第25話 VSソフィア




「ソフィア、誤解なんだってば!」


 襲いかかってくるソフィアを避けながらそう叫ぶ。


「ワタシノコトナンテキライナンデショ!」


 どうやらゴーストと化したソフィアは魔物の本能に支配されているようだ。


(くっ、自分が昔ゾンビになった時と同じか。いや、むしろそれよりも……?)


 凶暴化してるソフィアを見て、【並列思考】でそんな考察をするジークにソフィアがさらに攻撃をかける。


「ジークナンテキライナンダカラ!」


 ソフィアの腕が瞬時に伸びる。


 有り得ないほどの長さになった腕を振り回し、遠くから攻撃してくるのを必死に避けながらジークは叫んだ。


「だから、勘違いなんだよ!」


 だが、その言葉は届かない。


「ウソヨ!ドウセマタダマスンダワ!」


 ソフィアは聞く耳を持たずに腕を振り回す。


(ダークウルフ並みの速さで攻撃をしてくるなんて……!)


 ソフィアの腕は幽体なので、とんでもない攻撃の速さをすることが可能なのだ。


 そんな攻撃を避け続けるほど、ジークの体にはかすり傷が付いていく。


「くっ、〖エンジェルオーラ〗!」


 ジークは前方に〖エンジェルオーラ〗を噴出し、【形質反転】でソフィアの体の邪気を反転させていくのだが……。


(くっ、手の邪気が反転したところで、振り回してるソフィアに影響はないのか……)


 ソフィアはただ腕を振り回しているだけなので、腕を邪気による支配から解いたとしても肩まで届かなければ無意味なのだ。


 では、肩まで届かせればいい、と考えても、ソフィアが腕を伸ばしながら後退していくので為す術がない。


 このままではじり貧だ、と思っていたジークだがある方法を思いついたことで事態に光明が差してくる。


(〖ダリア〗を使って裏に回って、本体に直接〖エンジェルオーラ〗をかける!そうすれば!)


 その方法というのは、ソフィアが存在を知らない〖ダリア〗を活用する戦い方であった。


(まずは……)


「〖ハロー〗!」


 まずジークは目くらましをする。


 視覚を失ってソフィアがジークを見失っている間に、


(次に……)


「〖ダリア〗!」


 次いで〖ダリア〗を発動する。


 だが、体を包んだ暖かな光は直ぐに発散してしまった。

 ジークは忘れていたのだ。ダンジョンの中で〖ダリア〗を使えない、ということを。


(まずい!完全に忘れていた!それに、〖ダリア〗がバレたら勝機が途絶えるかもしれない……!)


 不安になってソフィアの様子を見たものの、どうやら彼女は〖ダリア〗の光を〖ハロー〗のものだと勘違いしてくれたようで先程同様に攻撃を続けてきた。

 猛攻は未だ止まない。ここはダンジョンの通路なので横幅がそこまでなく、面攻撃されれば喰らわざるを得ないのだ。だから。


(くっ、それならっ!)


「戦略的、撤退だ!」


 だから、ジークは背中を向けて走り出した。




 走りながら後ろを振り返ると、彼我の距離はジークのストライド2つ分程度しか無く、直ぐそばにはソフィアの腕が迫っていた。


 「〖エンジェルオーラ〗!」


 全力で走りながら、後方へと〖エンジェルオーラ〗を噴出する。


 ソフィアはバックステップで霧から距離を取った。


(よし、これで距離が——)


 先程同様腕の先端を犠牲にしてソフィアが霧を晴らす。


(——取れないな!くそっ)


