第270話 初めて野球の監督を任されて
楓と真琴に連れられて、とある教室まで来た。そこには、ユニフォームを着ている補欠チームの選手たちが、席に座って待ち構えていた。教室に入った瞬間に彼女たちの視線が、一気に集まる。見られているな。
「阪村理人さんが来てくれたぞ!」
「「「うおおおおおっ!」」」
楓が声を上げると、女子たちがすごい勢いで席から立ち上がって大騒ぎしていた。どういうテンションなんだ、これ。驚いて戸惑っている間に、話が進んでいた。
「彼の指示に従えば、必ず勝てる!」
「「「ウォぉぉぉぉっ!!」」」
まだ何をやるのか聞かされていないが、かなり頼りにされているような雰囲気だ。
「絶対に私たちが勝つぞ!」
「「「おーっ!!!」」」
やる気を出す女の子たち。まずは話を聞かせてほしいな。
しばらく皆が落ち着くのを待ってから、話し合いが始まった。
「このチームを、理人にまとめてほしい」
「それって、監督になって指揮しろってこと?」
俺が問うと、楓は頷いた。いきなり、そんな。
「いやいや、俺は野球未経験者だよ。テレビで試合とか見たことあるけれど、指揮を取るのは出来るのかどうか――」
「大丈夫。きっと、理人なら出来る」
断言する。楓も真琴も、どうしてこう、俺のことに対して自信満々なのか。
「理人は、人を見る目がある。能力があるかどうかを見極められるし、体の動かし方とか、基本的な部分の知識が豊富にある。私には、それが出来ないから」
「居てくれるだけでも、チームの士気は上がるから。お願い」
ものすごく期待されているみたい。彼女たちには勝ってほしいと思うから。そんなお願いの仕方をされたら、こう答えるしかない。
「わかった、やってみるよ」
俺が言うと、2人は嬉しそうに笑った。そして、周りにいる補欠チームの選手たちも喜んでいた。
「「「監督、よろしくお願いします!」」」
帽子を脱いで、頭を下げる女の子たち。早速、監督と呼ばれて受け入れられた。こんなにあっさり認めて、大丈夫なのかな。だけど、協力的なのはありがたい。
早速、チームの守備位置や打順を決めるため、彼女たちの能力を見せてもらうことにした。教室では動きを見れないので、外へ移動する。
学校のグラウンドはレギュラーチームの練習に使用するらしいので、俺たちが使うことは許されなかった。仕方がないので、学校の近くにある公園の広場まで来る。そこに、誰でも使える野球のグラウンドがあった。
俺が学校の外に出る許可とか、野球部の練習を見学する許可とか、いろいろと面倒だった。なんとか申請を通して、最速で許可を得る。
ただし条件があって、外へ出ていくのに学校の先生が1人同行することになった。その女性は、顧問の先生とは別の人。
「すいません、俺の都合で仕事を増やしちゃって」
「いえいえ、いいのよ。気にしないで」
「なんだか、貴方も大変そうね。野球部の騒動に巻き込まれちゃったの?」
「むしろ、自分から首を突っ込んだ感じですね」
高橋先生に、簡単な事情について説明する。
顧問の先生が、部員を実力ではなく好き嫌いで試合に出してくれないこと。その不満を顧問にぶつけると、試合することになったこと。勝てば実力を認めて試合に出してもらえるけれど、負けたら野球部を辞めさせられる。
「えぇ! なにそれ、酷い話。そんなの、今すぐ学校に報告するべきでしょう」
顧問の先生の話を聞くと、彼女は怒ってくれた。その通りだと思う。だけど、楓と真琴、他の皆も戦う気になっている。
彼女たちは、今回の試合で負けてしまったら野球部を辞める覚悟で挑んでいた。だからこそ、彼女たちの望み通りにしてあげたい。楓と真琴の2人がチームに居たら、試合には負けないと思う。ついでに、本当の実力もアピールできる。
まあ、ちょっと過激な考え方かもしれないけれど。この勝負は、挑戦するメリットがあると踏んでいた。
「とりあえず、戦いの準備をしてみます」
「そう。それじゃあ私は、このチームが勝てるように、応援するわね」
ということで、補欠チーム選手の能力を自分の目で確認してみる。
「理人がノックする?」
「うん。久しぶりに、やってみよう」
真琴から通常よりも長くて細いバットを受け取り、打席に立った。ボールを片手に持って、一塁の方へ向く。
島に居た時、楓と真琴の練習に付き合った時には俺がノックを打っていた。これは未経験ではないので、やれる。
「じゃあ、いくね」
「お願いしまーす」
一塁ベースの近くに立つ選手に向けて、ノックを打つ。体の動かし方やグラブの構え方、捕球体勢を確認してみる。どれぐらいの実力があるのか、俺なりの判断基準で見極めてみよう。
「空振りしないし、ちゃんとゴロ打ってるよ」
「すごっ。バットのスピード、お前より早くない?」
「打ち損じもないし、ボールが見えてるね」
「ちゃんと、打ってる」
「男子なのに、凄いな」
「あんな男の子、見たことないよ」
「というか、バットを振る男の子の姿、良くない?」
待機している選手たちの声が聞こえてくるが、とりあえず無視。今は、選手たちの能力把握を優先する。
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