妹に彼氏が出来なかったら、俺が責任を取る事になった。

新名天生

第1話 妹再生計画その1


「おにいじゃん、おにいいいじゃああああん」


 ボサボサ頭、芋ジャー、ガリガリの身体、メガネ、腐女子、自他共に認めるオタク、これが俺の妹だ。俺の妹……芋うと……。


「おにいじゃんってばああああ」


「な、なんだようるせえなあ」


「もうおわた、私の人生おわたよお」


「とっくに終わってるだろ……」


「ひ、酷い、おにいじゃんまでえ、おにいじゃんまでえ、うわーーん」

 俺の部屋に来るなり俺にすがりながら泣きつく妹、あーーあ、ズボンが涙と鼻水でぐちゃぐちゃだよ……


「わかったから、ほら何があったんだ? 聞いてやるから」

 妹の頭をポンポンと叩き慰めつつ、話をするように促す……なんか髪の毛ごわごわしてるな……。


「うん、えっぐ、うえっとでえ、ぐらずだんじ、でえ、あだずの」


「わからん! 一旦落ち着け、ほら鼻かんで」

 俺はティッシュを取り出すと妹の鼻に押し付ける。


「びーー」

 妹は構わず鼻をかんだ、大量の鼻水にティッシュが濡れて行くのがわかる。


「ああ、もう、きったねえなあ……」


「うぐう、このティッシュおにいじゃんがいつもエッチな事に使ってる奴じゃ」


「うるせえ! そう言う事は言わんでいい、はよ何があったか話せ」


「うん、えっとね、えっとね、昨日本屋に行ったらねクラスのね、ちょっと気になってる男の子がね、友達と話しててね、私、うえへへって感じで見てたの」


「うえへへってなんだよ」


「だってだって、その子総受けだよ、もう、生まれついての総受顔であんな総受け見た事ないってくらいの総受け、もう総受けの中の総受けで、うえへへ」


「『そううけ』とか、わかんねーけど、どうせBLの事なんだろ? 男の中の男みたいに使ってんじゃねーーよ、で? それが泣くような事なのか?」


「ちが、違うのおおお、そいつがね、そいつが、総受けの癖にね、そいつがあ」


「癖にって、好きなのか嫌いなのかよくわからねえなあ、で、そいつがどうした?」


「私の事見てオタクってえ、キモいってええ、総受けの癖に総受けの癖にいい」


「なんだ総受けの癖にって、オタクはオタクだろ、キモいって……まあ……」

 多分妹はその芋ジャー姿で本屋に行ってBL本を漁っていたんだろう……そりゃそんな姿を見れば誰でもそう言うよなあ……。


「あうう、私……キモいんだああ、一生彼氏とかできないんだああ、一生、処女なんだああ、わたじ、処女のまま死んでいくんだああ、うわーーん」


「わかった、謝る、謝るから、泣くな」


「だっでええ、おにいじゃんまでええ、おにいじゃんまでえええ」


「大丈夫大丈夫、お前小学生までは可愛いかったから」


「うわーーん、おにいじゃんロリコンだったああ」


「誰がロリコンじゃ!」

 ああ、もいい加減にしてくれ、毎度毎度世話ばっかりかけさせやがって。


「うわーーん」


「ああ、もうどうすりゃ良いんだよ!」


「処女のまま処女のまま死にたくないい」


「処女のままって、お前まだ高1だろ、諦めるには早すぎるだろ?」


「だっでええだっでええ」


「大丈夫だって、蓼食う虫も好き好きって言うだろ、お前の事を好きになる奴だってどこかに」


「たで! たでってなんだかわからないけど、お兄ちゃんにバカにされたああ」


「ああ、もう、どうすりゃ良いんだよ?」


「ううう、せ、責任取って! 私に酷い事言った責任取って!」


「責任って、なんだよ? なんで俺がそんな責任を」


「……そうだ! お兄ちゃんが貰ってくれれば良いんだよ!」


「貰うって何をだよ」


「私の処女!」


「貰えるか!」