 だが、それでも僅かながら時間を稼ぐことができた。それが何を意味するかと言えば、それは。


「着いた!」


 それはジークが広めの空間へ逃げることに成功することを意味していた。


 だが、そこには懐かしのスケルトンソルジャーが聳え立っていて——


ーBATTLE STARTー


「邪、魔だぁぁあああ!〖エンジェルオーラ〗ぁぁぁあああああ!!」


——白銀の霧に瞬殺された。


 ジークは体を反転させソフィアに対峙する。


「ジーク、ナンデ……ニゲルノ!」


 追ってきたソフィアが再び猛攻を重ねる。ジークはに〖エンジェルオーラ〗を展開して、ソフィアの攻撃を右へ、右へと前後の動きも加えながら避けていく。

 それを繰り返すこと暫し、その時にはソフィアとジークのいる場所が当初と逆転していた。


 つまり——


(ダンジョンで使えねぇのは邪気のせい!なら、邪気がなければ、使えるよなぁ!)


「(〖ダリア〗)」


 先程経験した〖ハロー〗の光とこの光を勘違いしたソフィアは今度は視界を潰されないように学習して目を閉じる。


 そうして次に目を開いたソフィアが見たのは、自分がやってきた通路のみであった。

 そこに再び逃げたのかと怒りを露わにしながらソフィアは追いかける。が、その時背後から、聴き慣れた声がした。


「〖エンジェルオーラ〗!!!」


 ソフィアの幽体を淡い光が包み込む。


 そして、発動した【形質反転】がソフィアに理性の光を灯した。


(これで話を聞いてもらえるはずだ……!)


「ソフィア、勘違いなんだって……」


「……何が勘違いなのよ。どうせ私のことなんか嫌いなんでしょ……?」


 どうやらソフィアの勘違いは未だに続いているようだった。


「嫌いだったらわざわざこんなとこまで探しに来ないよ」


 苦笑しながらジークがそう言うと、


「……そうだったの」


 ソフィアがぎこちない笑みでそう言う。


 気まずいという思いと、嬉しいという思いが入り混じっているような、そんなぎこちない笑みであった。


(にしても、ソフィアの幽体って、まるで自分をそのまま女にしたみたいな姿とは少しだけ違うな。これは〖デミゴッデス〗の構成を少し修正した方がいいかも……)


 ジークが黙りこくってそんなことを考えていると、ソフィアが沈黙を破って謝ってくる。


「……本当にごめんなさい!」


「全然気にしてないからいいよ、自分も勘違いさせるようなこと言っちゃったし」


 ジークがそう伝えるが、それでもソフィアは謝るのをやめない。


「いや、全部私が悪いのよ。ジークが忙しかっただけなのに、『あんまり話してくれなかったのは私のこと嫌いだからなんじゃないか』って思い込んじゃって」


「いや、自分ももう少し話しかけたりできたのに忘れちゃってたからさ」


「でも、それからそのことが勘違いなんだって気づくチャンスはあったはずなのに。私、レイラにジークが取られちゃうんじゃ、って。私なんて捨てられるんじゃ、って。そうかもしれないと思うと怖くって、ジークの言葉にも耳を塞いで。だから……」


「じゃあ、自分もおあいこだね。だって、1ヶ月間ずっとソフィアが勘違いしてることに気づかなくて、さ。馬鹿だよなぁ。スキルの練習してるんだとばかり思って、ソフィアの変化に全く気づかなかった。だからおあいこ、だね」


「でも——」


 それでも尚謝ろうとしているソフィアの言葉を遮ってジークは続ける。


「——過ぎたことなんだしさ。もう変えられないことなんだから、僕たちは反省はしてもいいけど、後悔だけはしちゃだめだ。だって、反省は先につながるけど後悔はつながらないからね」


 そう言い切ると、ジークはソフィアの、その燃えるような瞳を見つめて微笑んだ。


「……そうね。ごめんね、ジーク、勘違いしちゃってた。これからは勘違いが起こらないようにちゃんと話そうね」


「いいよ。それに、こちらこそごめん、ソフィア。勘違いしちゃってて。そうだね、これからはちゃんと話そうね」


「「ふふっ……はははっ」」


 そうして二人は、互いに互いを許し合い、笑い合ったのだった。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






