もし人間が無性生殖だったら
文屋旅人
第1話 もし人間が出芽だったら
田中花太郎はそろそろ出芽の時期を迎える高校生だ。
「先生、そろそろ背中がかゆいんですが」
それを聞くと教師はからからと笑う。
「そうか、そうか。そろそろ花太郎も増える時期か」
そういうと、教師は発休の書類を取り出す。
「どれ、見せてみろ」
教師は書類をかきながら花太郎に声をかける。
「はい」
花太郎は服を脱ぐ。花太郎の背中には小さな顔面がぺたりと張り付いていた。
「うん、ここから徐々に顔面からにゅっと生えてきて三か月くらいで発生するな。しっかりと飯は食っておけよ、じゃないと吸い取られる」
教師はさらさらと書類をかきながらそのように告げる。
一方の花太郎は、少し不安そうだった。
「先生、本当にきちんと増えることはできますかね?」
そんな不安そうな花太郎に、教師は肩を叩きながら言う。
「だいじょーぶだ。先生なんてもう十人くらい増やしたが、一度増やすと病みつきにある。きちんと株元にも説明して、援助をもらっておけ」
そんなことを教師は言った。
「はい……なら株元に説明しておきます」
花太郎は書類を受け取って、株元のところに向かう。
株元とは、即ち自らが出芽してきた個体のことだ。
自分と全く同じ顔の株元に電話をすると、きちんと飯を食って安静にして、暇なときは勉強しておけと言っていた。
自分の株仲間、即ち同じ株元から発生した存在も出芽を喜んでくれた。
「……気合入れて、増えるか」
そういいながら、花太郎は食料をもそもそと食べる。
結局、花太郎は三か月後に立派な子株を発生させた。
「うわぁ、おんなじ」
自分と全く同じ存在を見た瞬間の花太郎の一言が、それであった。
了
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