6連目 大冒険とガチャ
「んじゃ行くかあ、冒険の旅」
ようやくにして、クロエの冒険の旅が幕を開けた。ソシャゲでいうところのメインシナリオだ。
クロエを襲撃したボクっ娘盗賊があまりに悲惨な人生を送っていたため、その元凶であるクソ両親をブン殴りに行く――
――というのは建前で、実際はブン殴りに行く過程で《がちゃちけ》が5枚貰えるからだ。喉から手が出るほど欲しい。
そう。クロエはガチャ依存症の効率厨であった。
「で、何すりゃガチャ回せんの。教えろ反町」
『教えてあげませーんwwwwww』
「殺す」
途端、隣に控える盗賊ちゃんがすくみ上がった。
「ひぃ、今殺すって言った!? ていうか反町って誰ですか!?」
「クロエ様にしか見えない女神様ですよ。イマジナリーフレンズ? いやイマジナリーレズ? みたいな」
『マジで!? 女神様クロエっちにオトされちゃうの!? いや全然ウェルカム! ていうか女神様どっちかって言うとドMなんだけどいい!?』
ちょっと一言「殺す」と盛らすだけでこのやかましさだ。これがソシャゲだったらスキップボタンを連打している。
反町には教える気がなさそうなので、とりあえず地道に進むしかない。
まず重要なのは、どこへ向かえばいいかだ。
「盗賊ちゃん、アンタの住んでる街、どっち?」
「わ、分かんないです……」
「…………」
クロエは頭を抱えた。
「反町、説明」
『あーね。女神様、その辺うろついてた盗賊ちゃん達を強制転送しちゃったワケ。つまり盗賊ちゃんに聞いたって目的地なんてわかりませーんwwwwww道案内頼めるとか思った?ww思った?wwwwそう簡単にはいかないんだなーこれがwwwwww』
「殺す」
「こっ、殺さないでぇ……!」
『女神様ぶっちゃけ、ナビキャラが道案内してくれる展開もう飽きてんだよねーwwwwwwだから道なき道進もうぜwwゲットワイルドwwwwwwテンテンテーンwwwwテテンテンテテーンwwwwww』
仕方がない、すべてはガチャのためだ。
クロエは反町への殺意をいったん忘れることにして、とりあえず足の向く方へ――
「おやおや、そっちじゃないですよクロエ様」
「あ? なんだ変態」
――歩き出したとき、変態ことメインヒロインがドヤ顔を見せる。
「クロエ様。街には人がたくさん居ますよね? つまりどういうことだと思います?」
「もったいつけんな、シナリオスキップすんぞ」
「もう、せっかちなんですから♪ いいですか? 人が多いということはすなわち、セックスも盛んに行われているということ」
論理展開が意味不明だ。無視を決め込もうとしたところで変態は宣言した。
「実は私、セックスの匂いが分かるのです!」
「は?」
「ええ、そういう反応でしょうね。そうでしょう! 信じられない特殊能力に下のお口まであんぐりガバガバですよね! フゥーッ!」
「あの、この人ヤバくない……?」
「とりあえず言い分を聞こう」
明らかにドン引きして顔面を引きつらせる盗賊ちゃんをなだめ、変態に話を振ってみる。死ぬほど癪だけど。
「セックスとはすなわち、
「言わなくていいから。汁だから何?」
「汁は蒸発して空気に混じり、風に乗って飛んでいくもの。つまり濃密な汁の薫りを追えばお盛んな場所――街に辿り着くことができるのです!」
「病院行こっか、頭の」
「私は至って健康な17歳JKです!」
「マジで……」
クロエは驚愕した。この変態が
「まあもういいや、なんでも……。んじゃ道案内してよ、汁とやらで」
「ですが! 汁案内には大きな問題がひとつあるのです!」
変態は深刻な表情でクロエの肩を掴んだ。汁案内という略称がイヤすぎる。
「……汁案内をしている間、私達3人はセックスできません。ペッティングすらできないのです! なんせ匂いが上書きされてしまうから!」
「心配ないね、盗賊ちゃん」
「はい」
「は!? セックスしないで生きていけるんですか!? それでどうやって生の悦びを噛み締めると!? ま、まさかオナニーすらしないとか言い出しませんよね人生の99割損してますよ大丈夫おっぱい揉む!?」
『ちなみに変態ちゃん、クロエっちの寝顔見ながらオナってたよ。クロエっち、オナペットデビューおめでとう!』
「言わなくていい」
「ちなみに私、昨晩はクロエ様をオカズに3回愉しみました!」
「言わなくていいっつってんだろが!?」
さすがのクロエもドン引きしたが、頼みの綱は変態しかいない。なので元々ほとんどなかった感情を殺すことにした。
「いいから、とっとと案内して」
「かしこま! 汁案内はじめまーす。くんくん……くんくんくん……こっちです、クロエ様!」
かくして、セックスの匂いを頼りに街を目指す旅が始まった。
これだけ豪語して街に辿り着かなかった時は、この変態をどこぞへ売り飛ばしてカネを稼ごうとクロエは静かに決意した。
*
クロエ一行は何もない草原をただ歩き続けた。
