第271話 彼女たちの能力を観察

 公園のグラウンドで、野球のユニフォームを着た女子生徒たちが躍動している。


 各自のポジションで、とても真剣にノックを受け続ける彼女たち。俺も集中して、動きなどを観察して能力把握に努める。


 一週間後に行われる予定の試合で負けてしまうと野球部を辞めさせられる。そんなことは、絶対に阻止したい。少しでも試合の勝率を上げるために俺も最善を尽くす。


 そんな状況の中で何人か気になる子を見つけた。特に気になるのは、二塁と三塁の中間を守る内野手。


「お疲れ様。それじゃあ、次」

「お願いしますッ! 2年B組の菱本ひしもと亜衣香あいか! ショートです!!」


 すらっとした手足に綺麗な短い黒髪。爽やかな印象を与える顔立ちの少女が笑顔で自己紹介した。


「菱本さん、よろしくね」

「よろしくお願いしますッ!」


 帽子を脱いで、ものすごい勢いで頭を下げる。頭を上げると、左手のグラブを二度叩いてから捕球の姿勢になる。笑顔から真剣な表情に。元気よく返事したショートの選手に向けて、ノックを打った。


「っ! はっ!」


 打った瞬間の反応、ボールに向かう動き、キャッチして投げるまでの動作。十分なスピードだった。


「いいね。次、いくね」

「はい! お願いしますっ!」

 

 しばらくノックを続ける。きわどい球もキャッチ。身のこなしは軽く、打球反応も悪くない。少し見ただけでわかる、非常に守備能力の高い選手だった。


 彼女のような選手が、どうして補欠組にいるのだろうか。楓や真琴と同じように、顧問から嫌われて試合に出してもらう機会を奪われてきたのだろうか。


 ただ、少し欠点も見えてきた。少し、守備に必死すぎる気がした。それで、余計に体力を消耗している気がする。そして。


「も、もういっちょ……」


 体力が低いのが欠点か。体力が底を突いて、動くのも大変だろう。それでも根性で練習を続けようとする。根性があるのはいい。能力も十分にあると思う。自分の守備範囲を把握して、範囲以外に飛んできたボールはサードやレフトなどに任せる選択も必要だろう。そういうアドバイスが彼女には必要かな。後で話してみよう。


「菱本さんの守備練習は、ここまで。次は打撃を見せてもらうよ。しばらく休んで」

「は、はぃ……」




 守備練習は終わった。次は、彼女たちの打撃能力を見てみたい。


 ネットなどを準備している間に、彼女たちの一人がマウンドに向かって歩いていくのが見えた。俺は、その少女に近寄って声をかける。


「投げるのは俺がやるよ。君もバッターボックスに行って、打撃の様子を見せてくれるかな?」

「えぇ!? 男子の貴方が、バッティングピッチャーをやるんですか? 大丈夫ですか?」


 手を差し出して彼女の持っていたボールを受け取ろうとしたのだが、驚かれてしまった。そして、心配される。


「うん。ノックは出来たでしょ。投げるのも大丈夫だから任せて」

「あー、えっと。はい。わかりました。でも、絶対に無理しないでくださいね。無理だったら、私が投げるんで。いつも部活の練習で投げてるから、慣れてるんですよ」

「ありがとう。とりあえず今日は、打撃の方に集中してね」

「はい。じゃあこれ、お願いします」


 少し躊躇しながら、ボールを渡してくれた。彼女の打撃能力も見ておきたいから、俺がバッティングピッチャーの役を引き受ける。それに、少し心配だった。


 投げようとしていた彼女の動きは少しぎこちない。怪我しそうな雰囲気があった。肩に疲労が溜まっているようだ。野球部では、普段から投げさせられているらしい。それも、相当な数を。


 彼女は、しばらく投げるのを休ませないと危ないかもしれないな。今回、そういう部員が居るのも把握できて良かった。


 これは、普段の練習のやり方から見直しておかないとダメかも。試合の出場機会を奪われるだけでなく、無理や無茶などで怪我して野球を辞めてしまった部員も過去に居たのかもしれない。そう考えさせられる状況だった。


 あの顧問、想像以上にヤバいかも。


 今回の試合、絶対に勝つ。そして、楓や真琴、他にも冷遇されている部員が試合に出場する機会を公平に与えてもらえるようにする。その狙いだけでなく、俺が部活の内容に口出し出来る立場を手に入れる必要があるかも。


 余計な口出しは面倒な騒動に発展する場合が多いので避けるべきだ。けど、マズイ状況を知ってしまったからには見過ごすことは出来ない。


 ここに集まっている選手だけでなく、レギュラーメンバーにも無理させられている子が居るかも。野球部全体の状況を見てみないと。可能な限り、早く。


 とりあえず今は、ここに居るメンバーの能力を把握してから、試合に出すメンバーを決める。試合までは、あと1週間しかないみたいなので、鍛えているような時間はないんだよな。


 けれども、なるべく全ての選手を試合に出してあげたい。スターティングメンバー以外も。代打や代走、守備固めなど。そういう場面を予想して準備させてあげたい。


「お願いします」

「はい。じゃあ、いくね」


 俺は防球ネットから投げて、打者のスイングを観察する。うん。いいね。パワーを感じるな。放物線を描いて、ボールが飛んでいく。無駄な力みを取れば、もっと飛びそう。


 次の子は、鋭いスイング。いいじゃないか。取るのが難しそうなゴロが何球も続けて転がっていく。


 この子は、ちょっと惜しい。振ることだけに集中しすぎて、芯を外しているかな。視線と、体の動かし方が少し下手でパワーが分散している。足も使えていないな。色々とアドバイスできそうな部分が多い。


 楓と真琴は、バッテングもずば抜けている。彼女たちの能力の高さを見ているはず。それでも試合には出さなかった顧問は、メンバーをよほどの独断と偏見で決めていたんだろう。やっぱり、勿体ないことだ。そんな理由で、彼女たちを試合に出さないなんて。

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転生人生ごっちゃまぜ~数多の世界に転生を繰り返す、人生の旅人~ キョウキョウ @kyoukyou

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