海沿いの列車

作者 レネ

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★★★ Excellent!!!

求職中の主人公がふらりと乗った海沿いの電車。そこへ亡くなったはずの妹が乗ってきて──。
静かで淡々とした語りと、家族との会話だけで構成されている、余計なものをそぎ落とした文章。その中に一編の小さな映画を観るような感覚です。
妹がなぜ主人公の前に現れたかは物語を読めば分かるのですが、その後半のくだりには胸をぎゅっと掴まれるようでした。言葉に表すのが野暮に思えるので、その空気はぜひ本作を読んで感じ取っていただきたいです。
妹にありがとうと言いたくなるお話でした。

★★★ Excellent!!!

若くして亡くなった妹を電車の座席で見る主人公。

妹は鎌倉の江ノ電に似た江の海線で、生前に通っていた鎌田高校からいつも乗ってきます。

心を病み、仕事をうしなった主人公はハローワークに通いながら、その妹の姿を電車内でみています。

ホラーのような設定ですが、そうではありません。

静かな語り口のなかで家族のありようを奏でるこの物語に、私は胸をえぐられました。

なぜか、読ませていただいている間。
小津安二郎氏の映画を感じておりました。舞台を鎌倉にされているからかもしれません。

★★★ Excellent!!!

家長である達夫は、必死にとはいかないまでも職をさがす日々にあった。
初夏のある日、ふと思い立ち、海沿いをゆるやかに走る電車へ乗り込む。コトコトと揺られしばらくすると、停車した駅に今は亡き妹の姿が……。
在りし日のままの彼女は、黙って達夫の正面に座り、彼もまた妹を無言で迎え、見送った。
呼び起こされる家族の記憶。愛せなくなっていたはずの老齢の父を連れ再び電車に乗ると、ふたりの前に彼女はあらわれて──。

「声なき知らせ」によってつながれる未来に、少しの寂しさとあたたかさが残る物語でした。