エピローグ

エピローグ

「――ごめんね! 遅くなっちゃって!」


 車から降り立ったあたしは第一声、周囲に響き渡らせるように大声で叫んだ。

 胸元の抱っこ紐の中では、我が娘が手足をバタつかせながら嬉しそうにはしゃぐ。

 あれから五年、横たわった桜の大樹から見る荒れた大地は、ここを離れた時と何も変わっていない。


「本当にいいんだか?」

「当たり前じゃない、もう住民票だって移したしね。リベンジよ、リベンジ」


 遅れて車を降り、あたしの肩に手を掛ける耕作。その確認の言葉に、あたしは自信たっぷりに答えてみせた。

 ミドリおばあちゃんに譲ってもらった大屋敷が、今日からあたしたちの我が家。

 一家五人の大所帯の生活が、またこの奥日多江で始まる。


「コルァッ、耕作っ! いつまでいちゃついてんだ。早く行かねえと、日さ暮れちまうだよ」

「二人とも、こんなじじいの言うことなんぞ放っておいたらいいべした。久しぶりに帰ってきたんだから、慌てることねえだよ」

「かぁーっ。うるせえだな、このババア」


 車内で口喧嘩を始めた祖母と耕作の祖父。

 今となっては日常の光景だけれど、喧嘩するほどの仲の良さ。いつもながらに微笑ましい。


 横たわる、あの日倒れてしまった桜の大樹。

 その側に、小さな桜の木が健気に花を咲かせているのを見つけた。きっと倒れた時に散乱した枝が、根付いたのだろう。

 しゃがんでそれを眺めるあたしに向かって、耕作がからかってみせる。


「やるだか、桜まつり!」


 あたしは、晴れ晴れとした気持ちを表情にあふれさせながら、耕作に自信たっぷりにうなずいてみせた。


「――うん! でもまずは神社に行って、氏神様にご挨拶しなくちゃね」


(完)

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神様のかくれんぼ 大石 優 @you

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