第23話 ソフィア、失踪
『【魔力支配】【神聖魔術】【イメージ強化】【裁縫】のレベルが上がりました』
その後、レイラと会うためには宿無しでは不便だということで、ジークはエリックの酒場に下宿させてもらうことにした。
それから毎日、レイラはジークのところに作りたい服の案を持ってくる。
そしてジークがレイラの希望通りに服を再現していく。
ただ、もっとレイラに喜んで欲しいと考えたジークは、レイラに言われなくても寝る間を惜しんで裁縫の練習を続けた。
そんな日が一ヶ月続いたある日、ついにジークのジョブレベルがMAXまで上がったのだった。
『ジョブレベルがMAXになりました』
突然聞こえたその脳内アナウンスにハッとさせられ、ジークは久し振りにステータスを開いた。
『ステータス』
・名前:ジーク
・年齢:0
・種族:
・位階:1
・レベル:29
・ランク:G
・ジョブ:裁縫士
・ジョブレベル:100
・ジョブ履歴:無し
・パッシブスキル
魔力支配lv6
怪力lv2
並列思考lv7
従魔強化lv2
生命力強化lv1
イメージ強化lv8
・アクティブスキル
火魔法lv8
水魔法lv4
体術lv8
神聖魔術lv7
テイムlv1
幽体離脱lv1
裁縫lv9
詐術lv4
・固有スキル
形質反転lv6
魔石喰らいlv9
ソフィアlv7
亜神lv2
それを見たジークは思った。
(ジョブレベルはMAXになったけど、このままじゃ最強なんて夢のまた夢なんじゃないか?)
と。
確かにレイラの希望通りに服を作ることでレイラに尽くすことはジークの心に満足感をもたらした。だが、ジークの夢は『冒険者になって最強になること』である。
(冒険者になれて慢心してたのかな……自分の夢を忘れてるんじゃ話にならない)
S級冒険者になることがジークの夢である。
(こうしてる間にもアモルは森で鍛えてるのに自分は……。情けない。強くならなきゃ)
ジークはそう心に決めた。
(よし、そうと決まればジョブチェンジだ!)
「エリックさん、ちょっとギルドに行ってきます!」
しかしてジークはギルドへと駆け出した。
「若いってのはいいもんだね〜」
その後ろ姿を見てエリックはそう独り言ちる。
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ギルドに辿り着いたジークは早速ジョブチェンジ部屋に向かおうとしたが、青髪をそのまま下ろした怜悧な顔をしている受付嬢に呼び止められた。
「あら、ジーク様がこの間冒険者になったとシーアから聞いていたのですが、その時にジョブチェンジはしていなかったのですか……?」
そう、その受付嬢とはサーシャと一悶着あった時に介入してきたアイズである。
(確かにあの時にジョブに就いてたら、普通ならこんなに早くジョブチェンジできるわけがないもんな……)
「ええ、どのジョブに就くか迷ってしまって、折角なのでちゃんと考えようと思って出直してきたんですよ」
そのことを踏まえて、ジークは微笑しながら軽く嘘をついた。
「……なるほど、そうなのですね。決める前に一度迷うのも大事なことですから。ちなみにどのジョブに就かれるおつもりなんですか?」
顔に笑みを張り付けながらアイズがそう聞く。
正直に答えてしまいそうになるが、何かと秘密の多い身だからな、と考え直すジーク。
(ここで答えてしまったら次に嘘をつきにくくなるからね……)
「……冒険者の秘密ってことでお願いします」
そうぼかして言った。
「……分かりました」
アイズは微笑みながらそう言った。
(新人なのに、やけに用心深いわね……。なぜなのかしら?)
その肚の中ではそんなことを考えていたが。
「それでは自分はこれで」
アイズに微笑んで、ジークは受付を後にした。
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そして転職部屋までやって来たジーク。
(今回は強くなるために戦闘系のジョブに就こう)
そう思いながら部屋の水晶に手を触れる。
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ジョブチェンジ可能ジョブ
魔力操士
バーサーカー
学者
テイマー
リッチ
火魔法使い
水魔法使い
モンク
神聖魔術使い
幽体士
糸操士
毛髪闘士
詐欺師
リベリオン
マジックイーター
念話士
ンザンビ
裁縫職人
偽光魔法使い
ーーーーーーーーーーーーー
(新ジョブは裁縫の上位ジョブと……偽光魔法使いか。偽の光魔法使いってなんだよ……。光魔法に似た魔法を使えるようになるってことなのか……?)
始めは論外だと考えたジークだったが、少しして思い直す。
(いや、案外良いかもしれない。これになればレイラさんに嘘がばれないで済むかも知れないし。それは虚飾なのかも知れないけど、レイラさんに自分の本心を打ち明ける時は自分の嘘を話す時って決めてるし今ばれるのは困るからね。だから……)
「偽光魔法使いを選択」
『偽光魔法使いにジョブチェンジしました』
『【魔力支配】のレベルが上がりました』
『【偽光魔法】を習得しました』
頭に情報が流れ込んでくる、1ヶ月ぶりのこの感覚。
その感覚に、ジークは生まれ変わってから二度目の感慨を覚えていた。
(せっかくだしもう一回ステータスを見ておくか)
「『ステータス』」
・名前:ジーク
・年齢:0
・種族:
・位階:1
・レベル:29
・ランク:G
・ジョブ:偽光魔法使い
・ジョブレベル:0
・ジョブ履歴:裁縫士
・パッシブスキル
魔力支配lv6
怪力lv2
並列思考lv7
従魔強化lv2
生命力強化lv1
イメージ強化lv8
・アクティブスキル
火魔法lv8
水魔法lv4
体術lv8
神聖魔術lv7
テイムlv1
幽体離脱lv1
裁縫lv9
詐術lv4
偽光魔法lv1
・固有スキル
形質反転lv6
魔石喰らいlv9
ソフィアlv7
亜神lv2
(ここから最強へと成り上がってやるんだ!)
