第6話 もし人間がコウノトリによって運ばれてきたのだったら

 日本国、犬吠埼。

 そこに数多のテレビマンたちが集まっていた。

「来るぞ、今年の子渡り」

「ああ、来やがるぜ」

「ぜひとも今年の子渡りは放映しなくてはいけませんね」

 彼らは太陽の昇る方向、即ち東側をじっと見ていた。

 太平洋の波は穏やかであり、今日もまた人々を見守っている。

 その時であった。


「キョオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「オンギャアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 天を裂く様な怪鳥の雄たけびと、地を揺るがすような赤子の鳴き声が水平線の果てより響いてきた。

「来たぞ!」

「天照様に御加護あれ!」

「映せ! 今年の子渡りだ!」

「来たんだ、コウノトリたちが!」

 東から飛んでくるのは天を埋め尽くさんばかりのコウノトリたち。

 その口には、赤ん坊が加えられている。

 これこそが、一年に一度世界中で見られる子渡りである。

 各地域によって詳細は違うが、一斉に子供が運ばれてくる。

 例えば、中国では黄河と長江の上流から一斉に赤ん坊が流れてきてそれを人民解放軍が収穫する。

 例えば、欧州では夜に流れ星が一斉に落ちてきて家の軒先に赤ん坊が現れる。

 インドではガンガーからぶくぶくと泡が出てきてそれが子供になる。人々はそれをたもで回収する。

 アフリカでは獣が次々と倒れてその腹の中から赤子が湧いてくる。

 アメリカではグレートスピリッツが輝きそこから赤子が湧いてくる。

 そして、この日本ではコウノトリが一斉に東から飛んできて赤子を運んでくるのだ。

「おぎゃおぎゃおぎゃああああああああっ!」

 泣きわめく赤子たちを淡々と運ぶコウノトリたち。

 世界でも最も雄大といわれ、天をも覆う子渡りであると知られている日本の一大自然現象だ。

「すごいな」

 或るテレビクルーは生で見る子渡りに感動していた。

 こうして、今年も子供を望む過程にコウノトリが赤ん坊を運ぶのだ。



          了

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