自らに、その在り方に贖う

偶像の死に、どう向き合うのか。
その事実に揺れる、自らの想いになにを見るのか。
偶像に魅せられた者の深層。陶酔しつつも、その行為を客観視する二面性。そんな人間の感情の機微にスポットを当て、繊細な筆致で心の灰汁を掬い上げたのが本作の最大の特徴です。そこには推し活に興味のない、なんならそれを鼻で笑っている人たちにも刺さるであろう、人間の本質が表れていました。

これは喪失を描いた物語では往々にして登場する事柄ですが、本作はそこに瑞々しさがあります。まさに一人の人間の胸奥を覗き込み、すべてを無理矢理に引っ張り出したような臨場感。それが落ち着きのある筆致で綴られる。そのミスマッチさ、冷静な様相のうちで燃える激情とでもいいましょうか。それが読んでいて痛快であり、物悲しくもありました。推し活をテーマにした作品で、ここまで人間の信念の形を考えさせられたのははじめてかもしれません。ひとときの思索に耽りたい方は、是非ともご一読ください。含蓄に富んだ世界が、貴方を待っています。