魔石喰らい】をするとしようかな)
店の外へと出たジークはそんなことを考えて床に置いた箱へと手を伸ばした。
(〖エンジェルオーラ〗)
(【形質反転】)
(【魔石喰らい】)
途端、立っていられない程の快感がジークに走った。全身の神経を夥しいほどの快感が走り、焼き尽くす。言語化するならばそう言うのが適切であろう程の快楽がジークの体へと走ったのだ。
『【魔石喰らい】【神聖魔術】【魔力支配】のレベルが上がりました』
『【魔石喰らい】が【魔力喰らい】へと覚醒しました』
拷問のような快楽を乗り越え、荒い息をしながらも、ジークは頭を冷静に保った。
(……こんなに沢山の魔石を食べたんだからこうなるのは仕方ないかもしれないけど、にしてもなんで急にレベルが上がったんだ……?)
ジークの頭は急速に冷めていったが、それでも尚理由は解明できなかった。
(くっ、こんな時にソフィアがいれば……。まあ、後で聞いてみればいい話か)
そして立ち上がったジークは路地裏へと箱を運び、唱えた魔法の淡い光で自身と箱を包み込んだ。
(〖ダリア〗)
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路地裏への転移を何回か繰り返してジークはようやく街の外へとたどり着いた。
今度は人目を気にせずに〖ダリア〗を発動する。
また数回繰り返して、漸くアモルとソフィアのいる森へとついた。
そんな俺を迎えたのは、とても巨大な白いもふもふだった。
《ジーク、ヒサシブリ》
(おう、久しぶり……ってえっ!?!?)
その白いもふもふとは、言わずもがな進化したアモルである。
かつてはジークの腰くらいまでの高さしかなかったのに、今のアモルはジークの身長を優に超えていた。
あまりの変化に絶句するジークだったが、なんとか理性を取り戻し、なんとかこの言葉を頭で唱えた。
「アモルの『ステータス』」
・名前:アモル
・年齢:5
・種族:ホーリーウルフ
・位階:6
・レベル:32
・パッシブスキル
爆力lv1
神足lv2
気配感知lv9
生命力強化lv8
・アクティブスキル
爪術lv8
威嚇のオーラlv6
捕食回復lv5
・固有スキル
限定的神聖魔術ーエンジェルフォースlv2
・二つ名スキル
(……なんか、色々とごつくなってるけど、確かに目の前にいるのがアモルなのは分かった。めっちゃ強そうだけど)
少し複雑な気持ちになるジーク。自身の位階はただでさえ転生時に下がって1になっているのである。
その上アモルが強くなっているのなら、自身との差は如何程なのか。そう考えると、どれほど自分が裁縫に現を抜かしていたのかが分かるというものだ。ジークはそのようなことを考えていた。
(それに、二つ名スキルなんて自分のスキル欄にはなかったけど……どういうスキルなんだ……?一定数の人に呼ばれるとスキルになるのかな……?)
そんなことを考えていると、ゴーストのソフィアに話しかけられた。
「アモルのこの姿には驚いたでしょ?私もすごく驚いたわ。おそらくだけど、B級上位の強さはあるわよ」
「そんなにか……」
B級上位、[迅雷のニコラス]——ダンジョンで会った討伐隊の隊長程の強さである。
(自分が遊んでる間にアモルはここまで強くなっていたなんて……)
少しその事実に落ち込みながらも、ジークは大事なことをふと思った。
あれ、でも、このサイズじゃアモルを街には連れていけないんじゃないか、ということを。
《ヤッパソウダヨナ……》
元からそれは自覚していたのかアモルがしゅんとしている。
しばらく解決策を考えてみたが何も思いつかなかった。
(まあ、頭を悩ませても分からないものはとりあえず後回しにしよう)
そう考えてジークはソフィアの体を作るのを先にすることにした。
「一旦その問題は置いといて、まずはソフィアの体を作ることにするね」
ソフィアはそれを聞いて微笑んだ。
「すごく楽しみ!」
「よし、それでは早速」
そしてジークは魔法を唱える。ソフィアの体を作る魔法を。
「〖デミゴッデス〗」
その魔法を唱えた途端、神々しい光がジークから溢れ、一つの場所に向かってその光は収束していく。
ソフィアは、ただ目を輝かせてそれを見ていたのだった。
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「一旦その問題は置いといて、まずはソフィアの体を作ることにするね」
「すごく楽しみ!」
「よし、それでは早速」
「〖ミノタウロス〗」
「私のイメージってなんなのー!」
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次回、〝牛が好きなんだよね……って、え?そう言う意味ではない?〟
※この予告はフィクションです。
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