第24話 ウラミハラサデ
「創世神アトラス〜!あの亜神がぁ!」
荒い呼吸をしながらガーリーな服装に白髪のボブの女神、観測神ガトレアがアトラスに話しかけた。
「なんじゃ?あやつが何か問題を起こしたのか?」
訝しげな目をしてアトラスがそう答える。
「実は……あの亜神が——」
「——ちょっと待ってくれ、心の準備をするでな」
今までにジークの件で何度も驚いたことを思い出し、心の準備をするアトラス。
「いや、そういうのじゃなくてぇ……」
今回はそういう系統ではないと説明しようとするガトレアだったが、それを手で制止し、アトラスは不敵に笑う。
「ふぉっふぉっふぉ、その手には乗らんぞ?」
アトラスは尚も勘違いしている様子であった。
「よし、もう心の準備が出来たわい。いつでも話してくれい」
そして満を持してガトレアが話し出した。
「実は、あの亜神の行動を見ていたら、神気で作った糸で文字を作ってたんですよぉ」
「……なんじゃ、そんなことか。心の準備をしたのが無駄じゃった」
想像とは随分と異なる穏やかな話に少しアトラスは拍子抜けしてしまう。
「まぁ、そんなことと言えばそんなことなんですけどぉ、その文字っていうのが、『僕を神界に連れて行ってください!』っていう文字だったんですよぉ」
安心しきってからの不意打ちだったためか、少しだけ驚いた顔をアトラスはするのだった。
「……ダリアを呼んできてくれい」
「はいっ、分っかりましたぁ!」
ガトレアは元気よくそう答えて、ここに来た時のように神界の中を走りダリアの元へと行ってしまった。
「……今度はどう儂を楽しませてくれるのじゃろうか」
アトラスはそうぽつりと呟いた。
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「……そりゃ、よく考えたら神様達がいつも自分のことを見てるはずがないよな……」
ジークは広場のベンチに腰掛けて俯いていた。
(ソフィア、魂だけで大丈夫なんだろうか……)
ジークが〖ゴッデスヘアー〗を使って神々にメッセージを届けようと試みてから早15分。
それだけの時間が経過しても尚何もないので諦めかけていたのである。
「これからどうやって探そうか……」
あてが全く思い当たらず、ジークはため息をついた。
そんな時である。
(……っ!この光に包まれる暖かな感覚は!)
ジークが光に包まれたのは。
そして、ジークが地上から姿を消した。
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体を包んでいた暖かな光が発散すると共にジークは目を開いた。
「ダリア、ありがとう」
そう言ったのは白ひげを縦に伸ばした老人然とした神、アトラス。つい1ヶ月前にも見た神である。
「……それで、どうしたと言うんじゃ?まさか、ただ会いに来たわけでもなかろうて」
アトラスがジークに尋ねる。
「すみません、実は自分の……そうですね、双子の妹みたいなやつが失踪しまして……」
ジークはソフィアのことをぼかしてそう説明した。
「ふむ、それで?」
「その子を探すためにここから地上を見たくて来たんです」
そう言うとアトラスは少しだけ驚いた顔をした。
「それだけのため……というのは野暮かのう。まぁ、良かろう。好きに見たまえ」
そう言って踵を返してアトラスは歩き出した。
(ちょっと拍子抜けじゃったのう)
そのようなことを思いながら。
その小さくなっていく後ろ姿にジークが声をかける。
「あ、そういえば、今度は事前に報告するんですけど、もう一柱亜神を増やすことになりそうです」
あまりの爆弾発言にアトラスは心臓が飛び出しそうになるのを堪えて、こう訊いた。
「……な、なぜじゃ?」
「その、双子の妹みたいな子って言ってたのは、説明するのは難しいんですけど、今魂だけの存在で失踪しちゃってて、その子を見つけたらその子の体を自分が作ってあげることになるので恐らく自分と同じ——亜神の体になると思うんです」
聞き流してはならないような発言が多すぎて、アトラスは目をパチクリとさせた。
(……冗談で言っておる……というわけではなさそうじゃな。ということは本当なのかのう……。ふぉっふぉっふぉ。つくづく驚かせてくれるわい)
「亜神とはいえ、神の末席なんてそんな簡単に作れるものではないのじゃが……はぁ、まあ、良いじゃろう」
断ったところでジークを止めることも出来なそうなので、仕方なくと言った感じでアトラスは許可を出す。
「ありがとうございます!」
ジークの快活なお礼の言葉が響いた。
その場から立ち去ろうと思って再び背を向けたアトラスだったが、思い出したかのようにこう言った。
「……にしても、剥き出しの魂のままなのじゃろう……?もしそれで邪気にでもあてられたら魔物化しかねない。早く見つけた方が良いじゃろうな」
そんな懸念を教えてくれたアトラスに、ジークは再びお礼の言葉を伝えた。
「ふむ、せっかくじゃし。ガトレア、手伝ってやってくれ」
すると、アトラスがジークに配慮してかそう言ってくれる。
だが、ガトレアはそれを聞いて浮かない顔をしていた。
「……それがぁ、さっきから亜神ジークの説明に合致する存在を探してるんですけど見つからないんですよぉ」
