第5話 最後の責任


 髪型を変え、生活環境も変えた。美味しい物を食べに行ったりし体重も増やした。外見が内面を変えるのか? 俺と一緒にいる事が楽しいのか? 妹は笑顔でいることが多くなり、性格も明るくなった。まあ、オタクなのは変わらないけど……でも、これなら……彼氏、作れるんじゃないか?


 俺はこの一ヶ月で妹に対してやれる事は全部やった。

 これで彼氏が出来なかったら……いいよ、責任取ってやるよ!


 それだけ自信があった。今の妹は見違えた……1ヶ月前ボサボサ頭で芋ジャーを着てたあの時とは比べ物にならない位に……。


「よし……これで完璧だ、萌、今のお前なら彼氏が出来てもおかしくない!」


「本当?」


「ああ、よっぽどの事が無い限り行ける……と思うぞ」

 俺が見ても可愛いと思える位に変わった、この間一緒に出掛けた時も、何人もの男が妹を見て振り返っていた。


「本当!」


「ああ、大丈夫だよ、あ、そうだ聞いた事なかったけど、お前ってさ、好きな人とか居ないのか?」


「いる……よ」


「……そ、そうなの? か、あはははは、なんだ早く言えよ、そうか……あ、じゃあ……そいつの好みを調べた方が手っ取り早かったんじゃねえかよ」


「え……う、うん……」


「まあ……でもさ、今のお前なら、大丈夫だよ、うん……」


「本当に?」


「……ああ、本当だ、俺が保証する!」


「……」

 俺がそう言うと妹の顔から笑顔が消えた。


「ど、どうしたんだ?」


「ううん……」


「なんで……そんなに寂しそうな」


「お兄ちゃんはさ、私に彼氏が出来たら……嬉しい?」


「え? そ、そりゃ……」


「私ね……楽しかった、お兄ちゃんとずっと一緒に居れて、一瞬にお出かけして、この一ヶ月凄く楽しかった」


「そ、そか……」


「ありがとうね……お兄ちゃん」


「あ、ああ……」

 俺も……楽しかった……毎日一緒にいても、全然嫌じゃなかった。


「……じゃあ……私、今から……告白……して来ます」


「え?!」


「駄目だったら、お兄ちゃん……責任取ってくれるんでしょ?」


「いや、それは……ああ、取るよ責任取ってやるよ!」


「本当?」


「ああ……でも……大丈夫、今のお前なら絶対に大丈夫だよ!」


「そか……」


「ああ……」


「……じゃあ、行ってきます」

 妹はそう言うと俺の部屋の扉を開ける。良いのか?……あの扉が閉まったら……もう妹は……。

 そして妹はゆっくりと扉を閉める、こちらを振り返らずに、俺を見ずにゆっくりと……。

 

 俺と妹の楽しい夏休みが……今、終わった……終わってしまった。


「良いんだ、これで……」

 これで良かったんだ、妹も好きな人と……っていうか、ちょっと待て、妹の好きな奴って誰だ? あの総受けとか言ってた、妹の事をバカにした奴か?


 いや、駄目だろ、そんな奴最悪だろ? そんな奴に告白して、オッケーされるとかマジで外見しか見てないって事じゃねえか!


 駄目だ! 俺はそんな奴の為に妹をあそこまで可愛くしたわけじゃねえ!


「まだ間に合う! 今ならまだ」

 俺は立ち上がり、扉を開け部屋を飛び出す! 妹を追いかけ、追いかけ……。


「お、お前……なんでここに?」

 妹は俺の部屋の前に立っていた。


「ん? お兄ちゃん出てくるのを待ってたの」


「俺の事を? な、なんで?」


「……好きな人に告白をする為に」


「……は?」

 そう言うと妹は俺に向き合い、今までで最高の笑顔で言った。


「お兄ちゃん……ずっと好きでした……私と付き合って下さい!」



「……はあああ?」


「駄目かな?」


「いや、そんな……だ、駄目だろ駄目だよ! お、お前何言ってるんだ?」


「そうかーーー駄目かーーー」

 

「なんで棒読みなんだ、いや、駄目だ、兄妹で付き合うとか」


「わかった! じゃあお兄ちゃん、責任取って!」


「は?」


「駄目だったら責任取ってくれるんでしょ?」


「あ! あああ!」


「言ったよね? 告白が駄目だったら、彼氏が出来なかったら責任取るって、私、お兄ちゃん以外と付き合うつもり無いよ?」


 妹はウインクしながら俺にそう言った……そうか、俺は……まんまと嵌められたのか。


 一体どこから? 俺に責任取れって言った所から? 最初に泣きついた所から? まさか、もっと前……そうだよここ1年くらいであいつ急にオタクになり、だらしなくなったんだ。こいつは小学校までは評判の美少女だったんだ……それが急に……。


 まさかこの日の為に……全部?!


「どうするお兄ちゃん? 付き合う? 責任取る?」


「いや、それは……」


「約束したよね?」


「した……」


「どうする~~~♪」


 嬉しそうに俺に向かってそう言う妹……悔しい、悔しいけど……どこかでホッとしている自分がいた……俺が作った俺好みの女の子に、可愛い女の子に、好きって言われて……俺は凄く嬉しかった。たとえそれが妹だとしても……。


「わかった……わかったから……最後に一つだけ聞かせてくれ」


「なーーに?」


「お前本気なのか?」


「当たり前でしょ?」


「――わかったよ」


 俺は妹を抱きしめた、強く強く抱きしめ、そして耳元で囁いた。


「責任……取ってやるよ……」

 妹に彼氏を作るって言った責任、妹に彼氏が出来なかった責任


 どっちの責任を取ったかは……いつか……また。














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妹に彼氏が出来なかったら、俺が責任を取る事になった。 新名天生 @Niinaamesyou

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