熱い想いを胸に抱きながら、ジークはジョブチェンジ部屋を出たのだった。
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〜とある酒場にて〜
「なぁ、おい、聞いたかよ
「なんだよそれ、二つ名持ちか?」
「そうそう、「月影の砂塵」に現れたらしいんだけどよ、そいつ。何でもダンジョン産モンスターなのに階層を移動するんだとよ」
「へぇ、それは危ないな。でも、それだと討伐隊が出たんじゃないのか?」
「ああ、出た。でも、
「……?どうせ別の冒険者に狩られたとかだろ?」
「それが、そこにいた冒険者に確認をとったらしいんだが、全員知らないって答えたらしい」
「……ギルドに討伐の報告もないのか?」
「ああ、そうなんだよ。二つ名持ちの討伐を黙ってる冒険者なんているわけがないのに」
「……つまり?」
「そいつは見たこともない魔法を使う高位のグールって話だから『人間に限りなく近い見た目をした中位以上のヴァンパイアに進化して、ダンジョンから出た』って説が一つ」
「それは……流石にないだろ」
「まあ、ヴァンパイアなんて直接血を与えられない限りそんな簡単に進化できるもんでもない、って話だからな」
「そんなに簡単に引き下がるってことは別の説があるのか?」
「ああ、もう一つの説は『光魔術の〖インビジブル〗を使ってダンジョンの外に出た』って説だ」
「ありえな……くはないか」
「まあ、だから人間の中に潜んでるんじゃないか、ってことで指名手配されてるんだとよ」
「そりゃ、怖い話だな」
「まあ、俺らも精々気をつけようぜ」
「ああ、そうだな」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ギルドを出て帰路に着いた途端、脳内に声が響いた。
——ジーク……【幽体離脱】できるようになったよ……。
(お!やっとか!)
やっとソフィアを暇な毎日から解放できる、と喜ぶジーク。だが、どこかソフィアの様子がおかしいことに気がつく。
(そ、ソフィア……?)
——……やっぱりジークは私に体から出て行って欲しいんでしょ……?
(えっ?)
——だから【幽体離脱】練習してって言ったんでしょー!
(違う、それは誤解なんだ!誤解なんだってば!)
——言い訳なんて聞かないんだから!いつもレイラ、レイラって私のことなんて全然気にかけもしないし。どうせ私なんて恋愛の邪魔だって言うんでしょ……?なら、それなら!出て行ってやる〜!
(ちょっ、ちょっと待ってよソフィア!)
『【ソフィア】を喪失しました』
胸に大きな穴が空いたかのように、ジークの体に喪失感が走る。彼は辺りを見渡したものの、どこにもソフィアの姿は見つけることは能わなかった。
どうやら、ソフィアは人魂になってどこかに飛んでいってしまったようだ。
(嘘、だろ……?)
探さなきゃ、そう思ってジークは当てもなく走りだそうとした。だが、直ぐに思い直す。
(いや、このままただ走ったって見つからないよな……。どうしよう……)
彼は一旦立ち止まって考えることにした。
(〖エンジェルオーラ〗……は広範囲を探すのに不向きだし、自分も【幽体離脱】して探すのは流石に無理があるし……とにかく、せめてどこか高いところに行ければ……)
高いところから見下ろせば分かるのではないか、ジークはそう考えたのだ。
(そんな場所はないか……。そんな場所はないよな、地上には。……ん?
ジークは急いで〖ゴッデスヘアー〗で文字を編んでいく。
その文字というのは——
『僕を神界に連れて行ってください!』
——であった。
(もしかしたら気づいてもらえるかも知れない……!)
ソフィアを見つける一縷の希望を見つけ、作った糸を【魔力支配】で空へと掲げ続けるジークであった。
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(今日はあの緑髪のレイラって子と合わないのかなぁ……)
地上のジークを神界から観測していたのは下世話神、もとい観測神ガトレアであった。
(あれ、神気が篭った糸でなんかを作ってるぅ……これは文字かな?)
ガトレアは暇だから、という理由で新しい亜神、ジークの恋愛の様子を観測していたのだった。
(なになに、『僕を神界に連れて行ってください!』ぃ……!こ、これは、創世神アトラスに報告しなくてはぁ!!!)
ガトレアは急いで創世神アトラスの元へと走り出した。
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〝ジョブ神ナイトクイーンの日記〟
ジョブは本人が出来ることに合わせて作られ、その人の力をより引き出すように経験を構築していくものである。
だから、新しいことをできる人間が現れれば新たなジョブが生まれるのだ。
そんなジョブの一つ、〝偽光魔法使い〟について今日は書こうと思う。
・ジョブ名:偽光魔法使い
・発現条件:擬似的に 光属性魔力として使用可能な魔力の保持
・説明:少し前に誕生したスキルである【神聖魔術】に属する魔法〖ハロー〗を魔力の粒子として、発散させずに収束させたまま活用することで擬似的光属性魔法、【偽光魔法】を扱うことができるジョブである。パチモン感がすごい。
現在このジョブに就くことができるのはただ一人のみである。
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パチモン感がすごい。
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