「あ、でも、なんでわざわざダンジョンまで来たの?」


 ダンジョンからの帰り際、ジークふと感じた疑問を尋ねてみる。


「えっと、それは……」


 ソフィアが気まずそうな表情をして下を向いた。


「もう過ぎたことなんだし教えてよ〜」


 気になったジークは幽体となったソフィアをつんつんしてそう言った。


「……うん、そうね。えっと、恥ずかしい話なんだけど」


「うんうん」


「ジークみたいにダンジョンに行ったら強くなれるんじゃないか、ってそう思って、それでジークに復讐してやる!って思ったの」


(え、復讐しようとしてたの……?いや、確かに〖ダリア〗がなかったら厳しかった程強かったけど……)


 まさかの理由にジークは唖然とする。


(ていうかソフィア、聖なる方に自分を導こうとする存在じゃなかったの……?まぁいっか)


「でも、それで魔物の本能に呑まれてちゃ世話ないわね……」


 そんなことをソフィアは言う。


(いや、気にするのそこじゃないと思うんだけど……)


 その本心を伝えるのをぐっとこらえ、ジークはそれを笑って流した。


「あ、ジーク、そう言えばさ、報告があるんだけど……」


 ソフィアが少し面妖な顔つきをしている。


「何かあったの?」


 その表情の意味が気になって、ジークがそう端的な言葉で尋ねた。


「実は……私にも【形質反転】の時にもう一つの人格が出来ちゃって……」


 まさかのソフィアのソフィアが誕生していたとの報告である。


「そ、それは……」


(それは二人分の体を構成しないと行けないということか……)


 その問題にジークは少し外れた答えを出したのだった。


「なるほど、それじゃ、もう一つ体を作らないといけないね」


「えっ」


 ジークの言葉にソフィアが驚愕を顔に浮かべている。


「あれ、言ってなかったっけ、ソフィアの体を作るって話」


 ジークも少し驚きながらそう言った。


「言ってない……言ってないよ!知ってたらあんな勘違いなんてしなかったし!」


(あ、そっか、確かに)


「えっと、あはは、伝え忘れてたかも。ごめん」


 ジークは決まり悪い表情をしてそう謝った。


「もー……」


 ソフィアが呆れた目でジークを睨んでいる。


「あは、あはは。あ、そう言えば転移魔法を使えるようになったんだよ」


 ジークが話を無理やり変えるようにしてそう言うと、今度はソフィアが唖然とする。


「……えっ、転移魔法って神代魔法の……?」


「うん、さっきソフィアの裏に回る時に使ってたやつ」


「……どうやってやったのかと思ったら、そういうことだったの……」


「そうそう」


「……まあ、ジークだもんね」


 何故かソフィアが呆れた目でジークを見ていた。


(……あれ、なぜか呆れられてる……?)


「はぁ……」


(……まぁ、いっか)


 そして、ジークはソフィアを連れて〖ダリア〗を連続で使用してアルマへと帰り始めたのであった。







 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






「街の中にソフィアが今の格好で入ったらみんなびっくりするよね……」


 ここはアモルが現在住んでいる森の近くである。


「まあ、そうなりそうかな」


「それだったらさ、自分がソフィアの体を作るために魔石を買ってきて、【魔石喰らい】を発動することで魔力を回復するから、しばらくの間は森の中で待っててもらってもいいかな?」


 ジークがそう言うとソフィアは頷いて、森の中へと向かっていった。


「じゃあ、魔石を買い占めて来なきゃ。それでは早速」


 しかしてジークは街一の商会、ユートピアを目指して歩き出したのであった。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


(〖ダリア〗を使って裏に回って、本体に直接〖エンジェルオーラ〗をかける!そうすれば!)


(まずは……)


「〖ハロー〗!」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


次回、〝あいさつは、大事だ。そうだろう?〟


※この予告はフィクションです。

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