匂いを辿っている変態が時折方向を微調整するくらいで、基本は歩きっぱなし。とにかく地味である。
道中はこれといった発見もなかった。冒険ではおなじみのスライムが出てくることも、妙な植物に足を絡み取られることも、《がちゃちけ》が降ってくることもない。いたって平和な大草原だ。
はじめは『大草原wwwwww』と草を生え散らかしていた女神反町も地味過ぎる冒険譚に飽きて、青空いっぱいに地上波デジタル放送を流してカウチポテトを決め込んでいる。
事態が動いたのは歩き始めて数時間経った頃――女神がミヤネ屋を見ながらブツブツ文句を言っていたので、日本時間午後二時頃だ。
「……一段と濃くなりました! 街が近いです!」
「汁案内がマジだと思わなかったわ……」
大草原の果て、地平線の向こうに城壁が現れたのだ。壁で囲まれた街の中央付近に、高い塔のようなものが見える。
小一時間ほど歩くと、徐々に街の全容が見えてきた。
街は城壁に囲まれているが、周囲には無数の小屋が立っている。おそらく城壁の内部に住むのはある程度身分が高い者だ。あぶれた人々は都市の外にスラムを作っているのだろう。
「漂ってきましたよ、濃厚な汁の匂いが……! しかもストレート以外も感じますね! 何が違うか分かります盗賊ちゃん! 匂いの配合が違うんですよ、配合が!」
「ぼ、ボクには分からないよ……」
「じゃあ私が教えてあげましょうか! 女の子同士ですし恥ずかしがる必要なんてありませんよ、どうです!?」
「クロエさん助けて、この人怖い……!」
「ほら着いたよ、親を探してきな」
「い、行ってきます!」
ようやくにしてスラムの端に到着した。いったん家に帰った盗賊ちゃんと別れ、クロエは歩きっぱなしだった腰を抑え、大きく伸びをする。
城壁は高い。ちょっとやそっとでは登れないだろう。指をかける隙間すらなさそうだ。
壁の手前のスラム街も、立体迷路のように入り組んでいる。喩えるならば、ヘタクソなテトリスみたいなちぐはぐ具合だ。
「なんだかとんでもない所に来ちゃいましたねえ」
「まあね……」
あまりに変態メインヒロインらしくないセリフに、クロエは思わず返事をしてしまった。
「ところでさ、アンタも死んだワケ?」
「そうなんですよねー。女神様に私は死んだって言われて、お近づきの印に軽くスキンシップをしたんですけどドン引きされて。気がついたらクロエ様が居ましたから」
「アンタ反町に手出したの……?」
「や、たぶん違う女神様だと思いますよ。ゴブリンでしたから」
「なおひどいわ……」
「でも楽しいじゃないですか! だって人間以外を抱ける機会なんて生きてたら一度も味わえませんよ! 私は異世界を股にかけます! あ、もちろん一番はクロエ様ですからね?」
「はいはい」
その時、クロエの目の前に白い紙が落ちてきた。《がちゃちけ》だ。
「え? なんで《がちゃちけ》貰えたの?」
『ぱんぱかぱーん! クロエっちおめでとう! なんとクロエっちは、ヒロ
「マジで!? じゃああたしとコイツがもっと仲深めればもっと《がちゃちけ》貰えるワケ!?」
『そり! そりすぎて――』
覚悟は決まった。
「よし変態、あたしと寝ろ」
「えっ!? クロエ様なんですか急に!? いや、ゆっくりじっくり私に慣れさせて開発していこうと思っていたところだったので個人的には願ったり叶ったりではありますが!」
「あんたと仲を深めればガチャ回せるんだよ! だからあたしに惚れろ! あたしを愛せ!」
「キュン……♡」
またしても、白い紙が落ちてくる。
『うーん猛スピード攻略! チョロ過ぎワロタww』
「じゃ、じゃあどうしましょう!? と、とりあえず段階を踏んでおきます!? まず手を繋いで、お互い好きなのに本音を隠し合って、ホントは好きって言いたいのに関係が壊れるから言い出せないなんて甘酸っぱいことして、でも告白して、付き合うことになって、でも微妙な距離感で付き合ってるのかどうなのか分からなくてやきもきして!」
『さすがメインヒロイン! 純愛ルートをお望みのようだ、どうするクロエっち!』
「まだるっこしい! カラダの関係から始まる恋愛だってあんでしょ!」
「あります! 脱ぎます!! 抱かれます!!!」
メインヒロインは即答した。
衣服に手をかけたところで、盗賊ちゃんが戻ってきた。
「あの、クロエさん……残念なお知らせがあるんだ……」
「どした?」
変態のストリップショーを無視して尋ねると、盗賊ちゃんは何とも申し訳なさそうに目を逸らす。
「ここ、違う街だった……」
「はあ……」
クロエの冒険の旅は、いきなり頓挫したのだった。
せっかくの転生チートなのにクソガチャしか引けないんですが! パラダイス農家 @paradice_nouka
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