 アホだ、この妹はアホすぎる……どこのエロ同人誌の話だよ。


「うわああん、おにいじゃんまで要らないって、私は要らない子なんだあああ、うわーーん」


「ああ、もうわかったから、うん、そうだ俺がなんとかしてやる」


「――ひ、ひっく、ひ……な、なんとか? 貰ってくれる……の?」


「ち、ちゃうわ、俺がお前をなんとかしてやる……なんとか……そうだ、彼氏が出来る様にしてやるから、な? だから泣くな!」


「ホ、ホント?」


「ああ、任せろ」


「ホントにホント?」


「ああ、大舟に乗った気でいろ!」


「やったあああ、お兄ちゃんが私を女にしてくれるってええええ」


「いやいや言ってない、そんな事は言ってないぞ!」


「だって言ったよね、なんとかするって、つまりなんとも出来なかったら責任取ってくれるって、事だよね? お兄ちゃん」


「そ、それは……」


「嘘ついたああ、おにいじゃんがああ、嘘ついたああ、出来もしないのに適当な事言ったああああ」


「わーーーった、わーーーったから、取る責任でもなんでも取るから、真剣にやるから、だから泣き止め」


「うん!」


「あっさり泣き止んだな……」

 何か妹に誘導された感が否めないが、とにかく俺は妹に彼氏が出来る様にしなければならなくなった……マジかよ。


 妹をなんとかしなければ……さもないととんでもない罰ゲームが、人生の終わる罰ゲームが待っている。

 妹再生計画……失敗すれば責任を取る……なんて糞ゲーだよ! いや、なんてエロゲーだよ!


「そんじゃ早速やるか」


「やる? 私の処女貰ってくれる?」


「貰わねえって言ってるだろうがあ!」


「えーー」


「えーーじゃねえ、なんで初手から諦めてんだ!」


「だってええ、無理だよおお、考えたけど、私が誰かと付き合うとか無理だよお、だからお兄ちゃんが貰ってくれれば全部解決するでしょ、私は処女で死なないで済む、お兄ちゃんは気持ちいい、Win―Winでしょ?」


「妹となんて気持ち悪いだけじゃ!!」


「じゃあ妹と思わなきゃ良いじゃん、おな……ぐううう」


「そおおれえええぐらいにいいしとけえええええ!!」


「わがっだ、わがっだ、がら、おぢいじゃん痛い痛いお」

 俺は両手で妹のほっぺをむんずと掴み強く捻ってアホな妹を黙らせた。


「……乱暴にしないで……初めてなんだから……もっと優しく……ね?」


「キモいって言ってるんだ、さあ、やるぞ」


「いやんお兄ちゃん……やるって」


「話が進まねえええ、やるって言うのはお前をモテる、いや、せめて彼氏が出来る様にする事だ!」


「ぶうう」


「ぶううじゃねえ!」


「ハイハイどうせ無駄だと思うけど~~」


「やーーるーーきーーを、だせええ!」

 駄目だこのままじゃ本当に責任を取らされる。


「いいか? まず第一にお前には清潔感が無い! いつもボサボサ頭で芋ジャーで!」


「失礼な、私だってちゃんと……たまにはお風呂くらい入ってます!」


「そういう清潔感じゃ…………お前、い、今……たまにって言ったか?」


「うん?」


「いや、お前……風呂っていつ入った?」


「うーーーんと、今夏休みであまり外に出てないし、汗もかいてないからえっとね」

「指折り数えるな! 昨日出掛けてるだろ! っていうかそんな問題じゃない! まずは風呂だ、風呂にはいれ!」


「えーー」

「えーーじゃねえええ!」


 俺がマジギレすると、妹はしぶしぶ風呂に向かった。

 はあ…………マジかマジなのか……ここまで酷いとは……。

 妹再生計画……。

 俺と妹の壮絶な戦いは、今幕を開けた。

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