ガトレアはもう探してくれていたらしい。
「……それは、どういうことですか?」
ガトレアの不穏な発言に眉を顰めて聞くジーク。
「つまり、いるとしたらダンジョンの中ですかねぇ……ダンジョンの中は観測できないのでぇ……」
「……それは何でなんですか?」
知る由も無い事実の理由を尋ねると、返って来た答えは、シンプルなものであった。
「邪気で満たされてる場所は観測できないんですよぉ」
ただそれだけ。
だが、ただそれだけで、恐ろしいことにアトラスの懸念が現実味を帯びてきたのである。
「……地上に戻ります。ダリアさん、でしたよね?お願いです。今すぐ地上に戻してもらえませんか?」
「かしこまりました」
そうブロンドの髪を腰まで伸ばした穏やかな表情をしている女神、移動神ダリアが答えると、途端ジークの体が光に包まれた。
そして、ジークは神界から地上へと戻っていったのである。
「……もしやぁ、これは三角関係というやつなのではぁ!?ドロドロしてきたぁ!」
「ガトレア、下世話なことはやめなさい」
「ダリアは堅いなぁ。もっと柔らかく生きようよぉ」
「……あなたは柔らか過ぎです」
「まあまぁ、そう言わずそう言わずぅ」
やはり、ガトレアは下世話神に改名した方が良いのかもしれない。
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無事地上に辿り着いたジークは、急いでD級ダンジョン「月影の砂塵」に向かおうとしていた。
(アルマの近くのダンジョンで、かつソフィアが行きかねないのは「月影の砂塵」しかない。……二人が初めて出会った——分裂したっていうべきかもしれないけど——「月影の砂塵」に……。うかうかしてる暇はない!)
そう考え、今すぐ走っていこうと思っていたジークだったが、どうやら良いことを閃いたようで立ち止まった。
(そうだ!ダリアさんのやっていたことができるようになれば!)
そう、その良いことというのはダリアの移動させる力のことである。
(あの体を包んだ光が、どんな意味を持って操作された魔力なのか、それが【イメージ強化】のおかげなのか感覚的に分かる……。だから、今なら再現できるのかもしれない)
そして、その魔法の開発に着手する。
(ダリアさんの転移魔法の光は神聖なイメージにぴったりだったし、【神聖魔術】で再現できるかもしれないよな。だから、イメージするのはダリアさんの出していたあの神聖で暖かな光、体を包み込み目的地まで誘う転移の魔法)
そうして【並列思考】も駆使することで、なんとか難解な魔法の構成を終え、完成に漕ぎ着けたのだった。
(できた!移動を一瞬でする転移魔法、その名前は、本人をリスペクトして……)
「〖ダリア〗」
ジークの体は本日三度目の暖かい光に包まれたのだった。
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『【神聖魔術】【魔力支配】のレベルが上がりました』
「……上手くいったと思ったんだけどなぁ」
結局〖ダリア〗が成功することはなかった。かといって失敗というわけでもなかったが。
ではどうなったというのか。
それは『ダンジョンまで一気に行くことは出来なかった』という結果であった。
長距離を移動するのは今のジークには難しかったのだ。せいぜいが歩幅200歩程度の距離しか移動できない。
結局ジークはそれを連発して5分程かけて「月影の砂塵」まで辿り着いたのだった。
そしてジークはダンジョンの中に早速入りソフィアを探していく。
夕日に照らされる内壁を見て、早く見つけなければ、と焦ったジークは再び〖ダリア〗を発動しようとした。
「〖ダリア〗」
だが、その試みは失敗する。
今度先程とは違い確実に失敗である。なぜなら一歩分ですら動けなかったからだ。
体を光が包んでも、行き先が指定できない、といった様子で包んだ光はそのまま発散してしまったのだった。
(……ちっ、これがダンジョンの邪気ってやつなのか……)
仕方がないので、スキルを発動せず、ただ、ジークはダンジョンの奥へと走り出した。
(ソフィア、無事でいてくれよ!)
しかしてダンジョンの浅い層——二階にて再びジークとソフィアは相見える。
「ソフィア……」
ただし、そのソフィアは人魂ではなく、足がなく青白い体——ゴーストのような姿をしていたが。
「ジーク……ワタシヲステタ……ユルサナイ……」
(まずい……。どう見ても正気を失ってるじゃないか……。これじゃ説得なんて出来やしない!)
「ウラミハラサデオクベキカ!!」
ソフィアが、襲いかかってきた。
ーBATTLE STARTー
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「……それで、どうしたと言うんじゃ?まさか、ただ会いに来たわけでもなかろうて」
「いえ、私は貴方に、貴方に会いに来たのです。創世神アトラス」
(えっ……!トゥンク)
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次回、〝亜っ神ずラブ、開幕〟
※この予告はフィクションです。
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