その艦は、次代への意志をのせて

様々な勢力、派閥による陰謀。口実にすぎない命、その命がみせる気高さ。
それらが凝縮されて、著者自らが構築した世界の中であますことなく描写される様は、読んでいて心地よいものでした。良質なSF映画を観終えたような、そんな読後感を味わいたい方には是非とも読んでほしいスペースオペラ作品です。

その魅力を生み出しているのは、練り上げられた世界観。
他の方のレビューにもあるように、その作り込みには圧倒されます。宇宙と航宙艦を登場させて終わるのではなく、そこから架空国家の主権や国際情勢、思想にまで話が及ぶわけですから。この辺りの内容を想像することは誰しも可能だとはいえ、書き起こすとなると相当な技量が必要となるでしょう。それを簡単にやってのけてしまう時点で、そのレベルの高さを窺い知ることができます。シリアスな国家間対立や陰謀を軸にした物語を好む方なら、それだけでも読む価値はあるでしょう。

そして、海外小説の翻訳を彷彿とさせる硬質な筆致。
個人的に、この部分はイチオシです。海外のSF小説、特に古典SF小説に親しんできた方には、刺さるものがあるのではないかと思います。一語一語を噛み砕いて味わう。そんな読書が好き、してみたいという方は本作をその窓口としてみてもいいのではないでしょうか。硬いといっても、読みづらくなるほど硬いわけではありません。文章表現の硬質さが生む刺々しさは、ほどよく研磨されています。たしかな筆致による安定した土台と、その上で繰り広げられる星系の命運を賭けた群像劇を楽しみたい方なら、絶対におさえておくべき一作です。